サン・ラ - ジ・アンティーク・ブラックス (Saturn, 1974) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ジ・アンティーク・ブラックス (Saturn, 1974)
(Reissued 2009 Art Yard CD Front Cover )サン・ラ Sun Ra & His Myth Science Solar Arkestra - ジ・アンティーク・ブラックス The Antique Blacks (Saturn, 1974) 

Released by El Saturn Records 81774, 1974
All composed and arranged by Sun Ra.
(CD Tracklist)
1. The Antique Blacks Suite - 24:39
2. This Song Is Dedicated to Nature's God - 3:56
3. The Ridiculous "I" and the Cosmos Me - 4:37
4. Song No. 1 - 8:47
5. Would I For All That Were - 2:53
6. Space is the Place - 8:03
[ Original El Saturn LP Tracklist ]
(Side A)
A1. Song No.1 - 8:51
A2. There Is Change In The Air - 10:58
A3. The Antique Blacks - 3:39
(Side B)
B1. This Song Is Dedicated To Nature's God - 3:58
B2. The Ridiculous "I" And The Cosmos Me - 4:43
B3. Would I For All That Were - 2:56
B4. Space Is The Place - 8:10
[ Sun Ra & His Myth Science Solar Arkestra ]
Sun Ra - rocksichord keyboards, mini moog synthesizers , vocals, declamation voice
Akh Tal Ebah - trumpet, vocals
Danny Davis - alto saxophone
Marshall Allen - alto Saxophone, percussion, vocals
John Gilmore - tenor Saxophone, percussion, vocals
James Jackson - bassoon, percussion, vocals
Sly (Dale Williams) - electric guitar
Clifford Jarvis - drums, vocals
Atakatune (Stanley Morgan) - congas 

(Various El Saturn "The Antique Blacks" LP Alternate Front/Liner Covers & Side A Label)

 本作は先に掲載したリストではスタジオ・アルバムに分類しましたが、スタジオ録音ではあるもののフィラデルフィアのラジオ局での放送用公開スタジオ・ライヴです。データの通りラジオ音源からアナログ盤収録時間の制限のため編集されたオリジナルLPと、ラジオ放送の完全版を復原した現行CDでは編集が異なるため曲目表記に違いがあり、リンクは現行CDの曲目になっています。オリジナルLPではB4の「Space Is The Place」以外はタイトル上は初出の新曲ですが、上記の事情からライヴ用のインプロヴィゼーションに曲名をつけたものと思われます。1974年2月~3月にメキシコ・ツアーを行ったサン・ラ・アーケストラは立て続けにライヴ録音を残しており、本作に先立ってサターン・レーベルからのアルバムでフィラデルフィアのライヴ録音で収録日・会場不明の『Celebration For Dial Tines』とニューヨークのハンター・カレッジでのライヴ『Out Beyond The Kingdom Of』('74年6月16日録音)があり、本作に続くサターン・レーベル作品には9月録音の『Sub Underground』があります。これらはシカゴのマネジメントが運営していた従来のサターンとは別に、バンド自身が'74年の春に1971年末のヨーロッパ~エジプト・ツアー後の1972年から事務所とメンバーの社宅を移したフィラデルフィアで立ち上げた新サターン・レーベルからの作品でした。それ以降従来のシカゴのマネジメントのアルトン・エイブラハムからのサターン・レコーズとフィラデルフィア・サターンの同時リリースが始まったためにこれらのフィラデルフィア・サターンのアルバムは会場販売限定の変則リリースとなっており、試聴リンクがYouTubeにもアップロードされておらず、また筆者もオリジナル盤通りかどうか疑わしい海賊盤でしか聴いていないため、その2作のご紹介は見送ることにします。また本作『The Antique Blacks』もサターン盤『The Invisible Shield』や『Janus』の余っていた在庫ジャケットに入れられて会場販売されたため、特定のオリジナル・ジャケットのないアルバムとして長い間正体不明のアルバムになっていました。これはバンド手売りのサターン盤をせっせと制作していたサン・ラ・アーケストラならではの事態です。どさくさ紛れにリリースされた『Celebration For Dial Tines』『Out Beyond The Kingdom Of』はマスターテープ紛失ため初回プレスのみの稀覯盤になっており、本作『The Antique Blacks』がようやく2009年に正規再発売されたのはLPマスターではなく、元々のラジオ局音源の発見によるものでした。

 1974年度の後年の発掘ライヴとしては同年のアン・アーバー・ブルース&ジャズ・フェスティヴァルのライヴ『It Is Forbidden』(2001年発売)、12月のサンフランシスコ公演のライヴ『Dance Of The Living Image』(2007年発売)がありますが、特筆すべきは1974年度のライヴには1974年~1979年在籍の、アーケストラ初のレギュラー・ギタリスト、スライことデイル・ウィリアムズの爆裂ファズ・ギター・ソロがフィーチャーされた演奏が聴けることです。ただし発掘ライヴ『It Is Forbidden』『Dance Of The Living Image』の2作の方がギター・ソロのフィーチャー度が高く、この時期のデイル・ウィリアムズの貢献度が注目されるようになったのも『It Is Forbidden』の発掘発売以降のことでした。本作『The Antique Blacks』はアーケストラにしては小編成で、歌姫ジューン・タイソンの参加もなく、またもやベースレス編成で、サン・ラのプレイはエレクトリック・ピアノ系のロックシコード・キーボードの上、ラジオ用放牧音源の制約からかレンジの狭い録音がややバンド全体のスケールをこぢんまりとさせています。楽曲もファンク・リズム中心です。しかしアンサンブルに切り込むデイル・ウィリアムズの狂暴なファズ・ギターは同時期のマイルス・デイヴィスのバンドのピート・コージーを凌ぐ破天荒なもので、ロックなサン・ラを楽しむにはコンパクトにまとまった好盤に上げられます。サン・ラがこのギタリストにどういう指示を出していたかを考えると、アーケストラの音楽性の幅広さにはつくづく感心させられます。本作はあまりに粗末なリリースだったためArt Yard社からのラジオ放送完全版のCD復刻がされるまで注目されなかった不遇なアルバムですが、1974年に入ってサン・ラ・アーケストラが1971年~1973年の作風からさらなる変転を図った時期のライヴ録音として再評価された貴重な音源であり、続くアルバムへのミッシング・リンクとして過渡期のアーケストラが聴ける、ややマニアックな作品ながら、これもまた前後作品と聴きあわせると興味のつきない、この時期ならではの実験的サウンドが聴けるアルバムとして落とせない内容です。幸い現在はArt Yard社からのライヴ放送完全版で聴けるとはいえ、こういうどさくさ紛れの秀作アルバムがあるからサン・ラは油断できません。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)