クラフトワーク(3) 1970年ロックパラストTVライヴ (Unofficial, 2014) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

クラフトワーク - 1970年ロックパラストTVライヴ (Unofficial DVD, 2014)
クラフトワーク Kraftwerk - 1970年ロックパラストTVライヴ Rockpalast 1970 (Unofficial DVD, 2014) 

Newly Re-Broadcast on German WDR network in HD, 2014
All tracks written by Ralf Hütter and Florian Schneider-Esleben.
(Tracklist)
1. Stratovarius - 16:44
2. Ruckzuck - 10:41
3. Heavy Metal Kids - 9:48
4. Improvisation 1 - 10:42
[ Kraftwerk ]
Florian Schneider-Erleben - flute, violin, percussion
Ralf Hütter - electronics
Klaus Dinger - drums
(Unofficial Rockpalast 70 b/w Bremen Radio 71 DVD/CD Liner Cover & Miscredited Unofficial CD Picture Label)

 1970年の収録からほぼ45年を経て、2014年に西ドイツ国営放送局(WDR)で再放映され、良質のHDマスター映像が出回るようになった1970年11月収録のTV番組「ロックパラスト(ロックの宮殿)」の、最初期クラフトワーク(国際進出前ですからドイツ語読みのクラフトヴェルクと呼ぶ方が妥当だった時期です)の観客入りスタジオ・ライヴがこれです。音源だけは30年あまり前から「June 12, '71」とミスクレジットされたプライヴェートCDが出回っており、そちらではメンバーはフローリアン・シュナイダー、ミヒャエル・ローター、クラウス・ディンガーとなっていました。実際クラフトワーク(クラフトヴェルク)は'71年にはフローリアン・シュナイダーとともにバンド創設者の中心メンバー、ラルフ・ヒュッターが一時大学卒業の追いこみのためにほぼ半年間音楽活動から退き、代役にミヒャエル・ローターを迎えたメンバー編成で'71年6月25日放送のブレーメンのラジオ局の公開ライヴに出演しており、ローターとディンガーはヒュッターの修学による復帰と入れ替わるように独立してノイ!(Neu!)を結成し、'71年のうちに早くもデビュー・アルバムをリリースしています。'71年6月のブレーメンのラジオ出演データに基づいて、音声のみエアチェックされていたヒュッター休業前の'70年11月ロックパラストTV音源が、ヒュッターの代役にミヒャエル・ローターが参加していた'71年6月ブレーメン・ラジオ音源と混同されていたのでしょう。現在では真正の'71年6月ブレーメン・ラジオ音源(次回ご紹介します)も同時期に再放送された新規マスターテープからCD化されており、セットリストはほとんど同じですが、ともに従来混同されていた'70年11月のエアチェック音源CDとは音質も比較にならないほど良く、演奏もヒュッター入りと代役のローターではかなり異なることが、各種流通しているUnofficial盤で聴き較べることができます。先にジャケットを掲載した版が'70年11月ロックパラストTV映像(DVD)と'71年6月ブレーメン・ラジオ音源(CD)のカップリング版でどちらも聴け、入手しやすくマスター状態も良好ですが、ロックパラストTVのDVDとブレーメン・ラジオのCDをそれぞれ単品で集めたい方にはロックパラストTVだけの単品DVDも流通しています。同一の2014年再放映HD新規マスターを使用しているので内容と画質の鮮明さはカップリング版と同じです。この種のプライヴェート・プレス盤は一度逃すと入手が難しいことも多いので、中古で安く見かけたら重複覚悟でも買っておいた方が万全です。
(Unofficial Rockpalast 70 DVD Front & Liner Cover)
 このライヴ映像で観られる国際進出前の最初期クラフトヴェルクは、ロックのコンサートのつもりでTVスタジオに詰めかけた観客が戸惑うような演奏をくり広げており、オン・ビートになると観客も喜んで手拍子を打つのですがすぐに定型リズム・パターンは消滅してしまうので観客戸惑う、するとまた演奏にビートらしいビートが現れるの観客また沸くのくり返しで、'もともとライヴを想定していないデビュー作の曲を無理矢理ライヴでやってのけた強引かつ珍妙で面白いライヴ映像になっています。'80年代まで続いたTV番組「ロックパラスト」映像は他にもエロイやフランピーなどハード・ロック勢、カンやグル・グルなどエクスペリメンタル勢ら同時期のジャーマン・ロック、クラウトロック勢、1979年のワイヤーや1984年のギャング・オブ・フォーまでポスト・パンク時代のイギリスのバンドのドイツ公演時の映像が残されている15年以上続いた生演奏ライヴの人気番組ですが、'70年当時西ドイツにはクラフトヴェルクの他にも同傾向のグループはいたとはいえ、ロックバンドのライヴなのに継続的なビートがないのは観客にしても乗りようがなく、観客の戸惑う様子が見られます。同じ実験派とはいえカンやグル・グルは相当屈折しているものの乗れるビートがちゃんとあったのとは、脳波は踊っても身体は踊れないクラフトヴェルクの音楽は対照的です。しかもここでのラルフ・ヒュッターは黒の革ジャンパーでステージに上がっており、フローリアン・シュナイダーにしても見かけはまるで後年のクラフトワークとは思えないロックバンドのメンバーみたいな風貌です。しかし演奏はかなり荒っぽいながらもすでにデビュー・アルバムの人力インダストリアル・テクノ路線で、やっぱり特にデビュー作代表曲の「Ruckzuck」の出来が突出していますが、キメもなければヤマもない演奏で、しかもカンやアモン・デュールII、ポポル・ヴー、グル・グルやアシュ・ラ・テンペルを始め、当時のドイツのエクスペリメンタル・ロックがサイケデリック・ロックやメディテーション・ミュージックを発想の基本にしていたのに対して、クラフトヴェルクの実験は精神性や抒情性を断ちきり、純粋に音響的興味によるフリー・ロックでした。

 つまりクラフトヴェルクがここでやっているのはフルート兼ヴァイオリン、電気オルガンのどれをもノイズ発信機として用い、バンドらしい演奏をしているのはドラムスだけというアンバランスなアンサンブルです。これが音色変化のコントロールと反復精度の高いエレクトロニクス楽器に置き代わり、のちのテクノのクラフトワークになるのですが、本当に初期の実験段階ではどんなライヴをしていたかを、B&Wながらフィルム撮影による映画レベルの高画質で捉えたこの映像は、歴史的価値以上に独自の映像作品として楽しめるものです。ヒュッター一人が唯一の創設時からの現存メンバーになった現在のクラフトワークが、シュナイダーも2017年に逝去した今後、これをオフィシャル発売することはまずあり得ないでしょうが、案外本人たちもこの映像の発掘放映にはまんざらでもない気分だったではないでしょうか。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)