アモン・デュールII(7) 恍惚万歳! (United Artists, 1973) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

アモン・デュールII - 恍惚万歳! (United Artists, 1973)

アモン・デュールII Amon Düül II - 恍惚万歳!Vive La Trance (United Artists, 1973) :  

Released by United Artists Records UAS 29 504 I, 1973
Produced by Olaf Kubler and Amon Düül II
All composed by Amon Düül II
(Side 1)
A1. けだるい朝 A Morning Excuse - 3:19
A2. ぶっ飛び同盟 Fly United - 3:30
A3. 隠された嫉妬心 Jalousie - 3:29
A4. 不死木 Im Krater Blühn Wieder Die Bäume - 3:08
A5. モザンビーク Mozambique - 7:44
(Side 2)
B1. 黙示録の幻想 Apocalyptic Bore - 6:38
B2. ジキル博士 Dr. Jeckyll - 3:00
B3. 罠 Trap - 3:36
B4. ピッグ・マン Pigman - 2:38
B5. マナーナ~明日には Manana - 3:23
B6. 淑女達の偽装 Ladies Mimikry - 4:20
[ Amon Düül II ]
John Weinzierl - electric guitar (A1-B4, B6), acoustic guitar (A3, A4), bass guitar (A2, B5, B6), vocals (B2, B4)
Chris Karrer - electric guitar (A2, A5-B6), 12 string guitar (B1), violin (B1, B6), saxophone (A2, B3, B4, B6), mellotron (B5), maracas (B5), vocals (A1, B1, B5, B6)
Peter Leopold - drums (A1-B6), percussion (B5), grand piano (A1, A5)
Renate Krötenschwanz Knaup - vocals (A2, A3, A5, B2-B4), choir (A1, A5)
Falk U. Rogner - organ (A4-B1, B3), VCS 3 (A1,A4-B3), harmonium (B1)
Robby Heibl - electric guitar (A1, A2), 12 string guitar (A2), bass guitar (A3-B4), cello (A1), violin (B1, B2), choir (A1), gurke (A5), vocals (A2, B2, B4)
With guests:
Peter Kramper - grand piano (A2, A3)
Lothar Meid - choir (A5), finger snaps (A5)
Keith Forsey - percussion (A5), choir (A5), finger snaps (A5)
Desmond Bonner - choir (A5), vocals (B1)
(Original United Artists "Vive La Trance" LP Liner Cover, Paper Sleeve & Side 1 Label)



 本作はデビュー作以来のプロデューサー、オラフ・カブラー(キューブラー)との最後の共同プロデュース作品になるとともにキーボード奏者のファルク・ログナーによるアルバム・ジャケットも最後になり、次作からはレコード会社も移籍し、ポップ寄りの普通のロック作品になってしまう瀬戸際に位置するアルバムです。A面4曲・B面1曲のデビュー・アルバム時からは似ても似つかない、A面5曲・B面6曲という構成で、前作からは二代目ベーシストのローター・マイトとバンド創設以来のドラマー、ダニエル・フィッシャルシャーが脱退してそれまでのツイン・ドラムスからドラムスはペーター・レオポルド一人になり、マイトの代わりの三代目ベーシストにロビー・へイブルが加入しました。元々メンバーの出入りが激しいバンドでしたが、創設以来のオリジナル・メンバー、マルチ・プレイヤーのクリス・ケーレル(カラー)、ジョン・ウェインジエール(ギター)、ペーター・レオポルド(ドラムス)、ファルク・ログナー(キーボード)、レナーテ・クナウプ(ヴォーカル)体制が機能していたのもかろうじて本作までで、次作以降は、

『Hijack』(Nova, 1975)
『Made In Germany』(2LP, Nova, 1975)
『Made In Germany』(International 1LP Version, Nova, 1975)
『Pyragony X』(Nova, 1976)
『Almost Alive』(Nova, 1977)
『Only Human』(Strand, 1978)
『Vortex』(Telefunken, 1981)

 と(2枚組アルバム『Made In Germany』の国際版1枚編集盤を含む)7作を発表しますが、大作コンセプト・アルバム『Made In Germany』にやや1作限りの独自色が見られる程度で、メンバーの出入りはさらに激しくなり、バンド創設以来のリーダー、クリス・カーレルもアルバムごとに新加入メンバーにリーダーシップを譲って何とか時流に乗ったフュージョン色、ディスコ色と迷走した挙げ句、1981年の『Vortex』を最後にバンドは自然消滅してしまいます。第5作『狼の街 (Wolf City)』までの全盛期の名盤連発からはほど遠い末路をたどりましたが、ヒッピー集団出身にもかかわらずプロ指向で奔放に作品を作ってきた体質が後期からは裏目に出た格好とも言え、それもアモン・デュールIIらしいと思えます。『Hijack』以降のアルバムは中古LP市場で捨て値でゴロゴロしていますが、『狼の街』までのアモン・デュールIIを知らなければそれなりに‘70年代後期~‘80年代初頭らしいコンテンポラリーなサウンドなので、案外後期7作(実際は6作ですが、国内向け2枚組ヴァージョンと国際向け1枚編集の『Made In Germany』はまるで印象の異なる作品に仕上がっています)のアモン・デュールIIが好き、という方も案外いらっしゃるのではないかと思われます。ただしクラウトロックと言えるのはぎりぎり本作まででしょう。1995年に復活したアモン・デュールIIも『バビロンの祭り』『狼の街』の頃のメンバーで再結成されており、『Hijack』から『Vortex』までの時期のレパートリーはなかったことにされています。

