クラフトワーク(2) クラフトワーク (Philips, 1970) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

クラフトワーク - クラフトワーク (Philips, 1970)
クラフトワーク Kraftwerk - クラフトワーク Kraftwerk (Philips, 1970)  

Released by Philips Records Philips 6305 058, November 1, 1970
Produced by Konrad "Conny" Plank
All tracks written by Ralf Hütter and Florian Schneider-Esleben.
(Side 1)
A1. Ruckzuck ("Right now") - 7:47
A2. Stratovarius - 12:10
(Side 2)
B1. Megaherz ("Mega heart", also a play on the word Megahertz) - 9:30
B2. Vom Himmel hoch ("From Heaven above") - 10:12
[ Kraftwerk ]
Ralf Hütter - organ, guitar, tubon, cover design
Florian Schneider-Esleben - flute, violin, percussion
Andreas Hohmann - drums on "Ruckzuck" and "Stratovarius"
Klaus Dinger - drums on "Vom Himmel hoch"
(Original Philips "Kraftwerk" LP Liner Cover, Gatefold Inner Cover & Side 1 Label)

 A1のフルート・ロック(!?)「Ruckzuck」から百戦錬磨のリスナーをも煙に巻き、すっとぼけた交通標識(トラフィック・コーン)をジャケットにした本作こそ、クラフトワーク(クラフトヴェルク=発電所)の出発点としてロック/ポップス史上に燦然と輝く、音楽ジャンルのポップ・アートとして記念碑とも言える怪作です。国際的出世作『Autobahn』までは、クラフトワークというよりも「クラフトヴェルク」と呼んだ方が、あくまでドイツ性にこだわった本人たちの意に沿うでしょう。このグループ(実質的にラルフ・ヒュッターとフローリアン・シュナイダー=エフレーベンのデュオ)が現在までに発表した公式スタジオ録音アルバムは、
1. Kraftwerk (1970)
2. Kraftwerk 2 (1972)
3. Ralf und Florian (1973)
4. Autobahn (1974)
5. Radio-Activity (1975)
6. Trans-Europe Express (1977)
6. The Man-Machine (1978)
7. Computer World (1981)
8. Electric Cafe (1986)
9. Tour de France Soundtracks (2003)
 ――の9作があり、ライヴ・アルバムには、
1. Minimum-Maximum (2005)
2. 3-D The Catalogue (2017)
 ――の2作、コンピレーション・アルバム、リミックス・アルバムには、
1. Exceller 8 (1975, UK only)
2. Elektro Kinetik (1981, UK only)
3. The Mix (1991)
 ――があり、さらに集大成ボックス・セットには、
1. Klang Box (1997, include 1976-1982 albums)
2. The Catalogue (2009, include 1974-2003 albums)
 ――があります。リミックス・アルバム『The Mix』は実質的には最新機材による再録音アルバムとしてスタジオ・アルバム9作目と考えても良く、またライヴ作2枚は『The Mix』を合わせたスタジオ・アルバム10作に続く11作目、12作目と数えてもいいでしょう。さらにボックス・セット『The Catalogue』は『Autobahn』から『The Mix』『Tour de France』までの8作を各アルバムとも新規ジャケット、リマスターによって統一し、その8作を公式アルバムとして単品でも再発売する全集企画でしたから、スタジオ・アルバムは『The Catalogue』収録の8作、ライヴ・アルバムは『Minimum-Maximum』と『3-D The Catalogue』が現在では公式アルバムとされていることになります。公式アルバム第4作『Autobahn』からは英語詞・英語タイトルによるインターナショナル・ヴァージョンとドイツ語ヴァージョンの両方が作られ(フランス語やイタリア語、『Computer World』からのシングル「電卓」のように日本語ヴァージョンが作られることもありました)、インターナショナル・ヴァージョンが標準とされるようになってからはグループ名は英語読みの「クラフトワーク」とし、純正ドイツ圏グループだった初期3作まではドイツ語読みの「クラフトヴェルク」とするのが妥当と思われるのはそういう事情によります。そしてクラフトワークは、前身バンドのオルガニザツィオーン(Organisation)の唯一作(前回紹介)ともどもクラフトヴェルク時代の初期3作の再発売を1980年以降には公認しておらず、これらは海賊盤CDや版権関係の緩いイタリアのインディー・レーベルからハーフ・オフィシャルCD再発盤で入手するしかない状態でした。もっとも2010年代以降になってからクラフトワークのオフィシャル・ウェブサイトではクラフトヴェルクの初期3作を無料配信公開しており、封印までしてコレクターズ・アイテムにするつもりはないものの、作品、また商品としてはクラフトワークの水準に達していない習作時代のアルバムと見なしているようです。

