クラフトワーク(1) オルガニザツィオーン - トーン・フロート (RCA, 1969) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

オルガニザツィオーン - トーン・フロート (RCA, 1969)
オルガニザツィオーン Organisation (Pre-Kraftwerk) - トーン・フロート Tone Float (RCA, 1969) :  

Released by RCA Victor Records (UK) SF8111, August 1969
Produced by Conny Plank & Organization
All tracks written by Organisation.
(Side 1)
A1. Tone Float - 20:46
(Side 2)
B1. Milk Rock - 5:24
B2. Silver Forest - 3:19
B3. Rhythm Salad - 4:04
B4. Noitasinagro - 7:46
[ Organization ]
Basil Hammoudi - glockenspiel, conga gong, musical box, bongos, percussion, vocals
Butch Hauf - bass, shaky tube, small bells, plastic hammer, percussion
Ralf Hutter - Hammond organ, organ
Alfred "Fred" Monicks - drums, bongos, maracas, cowbell, tambourine
Florian Schneider-Esleben - electric flute, alto flute, bell, triangle, tambourine, electro-violin, percussion
(Original RCA Victor "Tone Float" LP Liner Cover & Side 1 Label)

 クラフトワーク(クラフトヴェルク)といえばテクノ・ポップの開祖というのが一般的なイメージですし、国際的にブレイクしたのも初めて電子楽器とシークエンサーを使用した第4作『Autobahn』'74からで、以後中心メンバーのラルフ・ヒュッター(1946年生れ~)とフローリアン・シュナイダー=エスレーベン(2009年に引退、1947年生れ~2020年4月21日没)は第3作までのアルバムの再発売を許可せず、公式にはクラフトワークのアルバムは『Autobahn』を公認の第1作とするようになります。しかしまだ電子楽器を使わずにマシン・ビートを試みた初期3作『Kraftwerk』'70、『Kraftwerk 2』'71、『Ralf & Florian』'73も非常に面白いポップな実験音楽のアルバムで、『Autobahn』もまだLPのB面に収められた4曲では初期3作の作風が残っているのです。第5作『Radio Activity (邦題『放射能』)』'75は電子楽器の使用を進めたまま再び初期の実験的作風に戻りますが、完全にクラフトワークがテクノ・ポップ化をなしとげたのは第6作『Trans Europe  Express (邦題『ヨーロッパ急行』)』'77、第7作『The Man Machine (邦題『人間解体』)』'78の2作でした。この2作の影響力は凄まじい勢いで'70年代末の西欧ポップスに浸透したため、次作の第8作『Computer World』'81を発表した頃にはクラフトワーク自身が時代遅れになったかのような観がありました。しかし'90年代以降最新機材による過去のアルバムの新アレンジによる再録音や旺盛なライヴ活動への復帰によってクラフトワークは現役感を取り戻し、ヒップホップやハウスを経た再評価によって画期性が再確認され、相変わらずバンド非公認ながら廃盤の初期3作もインディー・レーベルによる非公式再発売でリスナーの注目を集め(クラフトワークはのちに公式サイト配信のみで初期3作を無料ダウンロード公開しています)、『Autobahn』以降への連続性と初期ならではの実験性に独自の評価がなされるようになりました。クラフトワークの魅力はどこかうさんくさいユーモア感覚にあり、それがドイツ的な勤勉な几帳面さで貫かれている点で音楽的実験がポピュラー音楽として成立していることでしょう。

 さらに発掘が及んだのはヒュッターとシュナイダーがクラフトワーク以前に組んでいたバンド、オルガニザツィオーンの唯一のアルバム『Tone Float』'69で、西ドイツのバンドのドイツ録音ながらドイツ国内では発売されずイギリスのRCAヴィクター原盤で発売されたこのアルバムは、同時期西ドイツの実験ロックのバンドのアルバム、カンの『Monster Movie』'69、アモン・デュールの『Psychedelic Underground』'69、アモン・デュールIIの『Phallus Dei』'69、タンジェリン・ドリームの『Electronic Meditation』'70、エンブリオの『Opal』'70、グル・グルの『UFO』'70、クラスター(Kulster)の『Klopfzeichen』'70、ポポル・ヴーの『Affenstunde』'70、アシュ・ラ・テンペル『Ash Ra Tempel』'71、ファウストの『Faust』'71、クラスター(Cluster)の『Cluster 1』'71、ノイ!の『Neu !』'71、アジテーション・フリーの『Malesch』'72、クラウス・シュルツェの『Irrlicht』'72などと共通する作風のものでした。B面はようやくベースの音が聴こえてほっとするB1から、一応ドラムらしいドラムスが聴こえるB2と既成音楽らしい風情がありますが、全体に初期の実験的な『A Saucerful of Secrets』'68、『Ummagumma』'69の頃のピンク・フロイドからの影響が強いのが西ドイツの実験派ロックの特徴で、A面全面を使ったアルバム・タイトル曲もフロイドの『A Saucerful of Secrets』のアルバム・タイトル曲の延長線上にある音楽です。タンジェリン・ドリームの第2作『Alpha Centauri』'71のアルバム・タイトル曲もそうでしたが、もっと徹底していたのがアシュ・ラ・テンペルでデビュー作『Ash Ra Tempel』'71から第2作『Schwingungen』'72、第3作『Seven Up』'72、第4作『Join Inn』'72まで別タイトルですがB面は全部同じ曲の別ヴァージョンで、フロイドの『A Saucerful of Secrets』タイトル曲を下敷きにした即興メディテーション曲でした。プロテスタント国ドイツではロマン派以降の芸術思潮は市民的なプロテスタント信仰に対してキリスト教以前の古代文化・キリスト教圏以外の文化への回帰が常套でしたから瞑想=エスニックとなるようで、フロイドには稀薄だったエスノ色が加わっているのも両アモン・デュール、エンブリオ、ポポル・ヴー、アジテーション・フリー、そしてオルガニザツィオーンの特徴です。

 アルバム発売時にはすでにバンドは解散し、裏ジャケットの左下の隅にトレード・マークの交通標識があるようにヒュッターとシュナイダーはクラフトワークの活動を始めていましたが、クラフトワークではフリー・インプロヴィゼーションがもっとミニマル・ミュージック的な方向性を備え、メディテーション色とエスノ色を払底したものになりました。オルガニザツィオーンからクラフトワーク第7作『The Man Machine』までは1作毎に確かな足どりで創意工夫に満ちた実験的ロックが聴くことができ、これほど純粋に白人音楽でありながら黒人音楽にまで決定的影響を与えてポップスの歴史を変えてみせた存在はないので、やはりこれは大したものです。しかもそこにはこれがロックならば普通ロックと呼ばれる音楽とはいったい何かという批評性すらあり、これもまたクラフトワークの功績となっています。さらに音楽性から想像されるには意外にも、クラフトワークは強力なライヴ・バンドでもありました。次回のご紹介から、それらの側面ももっと探ってみたいと思います。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)