クラフトワーク(14) エレクトリック・カフェ&ザ・ミックス (EMI, 1986/1991) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

クラフトワーク - エレクトリック・カフェ&ザ・ミックス (EMI, 1986/1991)
クラフトワーク Kraftwerk - エレクトリック・カフェ Electric Cafe (Techno Pop) (EMI, 1986) 

Released by EMI ‎Records 1C 064 24 0644 1, November 10, 1986
Produced by Ralf Hutter, Florian Schneider & Karl Bartos
All Lyrics & Composed by Ralf Hutter, Florian Schneider & Karl Bartos expect A2, A3 by Hutter, Schneider, Bartos & Emil Schult, B3 by Hutter, Schneider, Bartos & Maxime Schmitt
(Side 1)
A1. ボウイング・ブーム・チャック Boing Boom Tschak - 2:57
A2. テクノ・ポップ Techno Pop - 7:42
A3. ミュージック・ノン・ストップ Musique Non-Stop - 5:45
(Side 2)
B1. テレフォン・コール The Telephone Call (Der Telefon-Anruf) - 8:03
B2. セックス・オブジェクト Sex Object (Sex Objekt) - 6:51
B3. エレクトリック・カフェ Electric Cafe - 4:20
[ Kraftwerk ]
Ralf Hutter - voice, vocoder, keyboards, electronics, mixing engineer
Florian Schneider - vocoder, speech synthesis
Karl Bartos - electronic percussion (and voice on "The Telephone Call")
クラフトワーク Kraftwerk - ザ・ミックス The Mix (EMI, 1991) 

Produced by Ralf Hutter & Florian Schneider
(Side A)
A1. ザ・ロボッツ The Robots - 8:56
A2. コンピューター・ラヴ Computer Love - 6:35
(Side B)
B1. ポケット・カルキュレーター Pocket Calculator - 4:32
B2. 電卓 Dentaku - 3:27
B3. アウトバーン Autobahn - 9:27
(Side C)
C1. 放射能 Radioactivity - 6:53
C2. ヨーロッパ特急 Trans Europe Express - 3:20
C3. ABZUG Abzug - 2:18
C4. メタル・オン・メタル Metal On Metal - 4:58
(Side D)
D1. ホーム・コンピューター Home Computer - 8:02
D2. ミュージック・ノン・ストップ Music Non Stop - 6:38
(Original EMI "Electric Cafe" LP Liner Cover & Side 1 Label)

 クラフトワークは'83年にニュー・アルバム『Technopop』の発売予定を発表し、先行シングル「Tour de France」をリリースしましたがアルバムの完成は難航し、結局「Tour de France」を含まない新作アルバム『エレクトリック・カフェ (Electric Cafe)』が発売されたのは1986年11月になってからでした。クラフトワークの次作は全曲がこれまでの代表曲の最新再録音による1991年の『The Mix』になり、「Tour de France」を含むアルバムは2003年の『Tour de France Soundtrack』でようやく完成します。クラフトワークは2009年に『Autobahn』'74から『The Mix』『Tour de France Soundtrack』にいたるスタジオ・アルバム(つまり初期3作は含まず)をリマスタリングし、ボックス・セットとアルバム単品分売のインターナショナル版(英語版)・ドイツ語版両方の『The Catalogue』としてリリースしますが、その際に本作は当初の予告タイトル通り『Techno Pop』と改題されました。ジャケットでは4人写っているものの、前作『Computer World』'81からはウォルフガング・フリューアはツアーのみのライヴ・メンバーになり、その兆しはフリューアとともにエレクトリック・パーカッション担当だったカール・バルトスがラルフ・ヒュッター、フローリアン・シュナイダーとともに全曲の共作者にクレジットされた『The Man-Machine』'78から表れていましたが、本作ではついにヒュッター&シュナイダーとともにバルトスもプロデュースにも名前を連ねることになります。当時はそれが明らかにされなかったので、『The Catalogue』でミュージシャン・クレジットが表記し直された時にようやく『Computer World』と本作、次作のリメイク・アルバム『The Mix』はヒュッター&シュナイダーにバルトスの3人でレコーディングされ、フリューアの参加はヴィジュアル・モデルとツアー・メンバーとしてのみだったことが判明しました。確かにメカ人間のクラフトワークが3人では絵になりません。

 5年ぶりの新作になった『Electric Cafe』はひさしぶりにコンセプト・アルバムではない作品になり、アメリカのダンス・チャートでシングル「Music Non Stop」が1位になる成功作になりました。前作の時点では理解されなかった徹底的な精神性の排除による機能性の追求が、純粋な白人音楽でありながら機能性に徹したゆえにラップ、ヒップホップを始めとする黒人音楽にも応用可能なのが本作の頃にはミュージシャンのみならずリスナーの理解も得たのです。クラフトワークは次作『The Mix』で『Autobahn』以後の代表曲を最新機材と新規アレンジで再レコーディングし、『The Man-Machine』以降の研ぎすまされたアレンジ力で、さらに16ビートに細分化したリズム・パターンに全曲を統一し、単なる再録音ベスト・アルバムではない強力なアルバムに仕上げます。世界各国語でリリースされた「Pocket Calculator」は日本盤では日本語ヴァージョン「電卓」とともに収録されています。プロモーションのキー・ヴィジュアルには手足を機械化したメンバー4人のマネキン人形が使われ、ツアー機材ではメンバー4人がノート・パソコンのみで演奏を行うようになります。その後カール・バルトスもメンバーから抜けた後はエレクトリック・パーカッション担当メンバー2人を交代させて17年ぶりのアルバム『Tour de France Soundtrack』2003の発表までヒュッター&シュナイダーを中心に続いていたクラフトワークですが、『The Catalogue』2009発売を機にオリジナル・メンバーのフローリアン・シュナイダーが脱退、ラルフ・ヒュッターはクラフトワークの活動を引き継いで2017年には新規アレンジによるライヴ・アルバム『3-D Catalogue』をリリースしています。『The Mix』はこれを最後にバルトスの脱退を承けたヒュッターとシュナイダーによるそれまでの(『Autobahn』以降の)クラフトワークの総括というべきアルバムで、クラフトワークのような種類の音楽であればこうした最新機材によるリメイクも納得のいく作品です。クラフトワークからどれか1枚、と言えば『The Mix』を上げるのもありでしょう。連続してクラフトワークのアルバムをご紹介してきましたが、『The Mix』までご紹介すれば一応のご案内にはなったかと思います。ヒュッターかシュナイダーのどちらかが抜ければクラフトワークは解散と思われていただけに、ヒュッターがのれんを守った現在のクラフトワークは当初は意外な気もしましたが、シュナイダーとしても円満な関係でヒュッターに託したようですし(2017年脱退、2020年逝去)、それもありかなとも思えます。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)