痛快ライヴ!サン・ラ - ユニティ (Horo, 1978) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ユニティ (Horo, 1978)
サン・ラ Sun Ra Arkestra - ユニティ Unity (Horo, 1978)YouTube Unity Full Album 

Recorded Live at Storyville, New York, October 24 and 29, 1977 expect D1, D2 Recorded live at Chateauvaron, France, August 25, 1976.
Released by Horo Records HDP 19-20, 1978
RCA RVI 9003/9004 (Japan, 1979)
(Side One)
A1. Yesterdays (Kern-Harbach) - 5:54
A2. Lightnin' (Ellington) - 2:55
A3. How Am I to Know? (King-Parker-Robbins) - 9:36
A4. Lights [on a Satellite] (Sun Ra) - 5:52
(Side Two)
B1. Yeah Man (Sissle-Henderson) - 3:23
B2. King Porter Stomp (Morton) - 3:53
B3. Images (Sun Ra) - 10:32
B4. Penthouse Serenade (Jason-Burton) - 4:22
(Side Three)
C1. Lady Bird (Dameron) into
C2. Half Nelson (Miles Davis) - 8:41
C3. Halloween [in Harlem] (Sun Ra) - 6:16
C4. My Favorite Things (Rodgers-Hammerstein) - 5:26
(Side Four)
D1. The Satellites [are Spinning] (Sun Ra) - 7:18
D2. Rose Room (Hickman-Williams) - 9:21
D3. Enlight[en]ment (Dotson-Sun Ra) - 2:28
[ Sun Ra Arkestra ]
Sun Ra - organ, Rocksichord
Michael Ray - trumpet
Ahmed Abdullah - trumpet
Akh Tal Ebah - trumpet, vocal
Craig Harris - trombone
Charles Stephens - trombone
Vincent Chancey - frugelhorn
Emmett McDonald - bass horn
Marshall Allen - alto saxophone, oboe, flute
Danny Davis - alto saxophone, flute
John Gilmore - tenor saxophone, clarinet, percussion
Danny Ray Thompson - baritone saxophone, flute
Eloe Omoe - bass clarinet, flute
James Jacson - flute, basoon, percussion
Richard Williams - bass
Thomas Hunter - drums
Luqman Ali (Edward Skinner) - drums
Atakatune - percussion
Eddie Thomas - percussion, vocal
June Tyson - vocal 

(Original Horo Records "Unity" LP Liner Cover & Side One Label) 

 日本盤もアナログLP時代にすぐに発売された本作は、サン・ラ・アーケストラの代表曲あり、古今のジャズ・スタンダードありを2枚組LPに詰め込んだ痛快ライヴ・アルバムです。すでにご紹介したスタジオ・アルバムの佳作『Some Blues but not the Kind That's Blue』(Saturn, 1977年10月14日録音/発売1977年)に続いて、発売順では録音日不詳のライヴ2作『The Soul Vibrations of Man』(Saturn, 録音1977年11月/発売1977年)、『Taking a Chance on Chances』(Saturn, 録音1977年11月/発売1977年)があり、1974年以来サターン・レーベルはバンド直営のフィラデルフィア・サターンと旧来のマネジメント運営のシカゴ・サターンに分裂していましたが、そのライヴ2作はシカゴ・サターン・レーベルから発売された最後のアルバムになりました。以降のサターン・レーベル作品はすべてフィラデルフィア・サターン作品になります。この2作は録音日不詳のため1976年録音説もあり(レーベルに76年プレスのマークがある盤もあるそうです)、ディスコグラフィー上この位置でいいのか微妙なところです。発売順では先(もしかしたら録音も)ながら公式には11月録音ということになっていますが、そうした事情のため発売順に先にその2作をご紹介しました。

 前記2作『The Soul Vibrations of Man』『Taking a Chance on Chances』に続く本作『Unity』(Horo, 録音1977年10月24日、29日/発売1978年)は2枚組の力作ライヴ・アルバムで、満を持したサン・ラ・アーケストラに相応しい華やかさがあります。ホロ・レーベルはイタリアのインディー・レーベルで、本作はバンド側が1977年11月からのヨーロッパ・ツアーに当たって同年10月のニューヨークでのライヴ(一部'76年フランスでのライヴ)を提供したものですが、スタジオ盤『Some Blues but not the Kind That's Blue』に続いて「My Favorite Things」をライヴで再演し、収録曲中3/4がスタンダード曲のカヴァー、1/4はアーケストラの代表的名曲満載という選曲や、サン・ラが使用楽器をオルガンとロクシコード(エレクトリック・ハープシコード)に限定している点でも本作は『Some Blues but not the Kind That's Blue』のライヴ・ヴァージョンという趣きがあり、ただしライヴだけあってスタジオ盤の倍の20人編成で賑やかに演奏していますから、景気の良さや華やかさははるかにこちらの方が上です。このノリノリのアルバムではメンバー全員によるお囃子のようなヴォイス・コーラスも多く聴けるのもライヴのアーケストラならではの魅力です。ホロ・レーベルはインディーでもビクター・レコーズ配給だったので、実質的にはひさびさのメジャーからのアルバム発売になりました。メジャー作品にふさわしく、当初から日本盤も発売されています。「神秘のベールを脱いだサン・ラ、話題の力作!」という日本盤帯の惹句に釣られて購入したリスナーの期待を裏切らない、ビギナーからマニアまでを満足させる明快かつ痛快な内容で、しかもアーケストラの音楽性とジャズの本流のどちらも満たした、素晴らしいライヴ・アルバムです。

