クラフトワーク(7) アウトバーン (Philips, 1974) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

クラフトワーク - アウトバーン (Philips, 1974)
クラフトワーク Kraftwerk - アウトバーン Autobahn (Philips, 1974) 

Released by Philips Records 6305 231 D, November 1, 1974
Produced by Ralf Hutter, Conny Plank & Florian Schneider
All lyrics written by Ralf Hutter and Florian Schneider except "Autobahn", lyrics by Hutter, Schneider and Emil Schult; all music composed by Hutter and Schneider.
(Side 1)
A1. アウトバーン Autobahn (Motorway) - 22:43
(Side 2)
B1. 大彗星(鼓動)1 Kometenmelodie 1 (Comet Melody 1) - 6:26
B2. 大彗星(鼓動)2 Kometenmelodie 2 (Comet Melody 2) - 5:48
B3. 深夜そして姿なき足跡 Mitternacht (Midnight) - 3:43
B4. 朝の散歩 Morgenspaziergang (Morning Walk) - 4:04
[ Kraftwerk ]
Ralf Hutter - vocals, electronics
Florian Schneider - vocals, electronics
Klaus Roder - violin, guitar
Wolfgang Flur - percussion
with
Konrad "Conny" Plank - sound engineer
Emil Schult - cover painting
Barbara Niemoller - Back cover photo
(Original Philips "Autobahn" LP Front Cover with Sticker, Liner Cover & Side 1 Label)

 先行シングル「Kometenmelodie 2」のアルバム・ヴァージョンを含んだスタジオ・アルバム第4作の本作は世界的なヒット作となり、アメリカでもアルバム・チャート10位内にランクイン(最高位5位)。シングル用に3分に短縮編集されたアルバム・タイトル曲「Autobahn」も最高位25位を記録し、西ドイツにクラフトワークありと、国際進出を決定的にした大出世作です。従来のポピュラー音楽の概念からはまったく異なるこの作品が全米アルバム・チャート最高位5位の大ヒットを記録したのがどれほど驚異的な事件だったかは、想像にあまりあります。西ドイツのバンドではすでに実験的な前衛ロックのバンドとしてカン、アモン・デュールII、タンジェリン・ドリームがイギリスやフランスでアルバム・セールス、ライヴ実績とも成功を収めていましたが、実験的な前衛ロックの枠を越えた最新のポピュラー音楽として英米圏に広く認知されたのは、クラフトワークのこのアルバムが初めてになりました。ヒットに伴って全欧・全米ツアーも行われ、ドイツのいち実験音楽グループだったクラフトヴェルクは世界的なポップ・ミュージック・グループのクラフトワークになります。「Kometenmelodie 2」と「Autobahn」のシングルは英語ヴァージョンも作られ、次作『Radio-Activity (放射線)』'75からはアルバム全編が国際版は英語ヴァージョン、国内版はドイツ語ヴァージョン、シングル曲は英語、フランス語、スペイン語など主要発売国ヴァージョンでもリリース(シングルA面は発売国語、B面はドイツ語ないし国際版ヴァージョン)でリリースされるようになります。またタイトル曲「Autobahn」とビーチ・ボーイズ1964年の全米No.1ヒットにしてホッド・ロッド(カーレース)ソングの「Fun Fun Fun」の類似は、このアルバムのリリース当初から指摘されています。 

 本作のヒットにより前3作も未発売だった諸国でリリースされましたが、EMIに移籍した次作『Radio-Activity』のリリース以後は、クラフトワークはフィリップス時代のアルバムは『Autobahn』だけを残して初期3作の追加プレスを禁じるようになります(日本でのみ初期3作は'70年代末に初発売されましたが)。2009年のボックスセット全集『The Catalogue』には『Autobahn』以降『Tour de France』2003までのスタジオ・アルバム8作がクラフトワークの全公式スタジオ・アルバムとしてリマスター収録されました(以降に公式ライヴ・アルバム2作を発表)。初期3作は一時リマスタリング中とアナウンスされましたが、その後クラフトワークのオフィシャル・サイトで無料ダウンロード公開されるだけにとどまりました。この公開は海賊盤対策を兼ねたファン・サーヴィスでもあり、初期3作はあくまで習作としか見なしていないとの表明で、『Autobahn』からがクラフトワークの公式アルバムというのが、スタジオ・アルバムでは『Tour de France』を最後に脱退した創設メンバーのフローリアン・シュナイダー(脱退したもののヒュッター合意の上に創設メンバーとしてバンドの版権の半分を保有しました)と、以降は一人でクラフトワークの看板を背負うことになったラルフ・ヒュッター共同の意向です。

