サン・ラ - ライヴ・アット・ホースシュー・タヴァーン (Transparency, 2008) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ライヴ・アット・ザ・ホースシュー・タヴァーン (Transparency, 2008)サン・ラ Sun Ra - ライヴ・アット・ザ・ホースシュー・タヴァーン Live at The Horseshoe Tavern, Toronto 1978 (Transparency, 2008)
Discs 1-3, March 13th. 1978
Discs 4-6, September 27th. 1978
Discs 7-9, November 4th. 1978
Disc 10 (bonus), WBAI Interview 1968
Released by Transparency Records 0310, 10 cds, Limited 500 copies,2008
Total Time: 7hour 51mins, Bonus Disc: 34mins
All composed by Sun Ra except as noted.
(Tracklist)
◎Disc 1 to 3: March 13, 1978 (Total Time: 3:20:41) :  

(Disc 1)
1-1. Prelude
1-2. Jam / Sky Is A Sea Of Darkness
1-3. Waiting For The Sunrise
1-4. Discipline 27
1-5. Calling Planet Earth
1-6. Lights On A Satellite
1-7. Yeah Man (Fletcher Henderson)
1-8. King Porter Stomp (Jelly Roll Morton)
1-9. Piano Improvisation
(Disc 2)
2-1. Piano Blues
2-2. Untitled Original
2-3. Love In Outer Space
2-4. We Travel The Spaceways
2-5. Flute Duet
2-6. They'll Come Back
2-7. Lightning Drum Solo
(Disc 3)
3-1. Mr. Mystery
3-2. Angel Race
3-3. I'll Wait For You
3-4. Third Planet
3-5. John Gilmore Solo
3-6. Star Dust From Tomorrow
3-7. Springtime In Toronto
3-8. When Sun Ra Gets The Blues
3-9. Piano Solo
3-10. Space Ways Inc. & Space Chant Medley
◎Disc 4 to 6: September 27, 1978 (Total Time: 2:27:47) :  

(Disc 4)
4-1. Lightning Drum Leads
4-2. Processional And Trumpet Solo
4-3. Strange World
4-4. Black Myth
4-5. Sky Is A Sea Of Darkness
4-6. Waiting For The Sunrise
4-7. Discipline 27
4-8. Yeah Man (Fletcher Henderson)
4-9. King Porter Stomp (Jelly Roll Morton)
4-10. East St. Louis Toodle-oo (Duke Ellington)
(Disc 5)
5-1. Ellington Medley (Duke Ellington)
5-2. Sun Ra Organ Solo
5-3. Take The "A" Train (Billy Strayhorn)
5-4. Spaceways Inc.
5-5. Shadow World (With Extended Solos)
5-6. Enlightenment (Dotson, Sun Ra)
5-7. Love In Outer Space
(Disc 6)
6-1. Love In Outer Space
6-2. Untitled Original
6-3. John Gilmore Solo
6-4. Space Is The Place
6-5. Sun Ra Solo Over The Rainbow (Arlen/Harburg)
6-6. Big Band Over The Rainbow (Arlen/Harburg)
6-7. Angel Race
6-8. Somewhere There
6-9. Sun Ra Synth Solo
6-10. The Tale Of Them
6-11. Spaceship Earth
6-12. We Travel The Spaceways
6-13. Chant And Procession
6-14. They'll Come Back
6-15. Myth World
6-16. When There Is No Sun
◎Disc 7 to 9: November 4, 1978 (Total Time: 2:13:31) :  

