クラフトワーク(9) 放射能 (EMI/Capitol, 1975) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

クラフトワーク - 放射能 (EMI/Capitol, 1975)クラフトワーク Kraftwerk - 放射能 Radio-Activity (EMI/Capitol, 1975) 

Recorded and Produced by Klingklang Studio, Dusseldorf, Germany, 1975
Released by EMI / Capitol Records ST-11457, November 1975 (International Version)
Original German Version Released by EMI Electrola ‎1C 062-82 087 as "Radio-Aktivitat"
Produced by Florian Schneider & Ralf Hutter
Lyrics by Ralf Hutter, Florian Schneider & Emil Schult, All Composition by Ralf Hutter & Florian Schneider
(Side 1)
A1. ガイガー・カウンター Geiger Counter - 1:04
A2. 放射能 Radioactivity - 6:44
A3. ラジオランド Radioland - 5:53
A4. エアウェーヴス Airwaves - 4:53
A5. 中断 Intermission - 0:15
A6. ニュース News - 1:31
(Side 2)
B1. エネルギーの声 The Voice Of Energy - 0:54
B2. アンテナ Antenna - 3:45
B3. ラジオ・スターズ Radio Stars - 3:38
B4. ウラニウム Uranium - 1:24
B5. トランジスター Transistor - 2:15
B6. オーム・スウィート・オーム Ohm Sweet Ohm - 5:40
[ Kraftwerk ]
Florian Schneider - voice, electronics
Ralf Hutter - voice, electronics
Karl Bartos - electronic percussion
Wolfgang Flur - electronic percussion
(Original EMI / Capitol "Radio-Aktivitat" LP Liner Cover & Seite 1 Label)

 全米アルバム・チャート最高位5位の大ヒット・アルバム『アウトバーン(Autobahn)』の成功によってEMI/Capitolレコーズに好待遇で移籍した本作から、クラフトワークはアルバム全編を英語タイトルと英語詞によるインターナショナル・ヴァージョンとドイツ語タイトル・ドイツ語詞によるドイツ国内ヴァージョンの2通りでリリースするようになり、シングル曲のみフランス語、スペイン語など発売各国語ヴァージョンもリリースします。インターナショナル・ヴァージョンの英語詞シングルにはドイツ語ヴァージョンをB面に、ドイツ語ヴァージョンを含む各国語ヴァージョンのシングルには英語詞(インターナショナル)ヴァージョンをB面曲にしました。クラフトワーク自身はドイツ出身を強く意識したグループで、デビュー当時は英語名をバンド名とするタンジェリン・ドリームを批判していたほどですが、国際的存在となってからは英語タイトル・英語詞のインターナショナル・ヴァージョンを国際標準とする一方、律儀にドイツ国内ではドイツ語版をリリースして、あくまでドイツ出身のグループであることを主張し続けました。本作はまた'80年代末まで続いた、創設メンバーのフローリアン・シュナイダーとラルフ・ヒュッターがエレクトロニクスとヴォイス、『アウトバーン』から加入したウォルフガング・フリューアと本作から加入したカール・バルトスがエレクトロニック・パーカッションというクラフトワーク全盛期の4人編成が始まったアルバムになりました。このまったくロックバンドではない4人編成がクラフトワーク以降のエレクトリック・ポップのスタイルを決定することになります。本作はラジオ放送(Radio-Activity)と放射能(Radioactivity)をテーマに作られたアルバムで、ジャケットはナチス政権宣伝省が'30年代に国民必需ラジオとして制定した「国民ラジオDKE38」をデザインしており、アルバム・タイトルの「Radio-Activity」はラジオ放送の意味ですが、ハイフン抜きの「Radioactivity」だと放射能の意味になります。楽曲はラジオをテーマにした曲と放射能をテーマにした曲が交互に並びます。

