続・裸のラリーズ - 法政大学学生会館大ホール1982年12月18日 (MV, 1982) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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裸のラリーズ - 法政大学学生会館大ホール1982年12月18日 (Live MV, 1982)
裸のラリーズ - 法政大学学生会館大ホール1982年12月18日 (Live MV, 1982) :  

Released by not on label as "Hosei University 1982", DVD-R, year unknown
全作詞作曲・水谷孝
(Setlist)
1. 夜より深く (夜より深く Part 2) - 15:47
2. 夢割草 - 8:20
3. 夜、暗殺者の夜 - 9:57
4. 氷の炎 - 41:31
5. 黒い悲しみのロマンセ - 17:47
6. 鳥の声 - 10:34
7. 造花の原野 (incomplete) - 13:51
(VHSテープ終了)

Total Time: 120:03:15

8. The Last One (incomplete) - 9:38 :  

水谷孝 - vocal, guitar
藤井アキラ - guitar, saxophone on "黒い悲しみのロマンセ"
Doronco - bass guitar
野間幸道 - drums 

 本作は前回、前々回にご紹介した『Metal Machine Music '82』と並び、非常に貴重な裸のラリーズのライヴ映像で、慶応大学横浜日吉校舎で1982年10月2日に行われたコンサート映像『Metal Machine~』同様、コンサート主催者の大学生スタッフが当時ようやく普及し始めていたVHSテープのヴィデオ・カメラで撮影したものでしょう。ワンポイント・カメラながらステージ全体を正面にとらえる位置で撮影されており、ズームやパンを駆使してライヴの見どころを収録しようとした苦心が感じられ、おそらく映画研究会など映像専攻の学生によって記録撮影されたものと思われます。ラリーズには唯一の公式映像作品『Les Rallizes Dénudés』(Ethan Mousike, 1992.9.15)があり、リーダーの水谷孝(1948-2019)による映像アンソロジー(ヒストリー・ヴィデオ)の決定版と言えるものですが、内容は多岐に渡っており、音声なしの映像に未発表音源をシンクロさせたトラックも目立ちます。アンオフィシャル・リリースには前述の『Metal Machine Music '82』(約2時間)と、1982年12月18日の法政大学ホールでのライヴ映像(約2時間)、また1994年7月10日の京都大学西部講堂でのチャー坊こと柴田和志(村八分、1950-1994年4月25日急逝)追悼コンサート「首吊りの舞踏会」でのライヴ映像(約50分)があり、いずれもホーム・ヴィデオ映像ですが、「首吊りの舞踏会」はイヴェント出演で50分でフルセットと短く、残された映像も客席からの観客撮影による2種類のソースで、臨場感には溢れながらも前列の観客の頭がしばしばステージをさえぎる、客席撮影ですから仕方ありませんが良好なカメラ位置で撮影されたものとは言えません。その点、1982年の慶応大学横浜日吉校舎コンサート映像と本作の法政大学学生会館大ホール映像は本番前のゲネプロでモニタリング確認されたと認められる、ワンポイント・カメラとしては最上の位置で撮影されており、プロショットとまでは言えないながらカメラワークをきちんと学んだ、プロ・カメラマン修行中の優秀な腕前の学生が残した力作でしょう。前奏、ヴォーカル・パート、ギターソロとしっかり楽曲展開に対応したズームやパンニングでワンポイント・カメラながら緩急つけたカメラワークはなかなかのもので、マルチ・カメラならともかくワンポイント・カメラでできる限界まで丁寧な撮影にカメラマンの本気が表れています。また裸のラリーズは1982年にはライヴも4回しか行っていない(10月1日・目黒鹿鳴館、10月2日・慶応大学横浜日吉校舎、10月10日・渋谷屋根裏、12月18日・法政大学学生会館大ホール)ので、10月2日の慶応大学横浜日吉校舎、本作の12月18日・法政大学学生会館大ホールでは2か月ほどしか間が開いていませんが、選曲こそほぼ重なりながら、コンサート内容もたいへん聴きごたえのあるものになっています。

 1982年10月2日・慶応大学横浜日吉校舎で行われたコンサート映像『Metal Machine Music '82』の演奏曲目は次のようなものでした。1曲目「不明 (氷の炎)」こそ冒頭の欠けた不完全収録ですが(撮影開始が間に合わなかったのかもしれません)、2曲目以降はコンサート最終曲「The Last One」まで完全収録されています。