(Disc 7)
7-1. Percussion Intro
7-2. Strange World
7-3. Black Myth
7-4. Astro Black
7-5. Waiting For The Sunrise
7-6. Discipline 27
7-7. Various Solo Outros
(Disc 8)
8-1. Limehouse Blues (Furber, Braham)
8-2. On The Sunny Side Of The Street (McHugh, Fields)
8-3. Sun Ra Organ Solo
8-4. Do Right Blues
8-5. Enlightenment (Dotson, Sun Ra)
8-6. Space Is The Place
8-7. Sun Ra Synth Solo
8-8. Sun Ra Solo Over The Rainbow (Arlen/Harburg)
8-9. Sun Ra Piano Outro
(Disc 9)
9-1. Watusi
9-2. Lightning Drum Solo
9-3. We Travel The Spaceways
9-4. Processional
9-5. Sky Is A Sea Of Darkness
9-6. The Nine Heavens
9-7. Spaceways Inc. (Outro)
◎Disc 10: 1968 Pacifica Radio Interview (Total Time: 34mins)
10-1. WBAI Producer Dennis Irving Interview With Sun Ra
[ The Sun Ra Arkestra ]
Sun Ra - organ, synthesizer, others
Eddie Gale, Michael Ray, Walter Miller - trumpet
Danny Davis - alto saxophone, flute
Marshall Allen - alto saxophone, piccolo flute
John Gilmore - tenor saxophone, clarinet, timbales, vocals
Danny Ray Thompson - baritone saxophone, flute
Eloe Omoe - bass clarinet, flute
James Jacson - bassoon, flute, Egyptian infinity drum
Dale Williams - electric guitar
Ben Henderson (Jaribu Shahid) -bass
Damon Choice - vibraphone
Atakatune - congas
Luqman Ali - drums
June Tyson - vocals, dances 
(Limited Transparency "Live at The Horseshoe Tavern, Toronto 1978" CD-R Inner Sheet, Liner Cover & Disc 1 Label)

 CD本編9枚組(!)、トータル7時間51分、トロントのクラブ「ホースシュー・タヴァーン(馬蹄酒場)」での1978年3月13日公演(3時間21分)、9月27日公演(2時間28分)、11月4日公演(2時間14分)をCD3枚ずつ(さらに1968年のラジオ・インタビューのボーナス・ディスク34分)に収めた本作は、500セット限定のCD-Rリリースの好評を受け追加プレスもされていますが、流通量が少ないために中古相場でも新品時の価格(1万円前後)で取引されているため、10枚組という大作ということもあって気軽にお薦めできるアルバムではありません。サン・ラ専門復刻・発掘レーベルで定評のあるTransparency社としても、3公演のバラ売りリリースを検討したと思われますが、クラブ側で収録していたマスターテープを一括して入手して、思い切ってボックスセットでの一括リリースに踏み切ったのでしょう。Transparency社は前年の2000年に、サターン・レコーズから1981年に『Beyond the Purple Star Zone』『Oblique Paralax』の2作のアナログLPで発売されていたデトロイトでのクリスマスから新年までの一週間の連続公演をCD-R28枚組(!)のコンプリート版『The Complete Detroit Jazz Center Residency Dec. 26th, 1980 - January 1st. 1981』 (Transparency 0307, 2007)でリリースした前歴があります。28枚組を出してしまえば9枚組などサン・ラのファンはちゃんと着いてくる、だったら1968年のラジオ・インタビュー番組をボーナス・ディスクにして10枚組にしてしまえと、本作はそういう発掘リリースのライヴ盤です。しかも今ではアーケストラ公認の上でYouTubeにまで全編アップされている、とラジオ中継を聴くように手軽に(!?)聴けるアルバムにもなっています。音質もオーディオ的にはともかく、臨場感たっぷりの録音・音質です。

 アーケストラの公式サイトでは完全ディスコグラフィーでも本作の収録曲目を掲載しておらず、また筆者所持の盤では楽曲のトラック分けがされておらず(ディスク1は3トラック、ディスク2とディスク3はそれぞれ1トラックという具合です)、連続して演奏されるライヴの切れ目だけがトラック分けされているだけで、ディスコグラフィー・サイトから曲目を調べて確認することはできましたが、各曲のタイムまで仔細に記載することはできませんでした。ライヴ自体がアーケストラのライヴの常で数曲単位で曲間なしにメドレー演奏されており、CD-R収録時間の関係から3月13日公演(3時間21分)は3ディスクに分けないと収まりませんが、詰めこめば2CD-Rに収録できる9月27日公演(2時間28分)、11月4日公演(2時間14分)を3枚ずつのディスクに分けたのは3月13日公演に倣ってセットリスト単位に分けたものでしょう。ブックレットのザ・ホースシュー・タヴァーン・クラブの写真を転載しましたが、ご覧の通り古風な酒場で、ほぼ40分~50分ずつで1セットが演奏され、本来飲食店の慣例からもお客さんの飲食物の注文や料理の上げ下げを休憩に挟んで2セット目、3セット目と演奏されたものでしょう。アーケストラの恐ろしいところは3セット演奏しても楽曲の重複がないことで、お客さんも飲み物や料理の追加注文をして3セットを浴びるように聴いていた光景が浮かんできます。3月公演は3時間21分と長引いたため、9月、11月公演は演奏曲数こそ3月公演と変わりがありませんが、より1曲ごとを引き締めてアンサンブルによるメドレー演奏が行われたのが曲目からも確認できます。