 ビーチ・ボーイズのホッドロッド・チューン(ドライヴ・ソング)、「Fun Fun Fun」'64の現代版と話題を呼んだアルバム・タイトル曲「Autobahn」は西ドイツの高速道路のドライヴを歌った曲ですが、

(1)前奏
(2)歌メロでI→IV→V→Iの3コード循環
(3)転調してもう1回歌メロ
(4)インストルメンタル・ブリッジ

 これだけの要素で1コーラスを形成しており、テンポの変化もないシンセサイザー・シークエンサーのオスティナート(リフ)による8ビートに乗せた、まったく同一の第一コーラスのベーシック・トラックが反復使用され、第二コーラス以降は多少のエレクトロニクス効果音、パーカッションのアクセント変化が加えられるだけで23分あまりにおよぶ楽曲です。B1、2の「Kometenmelodie」は同じ曲で、1はテンポ・ルバートで演奏され、2はインテンポの定速ビートになります。B面全体は純粋な音響実験の完成を見た前作『Ralf und Florian』の延長線なのですが、よりアイディアが整理されており、この先行シングル「Kometenmelodie 2」がアルバム・タイトル曲「Autobahn」の原型になったことがわかります。つまり「Kometenmelodie 2」や「Autobah」は前2作のアルバム『Kraftwerk 2』のA1「Klingklang」から『Ralf und Florian』のA1「Elektrisches Roulette」やB2「Ananas Symphonie」と進めてきた、音響を定速ビートに整理する実験が、実験音楽の域からようやくポピュラー音楽と呼べるサウンドに結実した成果です。しかしアルバムB面のB3以降はまだ初期作の実験の延長上にあり、B3「Mitternacht」はノン・ビートのエレクトロニクス効果音からなる、初期クラフトヴェルクの作風のミニチュア的音響実験曲です。B4「Morgenspaziergang」はデビュー作A1の「Ruckzuck」以来アルバムごとに必ずあった、ディレイ・エフェクトをかけたフローリアン・シュナイダーのフルート曲です。

 クラフトワークの実験は次作『Radio-Activity』ではより尖鋭かつ精妙になり、第6作『Trans-Europe Express (ヨーロッパ特急)』'77、第7作『The Man-Machine (人間解体)』'78で完成を見ますが、決定的な出発点になったのが本作のA1「Autobahn」であり、後は「Autobahn」の完成度を高めていくのに専念したとも言えます。本作は2015年度のグラミー賞の殿堂入りアルバム賞を受賞しました。2017年まで163ヴァージョン、2020年には200ヴァージョンもの再発盤が再プレスされているというモンスター・ロングセラー・アルバムです。買って持ってはいるけれどあまり聴かない人も多いのではないでしょうか。タイトルのコンセプト通りにドライヴ中のBGMにも良いでしょうが、5~6回プログラム・リピート再生をかけて睡眠時のBGMにする、という手もあります。実際そういう用途にも向いているような、リピートして聴いていると感覚が麻痺してくるトリップ(文字通り!)・ミュージック・アルバムです。実際日本では当初クラフトワークは日本ではシンセサイザーによる瞑想音楽としてプロモートされ、聴かれていました。しかしこのトリップ感覚はあくまでも具体的なボディ・ミュージックを指向したものであり、瞑想的な精神性を排除したことにクラフトワークの画期的な新しさとポピュラー性があったのです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)