日曜のモンキーズ「プレザント・バレー・サンデイ」(Colgems, 1967) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ザ・モンキーズ - プレザント・バレー・サンデイ (Colgems, 1967)
ザ・モンキーズ The Monkees - プレザント・バレー・サンデイ Pleasant Valley Sunday (Gerry Goffin, Carole King) (Colgems No.1007, 1966.7) - 3:10 :  

Produced by Chip Douglas
[ The Monkees ]
Micky Dolenz - lead vocals, possible acoustic guitar
Michael Nesmith - harmony vocals, electric guitar
Peter Tork - piano, backing vocals
Davy Jones - backing vocals
[ Session musicians and production staff ]
Bill Chadwick - acoustic guitar
Chip Douglas - possible vocals, bass guitar, producer
"Fast" Eddie Hoh - drums, percussion
Hank Cicalo - engineer
Carol King - Demo Tapes (1966) :  

 モンキーズについては前々から全アルバム紹介を載せたいと思いながら、けっこう集めた文献類やオリジナル・アルバム、未発売音源を含めたボックスセットなどが以前住んでいたアパートの床上浸水被災で緊急避難させた時の段ボール箱に紛れてしまい、とっさに持ち出した日本編集盤『ザ・モンキーズ・バイ・リクエスト』(3CD, BMGビクター, 1989)と、さらに引っ越し以降買った全盛期アルバム5作のボックスセット『5 Classic Albums』、友人にいただいた『ミッシング・リンクス』Vol.1~Vol.3、2016年の傑作再結成アルバム『グッド・タイムズ!』しか手元にありません。とりわけ3枚組CD『ザ・モンキーズ・バイ・リクエスト』は当時の日本のモンキーズ・ファンクラブ「ザ・モンキーズ・ファン・サークル」の人気投票のもと、『モンキーズ決定版』(1981年)の著書がある八木誠氏が監修・解説書を手がけ、オリジナル・アルバム『恋の終列車』(The Monkees) (Colgems, 1966.10.10, US#1, 13 weeks/UK#1)、『アイム・ア・ビリーバー』(More Of The Monkees) (Colgems, 1967.1.9, US#1/UK#1)、『灰色の影(ヘッドクォーターズ)』(Headquarters) (Colgems, 1967.5.22, US #1/UK#2)、『スターコレクター』(Pisces,Aquarius,Capricorn & Jones Ltd) (Colgems, 1967.11.6, US#1/UK#5)、『小鳥と蜂とモンキーズ』(The Birds,The Bees and The Monkees) (Colgems, 1968.4.22, US#3)の四人編成のオリジナル・メンバー時の5作(『5 Classic Albums』にはこの5作がボーナス・トラックつきで納められています)からほぼ全曲、ピーター・トーク(1942-2019)脱退後の『インスタント・リプレイ』(Instant Replay) (Colgems, 1969.2.15, US#32)のほぼ半数の曲と、テレビシリーズ終了後の主演映画のサウンドトラック盤『ヘッド』(Head) (Colgems, 1968.12.1, US#45)と『プレゼント』(Present) (Colgems, 1969.10.1, US#100)、マイク・ネスミス(1942-2021)も脱退してミッキー・ドレンツ(1945-)とデイビー・ジョーンズ(1945-2012)の二人だけになった最終作『チェンジズ』(Changes) (Colgems, 1970.6.30) (チャート圏外)から数曲に、1976年以降の散発的な再結成時のアルバム、シングルから数曲、という十分な準全集と言える内容で、詳細な八木誠氏の解説書ともども一気にモンキーズの歴史をたどれる優れものです。

