あぶらだこ1983年超幻ライヴ映像! | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

あぶらだこ1983年ライヴ映像 (渋谷屋根裏, 1983)

TV Broadcast shooting at 渋谷屋根裏, August 1983
All lyrics and music written by Hirotomo Hasegawa, expect 「エルサレムの屈辱」written by Akio Izumi
(Tracklist)
1. 童愚 - 3:43
2. 米ニスト - 2:20 :  

3. エルサレムの屈辱 - 2:34
4. Fun - 0:49
5. クリスタル・ナハト - 1:18
6. ランニング・ハイ - 2:32
7. 無 - 0:50 :  

8. White Wolf - 2:33
Total Time: 16:23
[ あぶらだこ ]
ヒロトモ (長谷川裕倫) - vocal
イズミ (和泉明夫) - guitar
ヒロシ (小町裕) - bass
マル (丸井義則) - drums

 このライヴ映像はハードコア・パンク~ポジティヴ・パンクの特集のためにテレビ収録されたものがソースになっているようです。収録日は日付不明ですが、屋根裏は当時渋谷駅前(モアイ像正面!)のキャバレー・ロンドンが地下と1階に入居していたビルの確か4階で、エレベーターもなかったことから建築基準法改定以前の古いビルだったのでしょう。観客は客入れ前まで階段に列を作って待たされたものです。小学校の教室程度の小屋でキャパシティはスタンディングで100人前後、椅子やテーブル席が出てその半分以下といったところでした。この日の出演は順にJETBOY、あぶらだこ、The Comes、Laughin' Noseで、合わせて2時間の出演時間だったためセッティング時間を含めて各バンド20~30分のステージだったようです。この4バンドは1981年~1982年にかけて結成・活動しており、同年12月にファースト・ソノシートを自主リリースするLaughin' Noseはすでにトリを取るほど人気があり、The ComesはGAUZE、G.I.S.M.、THE EXECUTEと並んで「ハードコア四天王」と呼ばれてLaughin' Noseに次ぐ人気でした。一方あぶらだこは1983年8月、ファースト・ソノシート「あぶらだこ」を自主リリースしたばかりでしたが、曲が短いのは当時のハードコア=ポジティヴ・パンクに共通するとして、ほとんど聴きとれない(聴き取れても意味不明の)ヒロトモのヴォーカル・スタイル、メンバーの異様な風貌、乗ろうとしても観客を置き去りにする分断された変拍子ビートで日本のハードコア・パンク、ポジティヴ・パンク・シーンにあっても異彩を放っていたカリスマ的存在でした。ヒロトモのヘアスタイルはのちにBUCK-TICKやBY-SEXUALに、ヴォーカル・スタイルは筋肉少女帯の大槻ケンヂに受け継がれます。

 この時のテレビ収録はオン・エアされたか不明ですが、あぶらだこ、The Comesの出演分だけ未編集のオリジナル・マスターが残っており、The Comesも20分に満たないステージですが、あぶらだこのステージは16分そこそこで全8曲(そのうち冒頭4分はインストルメンタル曲「童愚」)というもので、始まるとあっという間に終わってしまう、ソノシートやEP音源を聴いていなければ楽曲の判別もつかず、どこで曲が変わったともわからずひたすら爆走する、呆気に取られるものです。あぶらだこは1983年12月に徳間JAPANレコードからのオムニバス盤『Great Punk Hits』に代表曲「米ニスト」「クリスタル・ナハト」を提供し、1984年9月には6曲入り12インチ・ミニアルバム『あぶらだこ』を自主リリースしますが、この1983年8月のライヴ時点ではファースト・ソノシートの6曲のみしかレコード化されていなかったので、ほとんどの観客はあぶらだこのライヴにただただ唖然とするばかりだったでしょう。この記事でも、映像にテロップがないためCD音源と聴き較べて楽曲を特定し、トラックリストにまとめるのも一苦労でした。