 アメリカ本国では再び人気が低迷していたサン・ラ・アーケストラが'77年11月からのヨーロッパ・ツアーを成功させたこともあり、ホロ・レーベルは『Unity』の発売前からスタジオ録音のアルバム『New Steps』(録音1978年1月2日、7日/発売1978年)と『Other Voices, Other Blues』(録音1978年1月8日、13日/発売1978年)の2作を制作します。録音日からもわかるように年明け早々の連続セッションで最初からアルバム2作の予定が組まれていたのですから、まだリリース前の『Unity』の好評・好セールスによほど自信があったと思われます。1977年のローマの熱狂的なコンサート音源を聴いてもアーケストラのイタリアでの人気は十分に高まっており、ヨーロッパでの市場は西欧を代表する伊仏独の三国で定評を得れば北欧・南欧・東欧にもほぼ波及しますから、ホロ・レーベル作品のマーケットは欧州全体の広がりがあったでしょう。フランスのコブラ・レーベルへの『Cosmos』'76はヨーロッパ各国で国ごとに当地のレーベルからライセンス発売されるヒット作になりましたが、新たな解釈による4ビート回帰と音色の統一感のあるソリッドなサウンド、加えてレパートリーの半数がスタンダード曲(曲目の比率はもっと高くなりますが、演奏時間は1曲単位ではサン・ラのオリジナル曲の方が長いので、時間比率にすると半々)という『Unity』は、層の厚いヨーロッパの熱心なモダン・ジャズ・リスナーにも親しみやすい要素を満載したアルバムでした。

 やや話を先取りすると、ツアー中にローマのホロ・レーベル所有のホロ・ヴォイス・スタジオで現地録音された『New Steps』と『Other Voices, Other Blues』の2作はスタジオの狭さからアーケストラのフル編成での録音がかなわず、スケジュール上他の大型スタジオの手配もできなかったため、アルバム単位ではこれまで『Atlantis』1969のA面、実験的な『The Night of the Purple Moon』1970くらいでしか例のなかったカルテット編成のアルバムになります。楽器編成はやや変則的でジョン・ギルモア(テナーサックス)をフィーチャーし、トランペットのマイケル・レイ、ドラムスのルクマン・アリを加え、サン・ラはピアノとベース・キーボード(ダビングによる)を担当しています。ここでも「My Favorite Things」を再演していますがスタンダード曲は他には「Exactly Like You」を採り上げている以外サン・ラ書き下ろしの新曲集ということでも『Cosmos』以来の本格的な新曲スタジオ・アルバムになりました。さらにサン・ラはホロ・レーベル作品録音後にイタリア滞在を延長し、結局1か月あまりイタリア各地をこの2ホーン・カルテットで巡業、1978年1月のイタリアでのライヴ録音から編集された『Media Dreams』『Disco 3000』、帰国後の録音と合わせた『Sound Mirror』の3作がサターン・レーベルから順次リリースされます。その『Disco 3000』三部作、ことに『Disco 3000』はタイトルからしてリスナーを惑わせ、しかもサン・ラ没後の'90年代後半以降になって、もっとも再評価の進んだ先鋭的なアルバムになります。

 このイタリアでのカルテット編成ライヴではベース・キーボードのダビングは再現できないので、サン・ラは新たにリズム・ボックスとシークエンサー内蔵型シンセサイザーを導入し、そこでシークエンサー操作によるベース・ラインとリズム・マシーンが生のドラムス、トランペット、テナーサックスと同居するテクノ・フリー・ジャズとも言うべきスタイルが生まれました。リズム・ボックスとシークエンサーの導入によって再び4ビートから離れたポリリズムへの解放が起こり、簡素な小編成によってメンバー4人のすっきりして自在な演奏が聴けるこの3作は、つい3か月前の『Unity』からの自然な発展でもあり大きな飛躍でもある作品で、サン・ラのリスナー層の広がり(この頃からサターン作品はヨーロッパでは反体制派ロックのRecommendedレーベルから発売されます)や近年の高い人気は『Media Dreams』や『Disco 3000』の再評価によるものとも言えます。音源リンクがあれば、アルバムごとに今後も順次ご紹介していきたいと思います。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)