 クラフトワークの究極的なスタイルは画期的楽曲「Autobahn」を継ぐ次作と次々作『ヨーロッパ特急 (Trans-Europe Express)』'77、『人間解体 (The Man Machine)』'78で完成されるので、「Autobahn」「Trans-Europe Express」「The Robot」「The Model」などの代表曲のイメージから本作を聴くとあまりテクノポップという感じがしない印象を受けるかもしれません。ヴォーカル(ヴォイス)入りの曲が一気に増え、クラフトヴェルク時代からもこれまでLP片面1、2曲~4曲だった構成が本作ではAB面各6曲と小曲単位になりましたが、逆に楽曲の区切りが判然とせず、曲らしい曲は全体の半分(1曲置き)しかないような実験性の強いアルバムに聞こえます。本作はフランスではクラフトヴェルク時代からの最大のヒット作になって年間アルバム大賞を受賞し、フランス国内ではアメリカのアルバムチャートでは最高5位を記録した前作『アウトバーン』をしのぐセールスを記録したそうですが、他の国ではさすがに『アウトバーン』ほどのヒットにはならず、その反省がヒット曲「Autobahn」の路線に戻ってシークエンスの反復とポップなメロディー、リズムの強調に磨きをかけた『ヨーロッパ特急』『人間解体』になったと言えるでしょう。しかし本作が実験的に聞こえるのも後年の完成されたクラフトワークのスタイルからさかのぼった聴き方なので、クラフトヴェルク時代から『アウトバーン』のアルバム全体(特にタイトル曲以外のアルバムB面曲)と順を追ってくると、本作のエレクトロニクス音の構成はいよいよ洗練を増してきたのがわかります。『ヨーロッパ特急』『人間解体』を聴いてから本作を聴くとリズムが稀薄でメロディーもはっきりしないように聞こえますが、クラフトヴェルク時代の3作、『アウトバーン』をA面B面と聴いて本作に移ると音響の純度がまるで違い、いよいよ本格的にテクノ化してきたなというのがわかります。『アウトバーン』には残っていたフルート、ヴァイオリン、ギター、オルガンの生楽器の原型がわかるエレクトロニクス加工音のコラージュから、本作では楽器使用の痕跡のほとんど感じられない無機的な音響とシンプルな定則ビートに純化しています。本作はクラフトワークのアルバム中もっともメロトロンが多用されていますが、ストリングスともメロトロン・コーラスとも木管アンサンブルとも特定できない音色に意図的に加工されているためにメロトロンとは気づきづらい使用は本作以外にはめったに聴けません。ヴォーカル(ヴォイス)の多用はそれらの音響とのコントラストの効果を狙ったものだともわかります。

 またA2「Radioactivity」、A3「Radioland」、A4「Airwaves」などを聴くと'80年代を席巻したヨーロッパ調の哀愁エレクトリック・ポップ路線は「Autobahn」よりもこれらの楽曲から始まっているのがわかり、その方向を洗練させていったのが「Trans-Europe Express」「The Robot」「The Model」など次作、次々作の代表曲になったのがたどれます。定則ビートの導入は徹底され、B2「Axtena」などはトーキング・スタイルのビートにロカビリーのリズム・パターンを乗せたテクノ版ロカビリーの発明がありますし、エレクトリックなオルナタティヴ・ロックのB3「Radio Star」や定則ビートに乗せたインストルメンタル曲B5、B6とともにインダストリアル・ロック(ただしハード・ロック的な要素を徹底的に排除した純粋なインダストリアル指向)の先駆けとなっています。『アウトバーン』から一気に『ヨーロッパ特急』『人間解体』があったのではなく、本作がその過程に、独自の完成度と統一感の高い作品として作られた意義があるのはそうした特色からで、『アウトバーン』ではアルバムA面だけだったコンセプトも本作ではアルバム全編がラジオと放射能をテーマにした内容なのは前述の通りで、これも本作が初の試みになり、以降のクラフトワークのアルバム全作品のテーマ主義の始まりになります。本作初発売時の日本(おそらく欧米諸国でも)ではまだクラフトワークの意図は既成音楽の概念で受けとめられ、日本盤LPの帯のキャッチフレーズは「ナチス・ドイツの魂を継承して、アメリカに侵略を敢行したジャーマン・プログレッシヴ・パワー!」(よくもドイツ大使館から訴えられなかったものです)という、とんでもないものでした。現在ではクラフトワークの音楽はプログレッシヴ・ロックの系譜とは異なる認識が定着し、ピコピコリズムと哀愁の(またはすっとぼけた)メロディーという先入観もかなり薄れたのは俗化したクラフトワークの亜流が当たり前のポップスになったからで、逆に『Autobahn』や本作の先駆性も正当に認められました。本作のコンセプトはインドア的なのでジャケットともに地味になり、その点がより開放的なテーマを持つ『Autobahn』や『Trans-Europe Express』、マシン化の極致『The Man Machine』より本作を室内楽的、または小品的な印象にしている不利はありますが、ヒット曲「アウトバーン」も「ヨーロッパ特急」も「モデル」「電卓」も知らない、またはどんな曲だったっけと名のみ高く聴かれることの少なくなった現在では、精神性もヒット曲も含まない、ただし以降の徹底したコンセプチュアルな作風・方向性を『Autobahn』以上に決定した本作は、前後の大ヒット作よりかえって新鮮に聴くことができるアルバムです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)