クラフトワーク(8) アウトバーン・ツアー (Ranch Life, 1998) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

クラフトワーク - アウトバーン・ツアー (Ranch Life, 1998)クラフトワーク Kraftwerk - アウトバーン・ツアー Concert Classics (Ranch Life, 1998) 

Released by Ranch Life Records ‎CRANCH 4, August 18, 1998
Engendered by Walt
Produced by Steve Weiner
Executive-Produced & Design by John W. Edwards
Japanese Released by Nippon Crown CRCL-4035 as "Autobahn Tour", September 23, 1998
All lyrics written by Ralf Hutter and Florian Schneider except "Autobahn", lyrics by Hutter, Schneider and Emil Schult; all music composed by Hutter and Schneider.
(Tracklist)
1. Kometenmelodie - 11:49 (00:00)
2. Autobahn - 21:54 (11:45)
3. Kling Klang - 10:10 (33:40)
4. Tanzmusik - 4:16 (43:55)
[ Kraftwerk ]
Florian Schneider-Esleben - flute, strings, electronics (echo unit)
Ralf Hutter - electric organ, strings
Wolfgang Flur - percussion
Klaus Roeder - violin, guitar
(Original Ranch Life "Concert Classics" CD Liner Cover/CD Label & Japanese Crown "Autobahn Tour" CD Front Cover/CD Label)

 本作はクラフトワーク公認による正規のライヴ・アルバムではありませんが、『アウトバーン(Autobahn)』(Philips, 1974)のヒットを受けてヨーロッパ諸国~アメリカ・ツアーを行った際に、ツアー先のデンヴァーのラジオ番組用に正式に収録された音源です。クラフトワーク側の意向はともかく公式にラジオ局に提供したことから法的にはラジオ局が権利を取得しており、海賊盤とは一線を画す版権の明確なライヴ音源なので、日本盤もアメリカ盤とほぼ同時にクラウン・レコードから発売されており、輸入盤・国内盤とも正式発売CDとしてもっとも入手の容易な'70年代のクラフトワークのライヴ・アルバムとなっています。初CD化となったアメリカのインディー・レーベル、Ranch Life社版では3, 4曲目が3.「Morgenspaziergang - Part 1」、4.「Morgenspaziergang - Part 2」と曲目を取り違えており、クラウン・レコードからの日本盤『アウトバーン・ツアー』からは上掲の通り「Kling Klang」「Tanzmusik」と実際の曲目に訂正され、Ranch Life盤も再発盤から訂正されています。

 本作はそれまでの西ドイツの実験グループ・クラフトヴェルクから、全米アルバム・チャート最高位5位を記録した大ヒット作『アウトバーン』以降の国際的テクノポップ・バンドのクラフトワークになったもっとも早い時期のライヴ・アルバムであることに価値があり、創設者のフローリアン・シュナイダーとラルフ・ヒュッター二人以外のメンバーも『アウトバーン』と同一です。後半はクラフトヴェルク時代の曲で、「Kling Klang」は『Kraftwerk 2』の、「Tanzmusik」は『Ralf und Florian』の収録曲ですが、『アウトバーン』のクラフトワークのアレンジに生まれ変わっています。『アウトバーン』収録曲の「Kometenmelodie」「Autobahn」は、さすがに完璧なアルバム・テイクと較べると、この時期には機材の限界から再現度に粗がある演奏ですが、かつてデビュー年の1970年のテレビ出演や、『Kraftwerk 2』までのラルフ・ヒュッター不在の時期に、直後にノイ!として独立するクラウス・ディンガー(ドラムス)、ミヒャエル・ローター(ギター)を迎えてヘヴィ・ロックになってしまった1971年のライヴとはまったく違う、クラフトワーク自身のコンセプトに筋の入ったライヴになっており、そうした点でも『アウトバーン』をクラフトワークの真の第1作とするフローリアン・シュナイダーとラルフ・ヒュッターの意向が理解できる内容のライヴです。もっとも本作はクラフトワークによって権利の差し止めがあり、1998年内のプレス以降は海賊盤としてヨーロッパ盤が2005年・2007年にプレスされたきりになっており、入手は容易と言っても現在では中古市場でしか出回っていません。

 クラフトワークの成功によってタンジェリン・ドリームも国外ツアーを行うようになってライヴ・バンドとしても人気を博し、英仏でのライヴ盤『Ricochet』'75、アメリカ・ツアーのライヴ盤『Encore』'77によってより明快なスタイルに作風を変えていきます。何よりこうした電子音楽グループがライヴでアルバム曲を再現すること自体が、当時は画期的なことでした。シュナイダーとヒュッターもクラフトヴェルクの当初はアルバム制作のみのユニットとしてライヴ活動など考えていなかったと思われ、デビュー作のドイツ国内でのヒット、『アウトバーン』の国際的大ヒットがライヴ活動を後押しする形になったと考えられるだけに、ライヴでの反響が直接に以後の音楽的方向性に反映されて、'70年代後半のアルバムごとのスケール・アップにつながったのがクラフトワークにとって吉と出たのがわかります。クラフトワークがコンサート・ツアーで知ったのは「音楽に精神性は不要だが肉体性は必要」で、自分たちの場合は「それも極端に機械化された音楽」という観客からの期待でした。その発想はアルバム制作のみのスタジオ活動だけでは生まれないものだったのが以降のアルバムの飛躍的充実からも確認できます。しかし1974年にはまだラジオ局にライヴ音源の版権を売り渡してしまう手抜かりがクラフトワークにあったので、本作は1970年のロックパラスト・ライヴ、1971年のラジオ・ブレーメン・ライヴとともに貴重なドキュメントとなってます。また放送局にライヴ音源の版権を売却するような手抜かりも、本作が最後になるのです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)