 モンキーズは「売れないアマチュア・バンド」の日常を描いた連続テレビドラマ「ザ・モンキーズ・ショー」(1966年9月~1968年3月放映)の主演バンドのために、1962年から温めていた企画をリチャード・レスター監督、ビートルズ主演のセミ・ドキュメンタリー映画『ビートルズがやって来る!ヤア!ヤア!ヤア!(A Hard Day's Night)』(1964年7月公開)の大ヒットをきっかけに実現に取りつけたプロデューサー、ボブ・ラファエルソン(兼監督)&バート・シュナイダーの下、オーディションで選ばれたタレントたちによるグループでした。当初ヴォーカル以外は音楽監督のドン・カーシュナーの手配したスタジオ・ミュージシャンによるものでしたが、モンキーズ参加以前に歌手デビューしていたデイビー・ジョーンズ(1945~2012)、すでにバンド・デビューと歌手経験のあったミッキー・ドレンツ(1945~)、またニューヨークのフォーク・シーン出身のピーター・トーク(1942~2019)、そしてソングライターの実績がありカントリー・ロックの先駆者になったマイク・ネスミス(1942~2021、マイクは当初から唯一レコーディング・セッションにも参加を許されたメンバーでした)の四人ともタレントとしての資質のみならずミュージシャン・シップと結束力は高く、サード・アルバムのセッション前に独断的なカーシュナーを更迭し、新たなプロデューサーにチップ・ダグラスを迎え、自分たちの演奏にセッション・ミュージシャンを迎えてアルバム制作を行うようになります。もっともモンキーズはテレビ番組の継続中はヒット曲を求められていたので、シングル曲はベテランのソングライターの提供曲によるものでした。マイク・ネスミスの自作曲がシングルA面曲に採用されるのは本国では10枚目の「すてきなミュージック (Listen To The Band)」以降になります。テレビ・シリーズ終了後(シングル「D・W・ウォッシュバーン (D. W. Washburn)」、アルバム『ヘッド (Head)』)以降急激に人気が下降したモンキーズは、1968年いっぱいで契約満了とともにメンバー中もっとも繊細だったピーター・トークが抜け、1969年のツアーを最後にマイク・ネスミスもソロ活動への転換のために脱退し、ヴォーカリストのミッキーとデイビーの二人だけになったモンキーズはアルバム『チェンジズ』、シングル「オー・マイ・マイ」「素敵な女の子」を最後に解散します。以降'70年代中期からデイビーやミッキーのデュオやソロ活動、'80年代にはピーター、ミッキー、デイビーによる再会ツアーがモンキーズ再結成として行われましたが、オリジナル・モンキーズの活動は1970年(または正式な解散宣言のされた1971年春)まででいったん区切られると見なすべきでしょう。

 日曜日ということで「プレザント・バレー・サンデイ」を思い浮かべたのですが(日本盤シングルはカップリング曲「恋の合言葉」をA面にして準両面シングルとしてリリースされました)、この曲は1967年7月録音で、前月6月発売のビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(Parlophone/Capitol, 1967)を意識してか、ややポップ・サイケな曲調に歌詞(当時夫婦のジェリー・ゴーフィン作詞、キャロル・キング作曲)が意外と難解で、タイトルの「プレザント・バレー・サンデイ」(この「バレー (Valley)」は当時開放的なヒッピー文化を誇っていた、ロサンゼルス=ハリウッド郊外、ローレル・キャニオン地帯を指します)は日曜日というより生命本能が求める新たな感受性への刺激、という暗喩がこめられています。歌詞は以下に掲げる通りで、19世紀アメリカのエマーソンやソーローが掲げた超越主義の20世紀版とも呼べる理想主義的ヒッピーの寝言と言ってはそれまでですが、ポップスの歌詞とは思えないようなものです。

"Creature comfort goals/Can only numb my soul/I need a change of scenery/My thoughts all seem to stray/To places far away/I don’t ever want to see/Another Pleasant Valley Sunday…." was changed to "Creature comfort goals/They only numb my soul/And make it hard for me to see/My thoughts all seem to stray/To places far away/I need a change of scenery."
(「本能(天然の被造物)が求める快適さは/ぼくの魂を安らかにさせる/ぼくには気分転換が必要なんだ/気持がまとまらないような時は/見たいとは思わなかった/遠く離れた場所へと/楽しい谷の日曜日が本能の求める快適さになる/それらは唯一ぼくの魂を安らかにさせる/それは見つけるのが難しいけれど/気持がまとまらないような時は/遠く離れた場所へと/ぼくには気分転換が必要なんだ」)