 ライヴ盤を出すと音が変わる、とはアナログLP時代のアーティストについてよく言われたことですが、アモン・デュールIIの場合もそうで、前作のライヴ盤『ライヴ・イン・ロンドン (Live in London)』を経た本作は1曲単位が簡潔にまとめられた、1枚もので全11曲のコンパクトなアルバムになりました。本作の次にリリースされたのは、アルバム未収録曲を含むリバティ~ユナイテッド・アーティスツ時代のベスト盤『レミングマニア (Lemmingmania)』(United Artists, 1975)なので、同ベスト盤がアモン・デュールII最後の傑作かもしれません。
Amon Düül II - Lemmingmania (United Artists, 1975) :  

 またアモン・デュールIIの1995年の再結成に先立って、本作『Vive La Trance』発表前後のBBCライヴ『Amon Düül II - BBC Radio 1 Live In Concert』(Windsong, 1992)が発掘発売されており、公式録音ならではの最高音質と『ライヴ・イン・ロンドン』とは重ならない選曲で当時のアモン・デュール全盛期のアルバム一斉CD化とあいまって大きな話題を呼び、日本盤もリリースされました。
Amon Düül II - BBC Radio 1 Live In Concert (Windsong, 1992) :  

 本作『Vive La Trance』の佳曲と言えるのはA5「Mozambique」、B3「Trap」、B4「Pigman」、B5「Manana」B6「Ladies Mimikry」あたりでしょうか。11曲中5曲ですからまずまずですが、1969年のデビュー・アルバム『神の鞭 (Phallus Dei)』から1972年の第5作『狼の街 (Wolf City)』までのヘヴィ・サイケな名曲群と較べると、良い意味軽やか、難じれば薄味で大味で、これならアモン・デュールIIでなくてもいい、というぎりぎりの普通のロックに近づいています。本作の特徴は浮遊感で、『狼の街』までのヘヴィさから重みを抜いたのがこの浮遊感なら、ヘヴィというよりタイトなサウンドで第2作『地獄!(Yeti)』、第3作『野ネズミの踊り (Tanz der Lemminge)』の曲を演奏した『ライヴ・イン・ロンドン』からの進展も、やはりヘヴィさよりもカラフルな方向にサウンドを進めた第4作『バビロンの祭り (Carnival In Babylon)』からの隔世遺伝と合わせて、アモン・デュールIIなりのサイケデリック・ロックの追求と見ることができるでしょう。しかし『バビロンの祭り』も全6曲とデビュー以来の即興性の高さを保ったアルバムだったのに対し、またデビュー作から第3作までのサウンドを完成度の高い濃縮した楽曲にまとめた名盤『狼の街』に較べると、本作は即興性の大幅な後退と緊張感の欠如が気になります。ヒッピー・コミューンの素人集団だったオリジナル・アモン・デュールが『サイケデリック・アンダーグラウンド』や『崩壊』の狂乱から『楽園に向かうデュール』の虚無的なアシッド・フォークに進んだようには、プロ指向の分家アモン・デュールIIは第5作『狼の街』まででヘヴィな作風の頂点に達し、タイトなライヴ盤『ライヴ・イン・ロンドン』を経て好くも悪くも楽曲本位の軽やかなロック・バンドに変貌を遂げた、と言えそうです。次作『Hijack』はレコード会社移籍、スタジオ・ミュージシャンによるホーン・セクションの大々的な導入で一気にコンテンポラリーなサウンドになり、サイケデリック色を一掃してしまうので、本作とアルバム未収録曲を多く含むベスト盤『レミングマニア』、のちに発掘された『BBC Radio 1 Live In Concert』までで本来のアモン・デュールIIのコンセプトは霧散してしまったと目せます。しかし6作の傑作名作佳作スタジオ・アルバム、2作の快作ライヴ盤、1作の傑作ベスト盤を残したバンドに、後期7作は蛇足と言えども賞賛以外の何が贈れるでしょうか。しかもデビューから55年を経てなお、アモン・デュールIIは現役バンドとして活動しているのです。