1. 不明 (氷の炎) (incomplete) - 7:20
2. 夢割草 - 7:43
3. 夜、暗殺者の夜 - 11:26
4. 氷の炎 - 18:55
5. 黒い悲しみのロマンセ - 14:47
6. 造花の原野 - 14:52
7. The Last One - 15:41
Total Time:117min

 慶応大学コンサートでは「氷の炎」が2回演奏されていますが、これは同曲が'70年代ヴァージョンと'80年代ヴァージョンでは大きくアレンジが異なるために(リフや歌詞も変えられています)、2通りのヴァージョンで演奏されているためです。そこで慶応大学コンサートから2か月半後になる、本作の法政大学コンサートの曲目を見ると、

1. 夜より深く (夜より深く Part 2) - 15:47
2. 夢割草 - 8:20
3. 夜、暗殺者の夜 - 9:57
4. 氷の炎 - 41:31
5. 黒い悲しみのロマンセ - 17:47
6. 鳥の声 - 10:34
7. 造花の原野 (incomplete) - 13:51
(VHSテープ終了)
Total Time: 120:03:15
8. The Last One (incomplete) - 9:38

 このうち8曲目かつ最終曲の「The Last One」の映像は異なるカメラマンによる撮影(後述)と見られるものです。本編はホームヴィデオ・カメラの120分ぎりぎりまで撮影されて7曲目の「造花の原野」の途中でテープ切れになっています。映像・サウンド面では会場や照明演出の違いからか慶応大学横浜日吉校舎コンサートでは比較的映像は明るめ、サウンドのエコーは薄めで、1曲目が演奏途中からの収録ながらも2時間でコンサートをフル収録しているのに対して、法政大学コンサートでは照明・映像は暗く、エコーはより深くかかり、コンサート開始から収録されている代わりにVHSテープに収まらず7曲目の「造花の原野」の途中で120分テープのテープ切れ(そのため、8曲目でラスト曲「The Last One」の現存映像はこの時の撮影か確証できないものです)になっていることですが、もっとも大きな違いは、10月の慶応大学コンサートでは水谷孝(ヴォーカル、ギター)、Doronco(ベース)、野間幸道(ドラムス)という1979年以来のメンバー(1979年にはギターに三巻俊郎、1980年には山口冨士夫が加わった四人編成でした)のスリーピース編成なのに対し、12月の法政大学コンサートでは藤井アキラがセカンド・ギターに加わった、1967年末の裸のラリーズ結成以来リーダーの水谷孝がもっとも好んだ2ギター、ベース、ドラムスの四人編成になっていることです。ラリーズのライヴ本数自体が少なかった1981年~1986年の間、藤井アキラはゲスト・サックス奏者として1981年末~1982年末まで散発的に参加していますが、この法政大学コンサートでは「黒い悲しみのロマンセ」でのサックス演奏以外はセカンド・ギタリストとして参加しています。ただしサックスのミックス・バランスは低く出番も少なく、水谷孝のギターと重なってオブリガート的に演奏されている程度で画面にも映らないために、よほど注意していないとサックスの音はほとんど聴こえず、アルトサックスかテナーサックスか、ソプラノサックスかも判然としません。むしろセカンド・ギタリストとして藤井アキラが加わったことでアンサンブルの安定感が確保されたためか、この法政大学コンサートのラリーズの演奏は2か月前の慶応大学コンサートより格段に奔放で、楽曲としては「夢割草」「夜、暗殺者の夜」「氷の炎」「黒い悲しみのロマンセ」「造花の原野」と5曲が重なりますが、特に「氷の炎」が41分31秒、「黒い悲しみのロマンセ」が17分47秒と途轍もないロング・ヴァージョンになっています。「氷の炎」41分31秒なら当時のアナログLPなら1曲でアルバムAB面もの長さ、「黒い悲しみのロマンセ」17分47秒ならアナログLPでは片面全面の長さです。