 本作のメンバーと3公演のセットリストは先にご紹介したやはり発掘ライヴの、9月25日のシカゴ公演『Springtime in Chicago』(Leo, 2006)とほぼ同一で、ただしCD2枚組1時間40分だった同作よりパーカッション・アンサンブルやフルート・アンサンブルの即興デュオ、看板テナーサックス奏者ジョン・ギルモアやサン・ラのオルガンやシンセサイザーの無伴奏即興ソロ・パート、アーケストラ得意のメンバー総出の合唱曲などは倍近くの長さに引き延ばされており、観客の反応も大盛況です。アーケストラは1975年は充電期間でスタジオ録音アルバムの制作もなければライヴもごくわずかで、1976年にはヨーロッパ・ツアーを大成功させ現役最高の黒人ビッグバンドとしての国際的名声をメインストリーム・ジャズ界でも確固たるものにしましたが、1977年の帰国後はアメリカ本国での人気低迷に直面し、サン・ラのソロ・ピアノを始めアーケストラの編成をさまざまに変えて人気挽回に苦戦し、1980年に再び安定したバンド運営を回復するまでの1977年~1979年にはサン・ラ生前の公式アルバムのリリースも年間8枚以上というかつてないほどの多作で苦境を乗り切っています。しかしこのホースシュー・タヴァーンでのライヴを聴くと人気低迷など嘘のようにバンドも観客もノリノリに乗っており、長いソロ回しは「The Shadow World」「Calling Planet Earth」「Discipline 27」などの代表曲に絞っていますが、曲目てんこ盛りの長時間ステージの上に圧倒的な熱演で応えています。何しろライヴ本編だけで8時間近い大作だけに筆者も通して聴くのは今回でまだ10回目にもなりませんが(MP3ファイルに落として寝る時聴いていると、朝起きてもまだ続いているくらいです)、お手元に置いてご家庭やカーステレオで聴くならより凝縮されて一気に聴けもし、くり返し聴いても飽きない『Springtime in Chicago』をお薦めするとして、YouTubeでの試聴で一度でもお聴きいただきたい熱狂のライヴが本作です。アーケストラ歴代の代表曲もほぼ網羅し、ジャズ好きのリスナーの方ならよりいっそう、あちこちにちりばめられた古典ジャズ曲、ジャズ・スタンダードのもじり(「Angel Race」「When Sun Ra Gets The Blues」!)、さらに同時代ジャズの引用(ジョン・ギルモアによる無伴奏即興テナーサックス・ソロには'70年代アーケストラの代表曲「Space Is The Place」とジョン・コルトレーンの「A Love Supreme」をミックスしたフレーズが聴けます)まで、20世紀初頭の創始期ジャズからコンテンポラリー・ジャズまで当時ジャズ80年近い歴史を自在に横断するアーケストラならではの巨大スケールの演奏が聴けます。それが国際的ジャズ・フェスティヴァルなどてはなくトロントの小汚い(失礼!)酒場で延々くり広げられたと思うと、サン・ラ・アーケストラの惜しげもない姿勢に感動すら湧いてくるライヴです。各ステージのオープニングの30分近いパーカッション合戦(これがノーカットで聴けるのも発掘ライヴならではです)だけで引いてはもったいない、意識を1978年のトロントの酒場に飛ばして、一度だけでもいいですから一杯ひっかけるつもりで浴びるようにお聴きいただきたいものです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)