 1984年9月に12インチ・ミニアルバムを出したあぶらだこにはメジャー・デビューの話が舞いこみましたが、VAPからメジャーデビューが決まったLaughin' Noseにドラムスのマルが引き抜かれたので、Ruinsの吉田達也をサポート・ドラマーに徳間ジャパンからメジャーデビュー・アルバム「あぶらだこ」を発表したのは1985年8月でした。ちなみにあぶらだこのアルバムは全作タイトルが単にバンド名の『あぶらだこ』なので、デビュー作はジャケットから通称「木盤」と呼ばれます。Laughin' Noseのメジャーデビュー・アルバムは11月発売になりましたがすでに人気は高く、インディー・レーベルから2枚のアルバムをヒットさせており、メジャーデビュー前にワンマンで日比谷野外音楽堂を満席にしていました。メジャー・デビューを機にステージも私服、ノーメイクでこなすようになったあぶらだこは、ほとんどレッド・ツェッペリン的なブルース・ロック、サイケデリック・ロック、プログレッシヴ・ロックのミクスチャーに加えて、従来のハードコア・パンクを融合させたスタイルに踏みこみます。キャプテン・レコードから発売拒否され、ディスク・ユニオンから自主制作盤でリリース(CD化以降徳間ジャパンで再発)された1986年12月発表の第2作(通称=青盤)から伊藤健一がドラムスに正式加入し、1989年4月の第3作(通称=亀盤)は再び徳間ジャパンからのリリースでした。1996年1月に第4作(通称=釣り盤)をキングからリリース後に創設以来のギタリスト和泉が脱退、後任ギタリストに大國正人が加入し2000年10月に第5作(通称=月盤)をミディから、2004年6月の第6作(通称=穴/トンネル盤)と2008年6月の第7作(通称=舟盤)はP-Vineからリリースされました。25年間でソノシート1枚、ミニアルバム1枚、ライヴ・シングル「翌日」(2004年自主リリース/デビュー・アルバム収録曲、全1曲23分41秒)、フルアルバム7枚+初期音源編集盤が全作品です。全員音楽専業ではないバンドですが、メンバーチェンジも30年あまりの間ほとんどなく、2009年に結成26周年ライヴを行ってからは事実上活動を休止しています。

 あぶらだこの本領はメジャー・デビュー以降の傑作「木盤」「青盤」「亀盤」にありますが、バンド自身がずっと再発売を拒んでいた初期ソノシート、ミニアルバムをようやくCD化に同意したコンピレーション・アルバム『あぶらだこ1983-1984 (ADK)』は同時期に発祥したスラッシュ・メタルとは対極に位置するもので、ストレートなパンク・ロックらしい構成の楽曲がほとんどなく、2分にも満たない曲ですらブレイクやテンポ・チェンジ、変拍子がふんだんに盛り込まれています。1982年に活動を始めてまったく姿勢に変化のないバンドというのは世界的にも珍しいでしょう。逆にジャンルの解釈の変化からあぶらだこはメタルやプログレッシヴ・ロックにも、ノイズ/インダストリアルにも分類されるようになりました。この初期音源を集めた編集盤ではまだ「木盤」「青盤」「亀盤」で開花するその片鱗が見える程度ですが、これは今なお異形の存在感を放つ日本の'80年代ロックの記念碑的音源です。あぶらだこほどヴォーカル、ギター、ベース、ドラムスだけのソリッドなアンサンブルに徹したバンドはほとんどキング・クリムゾンの『Red』やレッド・ツェッペリンの『Presence』に匹敵し、これほど録音ギミックに依存しないサウンドはありません。その姿勢は初期音源の時点から始まっていることもわかります。かつては超幻で限定プレス・再発売拒否だった初期自主制作時代の音源を、ライヴ映像ともどもお楽しみいただけたら幸いです。
あぶらだこ1983-1984 (OKレコーズ, 1999) :  

all songs & lyrics written by Hirotomo Hasegawa / *except 3 & 16 songs written by Akio Izumi
(Tracklist)


1. ランニング・ハイ - 1: 33
2. 忍耐 - 0:58
3. エルサレムの屈辱 - 3:03
4. 絶句 - 2:59
5. 無 - 0:48
6. 原爆 - 4:45
*1-6; Taken from Aburadako 7" flexi-disc, original release 1983.8, recording at Otsuka Penta E Studio
7. 米ニスト - 1:06
8. クリスタル・ナハト - 1:20
*7, 8; Taken from 徳間JAPAN Records "Great Punk Hits" compilation, original release 1983.12


9. White Wolf - 3: 04
10. Logos - 2:16
11. 煉瓦造りの丘 - 2:16
12. 童愚 - 2:40
13. 鏡の風景 - 2:31
14. Out Of The Body - 4:02
*9-14; Taken from Aburadako 12" mini album, original release 1984.9, recorded at Penta 1 Studio, Tokyo, 1984
15. Fun (Live) - 1:39
*15; Live recorded at Shinjuku Jam, 1984.1.19
16. エルサレムの屈辱 (Live) - 2: 36
17. White Wolf (Live) - 2:23
*16, 17; Live recorded at Shibuya Yaneura, 1984.4.14
18. 忍耐 (Live) - 0:52
*18; Live recorded at Shibuya Yaneura, 1984.3.4
[ あぶらだこ ]
ヒロトモ (長谷川裕倫) - vocal
イズミ (和泉明夫) - guitar
ヒロシ (小町裕) - bass
マル (丸井義則) - drums

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)