裸のラリーズ Les Rallizes Denudes - ブラインド・ベイビー・ハズ・イッツ・マザーズ・アイズ Blind Baby Has Its Mothers Eyes (Japanese Rock, 2003) :
Track 3 Recorded 'le 12 mars 1977 a Tachikawa' (立川市民教育会館)
Compilation released by Japanese Rock CD-R JAPANESE ROCKの原点02, 2003
Reissued by Phoenix Records UK, ASHCD3035, 2010
All written by Takashi Mizutani (水谷孝)
(Tracklist)
1. Blind Baby Has Its Mothers Eyes (aka 氷の炎) - 19:11
2. An Aweful Eternitie (aka 残酷な愛) - 18:06
3. The Last One - 17:00 (short edit version)
[ 裸のラリーズ Les Rallizes Denudes ]
Mizutani (水谷孝) - lead Guitar, vocals
Track 1, 2 were second guitar, bass, drums unknown.
Nakamura Takeshi (中村武司) - electric guitar (track 3 only)
Hiroshi (楢崎裕史) - bass (track 3 only)
Mimaki Toshirou (三巻俊郎) - drums (track 3 only)
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水谷孝(1948-2019)率いる裸のラリーズ(1967年結成~1996年まで活動)の本作も、イギリスのミュージシャン・批評家ジュリアン・コープが日本のロック研究書『ジャップロック・サンプラー(Japrock Sampler)』2007巻末の「ジャップロック・トップ50」で日本のロック名盤12位に選出し、やはり3位を飾った『ヘヴィアー・ザン・ア・デス・イン・ザ・ファミリー (Heavier Than A Death In The Family)』(Ain't Group Sounds, 1995)とともにコープの絶賛によって広く欧米諸国でイギリス盤がロングセラーになっているアルバムです。『Heavier Than~』は裸のラリーズの3作きりの公式アルバム中『LIVE '77』から選曲・再構成したコンピレーション盤でしたが、本作も全3曲がすでに流出していた音源から編集されたコンピレーション盤であり、代表曲が並びベスト盤的性格を持つ『Heavier Than~』を補うような位置にあるアルバムと言っていいでしょう。『Heavier Than~』のご紹介では成立事情を主に詳述しましたが、本作は『ジャップロック・サンプラー』のジュリアン・コープの評をそのままご紹介してアルバム解説に代えたいと思います。
《BLIND BABY HAS ITS MOTHERS EYES》
(ジャパニーズ・ロック、2003年)
ディストーションの巨大な板が、この怪物のように直進的なアルバムのあらゆる継ぎ目を覆っている。超モノリス的なベースラインは、ところどころでダブっぽく消え去り、おかげで高音部が、大渦巻きに飲みこまれるのを待つ小舟のようにぐらついている。リード・ギターはこれまでにも増して、耳鳴りのする忘却に華々しくのめりこんでいるようで、水谷は自分の詩神にポスト黙示録的なのっぺらぼうさをもたらそうとするあまり、ハイハットとかき鳴らされるギターがプレイするつなぎのリズムを、意図的に捨て去っている。だがすさまじいアンプの雑音にもかかわらず、楽器の分離はギリギリで聞き取れ、この演奏がスタジオ・テイクであること、そして雑音はあえてのものだということがわかってくるのだ。水谷は80年代はじめ、これらの曲をより短縮化したヴァージョンでライヴ演奏し、80年代なかばから末期にかけてのスタジオ・セッションでも演奏していたことが知られている。圧倒的なパワーを持つオープニングのタイトル・トラックは、それまでにも何度かアルバムに収められていたグループの大作「氷の炎」を大きく改作した80年代ヴァージョンだ。このヴァージョンがまったく異なるベースラインに支えられ、まったく異なるメロディと、まったく異なる唱法で、まったく異なる歌詞をつけて歌われているという事実は、決して驚くにあたらない。トラック2は「An Aweful Eternitie」、またの名を「残酷な愛」という、抑圧されたモンスター。高音も低音もない、よそよそしい、謎めいた作品で、とりとめのない瞑想は、目的地に急ぐそぶりをいっさい見せない。このヴァージョンは10枚組のボックス・セット『STUDIO & SOUNDBOARD 1979-1986』で初登場し、1986年4月にレコーディングされたと言われている。レコードを締めくくるのは、当然のように「The Last One」で、ここにはピンと張りつめた、ハイエナジーな17分ヴァージョンが収められている。
(翻訳2008年・白夜書房刊。この項全文)
コープは意図的にか言及していませんが、本作の「The Last One」は公式アルバム『Live '77』のディスク2-3に収められた25分24秒のテイクの「The Last One」を短縮編集したものと早くから指摘されており、『Heavier Than A Death In The Family』ではこの曲は未収録でしたから、短縮編集版なのが残念(CDならフル収録可能だったでしょう)とはいえ本作でラリーズのライヴでは1969年以来必ず最後に演奏されていた代表曲「The Last One」が聴けることになります。『Heavier Than~』に未収録だった『Live '77』からのもう1曲「記憶は遠い」は初演時からあまりアレンジの変わらない曲で、'80年代のライヴ・ヴァージョンながらやはりコンピレーション盤『December Black Children』に収められていますから、イギリス盤がロングセラーになっている『Heavier Than~』と本作、『December Black Children』の3作で『Live '77』の収録曲全曲が聴けます。本作と『France Demo Tapes』に共通収録されている「氷の炎」は時期が近いからかアレンジが似通っていますが、『Heavier Than~』の「氷の炎」とはまったく異なるアレンジです。『Heavier Than~』と『France Demo Tapes』に共通収録されている「夜より深く」(この曲は短調のヴァージョン「夜より深く Part 2」としても演奏されます)もまるで別曲のようにアレンジが異なります。30年間の活動でライヴ・レパートリーが20曲にも満たないラリーズに200枚以上もの発掘音源が出回っているのは、演奏されるたびに楽曲が変化していく様子が聴けるからです。
ちなみに本作がSNS上でどのような評価をされているかあちこち探してみたところ、各種の有名な音楽サイトはともかく、「旦那のCD棚を聴く」という主旨でブログを書いていらっしゃる主婦らしき方の面白い評を見つけました。
「『Blind Baby Has Its Mothers Eyes』Les Rallizes Denude
情報がなさすぎるけど
おそらくフランス人だろう
【感想】
どう考えても雑音です
有難うございます」
コープさん、日本でも一般的には裸のラリーズへの認識はおおむねこんなものなんですよと教えてあげたくなる寸評です。本作の裏ジャケットにも「SEDAKA NO RALLIZES」と誤植されているではないですか。
(旧記事を手直しし、再掲載しました。)