 この歌詞の難解さもあってか、ミッキーの歌うモンキーズのこの曲は全米3位(それでも十分すぎるほどの大ヒットですが)にとどまりました。3か月後の次のシングルがデイビーの歌う明解な「デイドリーム・ビリーバー」で、全米No.1ヒットに輝いたのはモンキーズ(とそのスタッフ)の巧妙なシングル曲選択の冴えを感じずにはいられません。モンキーズについては語ればきりがありませんが(この曲が日本盤シングルではB面あつかいになったことなども含めて)、今回はこの見事なポップ・ソングをご紹介するにとどめましょう(なおモンキーズは世界各国でアルバム収録曲の独自の膨大なシングル・カットが行われましたが、以下に掲げるシングル・ディスコグラフィーはアメリカ本国でのオリジナル・シングルのみをまとめました)。

[ The Monkees 1966-1971 Original Single Discography ]
・1966
1.「恋の終列車 c/w 希望を胸に」Last Train to Clarksville (US#1/UK#23) b/w Take A Giant Step (Colgems #1001, 1966.8.16)
2.「アイム・ア・ビリーヴァー(副題:恋に生きよう) c/w ステッピンストーン」I'm A Believer (US#1/UK#1) c/w (I'm Not Your) Steppin' Stone (US#20) (Colgems #1002, 1966.11.12)
・1967
3.「恋はちょっぴり c/w どこかで知った娘」A Little Bit Me,A Little Bit 
You (US#2/UK#3) c/w The Girl I Knew Somewhere (US #39) (Colgems #1004, 1967.3.8)
4.「プレザント・バレー・サンデイ c/w 恋の合言葉」Pleasant Valley Sunday (US#3/UK#11) c/w Words (US #11) (Colgems No.1007, 1967.7)
5.「デイドリーム・ビリーバー c/w ゴーイン・ダウン」Daydream Believer (US#1/UK#5) c/w Goin' Down (US#104) (Colgems #1012, 1967.10.7)
・1968
6.「すてきなバレリ c/w タピオカ・ツンドラ」Valleri (US #3/UK#12) c/w Tapioca Tundra (US #34) (Colgems #1019, 1968.2.17)
7.「D・W・ウォッシュバーン c/w 君と一緒に」D. W. Washburn (US #19/UK #17) c/w It's Nice To Be With You (US #51) (Colgems #1023, 1968.6.8)
8.「ポーパス・ソング c/w アズ・ウィ・ゴー・アロング」(日本未発売) Porpoise Song (US#62) c/w As We Go Along (US#106) (Colgems #1031, 1968.10.5)
・Peter Tork departed December, 1968
・1969
9.「涙の街角 c/w 夢のない男」Tear Drop City (US #56 /UK #44) c/w A Man Without A Dream (Colgems #5000, 1969.2.8)
10.「すてきなミュージック c/w サムディ・マン」 Listen To The Band (US#63/UK#47) c/w Someday Man (US#81) (Colgems #5004, 1969.4.26)
11.「すてきなブルーグラス c/w マミー・アンド・ダディ」Good Clean Fun (US #82) c/w Mommy And Daddy (US #109) (Colgems #5005, 1969.9.6)
・Michael Nesmith departed after 1969 tour
・1970
12.「オー・マイ・マイ c/w やっぱり君が好き」Oh My My (US #98) c/w I Love You Better (Colgems #5011, 1970.4.1)
・1971
13.「素敵な女の子 c/w レディ・ジェーン」Do It in the Name of Love c/w Lady Jane (Bell 88054, 1971.4) *failed to chart, and the Monkees (Micky Dolenz and Davy Jones) officially disbanded.

 最後にモンキーズ唯一の現存メンバーになった、ミッキー・ドレンツ2023年の最新テレビ出演映像を引いておきましょう。1945年生まれ(同年生まれのロバート・ワイアットex.ソフト・マシーンは2017年に引退しています)、78歳にしてミッキーは現役で活躍しており、貫禄と余裕、何より若々しい気力が、年齢相応に枯れた声質を補ってあまりあります。ミッキーが歌うと、故人となった三人の存在まで彷彿とさせてくるような気がします。こんな風に歳を取りたいものです。 


(旧記事を手直しし、再掲載しました。)