 初期3作のクラフトヴェルクのアルバムを聴くと、クラフトワークがシンセサイザーとシークエンサーの導入により一気に作風を確立したのが『Autobahn』A面全面を占めるタイトル曲なのも納得できますが、『Autobahn』もLP時代のB面は音響実験的な、楽曲とも言えないサウンド実験で占められていたのがクラフトヴェルク時代の作風の名残りだったとも気づかされます。またシンセサイザーとシークエンサーによるまったく同じ音型パターンと平坦でアクセントのないリズムがモアレのように重なり変化していくクラフトワーク独自の発明が『Autobahn』タイトル曲に始まったのではなく、原型はすでにクラフトヴェルク第1作のA1「Ruckzuck」やB2「Vom Himmel hoch」にあり、この2曲はエコー処理をかけたフルートやオルガン、巧みなミキシング処理によるドラムス、パーカッションによって後のテクノ・ポップ的手法を試しています。「Ruckzuck」のリズムと同期したエコー処理、「Vom Himmel hoch」のミキシングによるリズム構成は他に前例がなくはありませんし、音響的アイディア自体を楽曲の核心にした大胆さも当時のドイツの実験派ロックには珍しくないとは言え、鮮やかな成功例として強く印象に残るものです。

 A2「Stratovarius」やB1「Megaherz」で聴けるのは後のインダストリアル・アンビエント・ミュージックの先駆けのようなサウンド実験で、音響自体が音楽的表現内容になっている意図的な脱楽曲的サウンドスケープです。『Autobahn』B面に痕跡を残しているのもこの系統のもので、同時代のロックではこれらはサイケデリック感覚やメディテーション効果の表現を目指したものがほとんどでしたが、クラフトヴェルクの場合はそうした情感的意味づけをせずに、純粋に音響だけを形成してみせたところに画期性があります。これは同時代のドイツ圏のロック派ロックではクラスターくらいしか類例のない試みで、クラスターもクラフトヴェルクと同じくエンジニアのコニー・プランクがプロデュースに関わっていましたが、『Autobahn』以降のクラフトワークはその次作『Radio-Activity』ではまだ音響路線にも可能性を求めていたものの、『Trans-Europe Express』以降は純粋な音響路線よりもポップな楽曲性のある『Autobahn』タイトル曲路線の中に音響実験を隠し味に使う方向に統一します。

 処女作に全てがあるとはどのアーティストにも当てはまるとは限りませんし、A面B面の二面性では『Autobahn』もまだその渦中にありますからクラフトワークが『Autobahn』を真の第1作とするのも妥当性はありますが、『Autobahn』よりもさらにはっきりと発想の原点が見てとれる点でクラフトヴェルクの第1作は面白く、あっけらかんとした音楽の歓びがあり、素朴な楽しさと良さがあります。エスノ・メディテーション的なフリー・インプロヴィゼーションだった前身グループのオルガニザツィオーンからは格段な方法意識の進展と確立が見られます。特にフルートがスケールとリフしか奏でずパーカッション・アンサンブルと組み合わされた人力テクノ楽曲のA1「Ruckzuck」、ギターがぼよーんと鳴るだけのA2「Stratovarius」はクラフトヴェルク~クラフトワークの全時代を通しても代表的な名トラックに数えられるでしょう。これほどの出来ならば1980年のアナログ再発(日本盤はその直前の1979年に発売されました)を最後に公式再発売を差し止めるほどではなく、初期三部作にはシンセサイザー・バンド化する前の工夫が凝らされた創造性が一作ごとにあります。しかもこの頃のライヴはこの音楽を実演でやってみせてくれる、しかもなかなか再現度の高いユニークな演奏が聴けるものでした。次回では初期クラフトヴェルクのライヴ映像をご紹介したいと思います。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)