 15分47秒もの1曲目「夜より深く (夜より深く Part 2)」 は'70年代前半に長調のフォーキーな楽曲「夜より深く」として成立し、'70年代後半からは短調の楽曲「夜より深く Part 2」として実質的に別曲として演奏されるようになった曲で、ここでは短調の「夜より深く Part 2」ならではのダウナーな演奏で、演奏そのものにかけられたエコー・マシーンと学生会館大ホールの残響の深さが陰鬱さに輪をかけています。'90年代には新しい歌詞で「海のように」に改作される2曲目の「夢割草」は演奏時間は慶応大学コンサートとあまり変わりありませんが、ボブ・ディラン~ジミ・ヘンドリックスの「見張り塔からずっと (All Along the Watchtower)」~ブルー・オイスター・カルト「(Don't Fear The) Reaper」のコード進行でアレンジ面でもそれらを踏襲した慶応大学コンサートより、法政大学コンサートでの演奏はテンポをぐっと落とし、「Watchtower」を下敷きにした曲とはわからないようなダウナーなアレンジになっています。3曲目の「夜、暗殺者の夜」は1976年の成立以来あまりアレンジの変わらない、ラリーズのポップな面を代表する曲ですが、ここでの演奏はベースのリフが音を外す、水谷孝のヴォーカルがコード進行の拍を食ってしまう具合にミスが連発されながらも曲調が明快なために全体としてはクールに乗りきって、まとまりは悪くありません。4曲目「氷の炎」は前述の通り過ぎ41分半にもおよぶ最長ヴァージョンで、1976年成立以来この頃にはリフのアクセント違い・歌詞違いの新ヴァージョンで演奏されますが、「夜、暗殺者の夜」と同様1976年成立当初の中村武志(セカンド・ギター)、楢崎裕史(ベース)、三巻俊郎(ドラムス)がレギュラー・メンバー時のラリーズと比較すると、リズム・セクションの藤井アキラ(セカンド・ギター)、Doronco(ベース)、野間幸道(ドラムス)は重心の低さに欠けて軽く、特にこの曲では藤井のギターにほとんど存在感がないために実質的に水谷孝、ベース、ドラムスのスリーピース演奏になっています。「氷の炎」は8小節のワン・シークエンスだけの楽曲ですが、ベースとドラムスの演奏力とアイディア不足によってしばしば演奏にムラが生じ、それを補うために水谷孝がさまざまな角度からヴォーカリゼーションやギター・ソロで切り込んでいくため、結果的にこのヴァージョンは41分半もの最長ヴァージョンになっています。肉声的にアウトするソロから幾何学的なソロまで展開されるのは'70年代の水谷孝には見られなかったプレイで(特に幾何学的ソロ)、リズム・セクションの軽さを逆手に取った実験的なアプローチがここでは聴きどころになっています。5曲目「黒い悲しみのロマンセ」は水谷、中村武志(セカンド・ギター)、長田幹生(ベース)、正田俊一郎(ドラムス)の四人編成だった1973年~1974年には成立していた、「記憶は遠い」「夜より深く」と並ぶフォーキーな曲想の楽曲ですが、ここでの演奏は冒頭の「夜より深く Part 2」「夢割草」を引き継いでダウナーで、また「氷の炎」同様リズム・セクションの軽さを補って水谷孝独壇場の17分50秒近いロング・ヴァージョンになっています。それはラリーズ結成初期の京都時代の音源を集めた公式盤『'67-'69』以来バンド編成でもソロでも演奏されている6曲目「鳥の声」でも変わらず、本作のヴァージョンはバンド編成の「鳥の声」でも、もっともダウナーなヴァージョンです。「鳥の声」のエンディングは1973年成立の7曲目「造花の原野」の冒頭に重なり、この6曲目と7曲目の曲間にはフィードバック・ノイズ用にステージ上に立てかけたオープン・チューニングのギターを確認できます。13分50秒でVHSテープ切れで不完全収録に終わる「造花の原野」は初演以来もっともアレンジの幅が広い同曲でもテンポの速さ、ソリッドなアレンジで演奏され、ラリーズのライヴ定番の最終曲「The Last One」の、この日の確実な映像収録ともどもテープ切れによる撮影終了が惜しまれます。サウンド面でも法政大学学生会館大ホールの残響の深さをよく収録していて、1982年10月2日に慶応大学横浜日吉校舎で収録された『Metal Machine Music '82』とは趣きの異なる魅力のあるライヴ映像です。ただし本作は映像全体の暗い照明か、Unofficial市場でもほとんど流通していないライヴ映像なので、ラリーズ専門発掘レーベルからリリースされた『Metal Machine Music '82』(Univive, 2006)より注目されることが少なく、レストア&リマスター盤再発が望まれます。幸いYouTubeでは全編が観られますので、ぜひご覧いただきたい次第ですが、実験性の高いライヴのため、裸のラリーズの発掘ライヴ音源に親しんだリスナー以外にはやや敷居が高いかもしれません。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)