サン・ラ - ザ・シャドウズ・トゥック・シェイプ (Transparency, 2007) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ザ・シャドウズ・トゥック・シェイプ (Transparency, 2007)
サン・ラ Sun Ra and His Arkestra - ザ・シャドウズ・トゥック・シェイプ The Shadows Took Shape (The Lost Reel Collection #3) (Transparency, 2007) 

Released by Transparency Records 0303, 2CD, 2007
(Disc 1)
1-1. Outer Space - Untitled Improvisation - 18:01
1-2. Stardust from Tomorrow - 5:40
1-3. Exotic Forest - 16:20
1-4. Untitled Improvisation - 2:24
1-5. Shadow World - 5:41
(Disc 2)
2-1. Untitled Improvisation - 13:54
2-2. Strange Worlds - Untitled Improvisation - 6:36
2-3. Enlightenment - 2:40
2-4. Outer Spaceways Incorporated - 2:02
2-5. Prepare for the Journey to Other Worlds - 7:39
2-6. The Shadows Took Shape - 2:24
2-7. Friendly Galaxy - Watusi - 12:39
[ Sun Ra and His Arkestra ]
Sun Ra, June Tyson, John Gilmore, Marshall Allen, Kwami Hadi and others unidentified.  

 2007年にリリースを開始したアーケストラ公認のサン・ラとサン・ラ・アーケストラ関連ミュージシャン専門発掘レーベル、Transparency社の第一弾アルバムになったのが2007年に一斉リリースされた未発表発掘ライヴ『The Lost Reel Collection』シリーズのVol.1『The Creator of the Universe』、Vol.2『Intergalactic Research』、Vol.3『The Shadows Took Shape』、Vol.4『Dance of the Living Image』でした。同社はその後もライヴ録音、未発表録音の発掘を続けており、旧サターン盤のリマスター/エクスパンデッド・エディションをリリースしているEvidence社やYard Ard社、やはり発掘リリースに取り組んでいるTotal Energy社と並ぶサン・ラ専門レーベルで、Transparency社のリリースはリハーサル音源からライヴ音源まで極端にマニア向けの発掘で知られます。まずは公式リリースの、せめて代表アルバム(サン・ラの場合代表アルバムだけでも膨大ですが)を先に聴いておかないとTransparency盤は敷居が高すぎるほど高い性格のものとすべきですが、『Lost Reel Collection』シリーズは2008年リリースのVol.5『The Universe Send Me』、2010年リリースのVol.6『The Road To Destiny』と続き、2008年にはCD6枚組におよぶ『Live at Slug's Saloon』、2010年には長年テープの所在をマニアに悩ませてきた『Live in London 1970』、さらに2011年にはサン・ラのアマチュア時代の1921年の参考音源から1959年までのさまざまな参考音源や未発表セッション、1976年の発掘ライヴをまとめた14枚組CDボックス『The Eternal Myth Revealed Vol.1』、またさすがにオンデマンドの受注プレスですが2007年には驚異の28枚組(アナログLPならほぼ60枚!相当の)CD-R『The Complete Detroit Jazz Center Residency Dec. 26th, 1980 - January 1st. 1981』(サン・ラ生前のサターン盤ではアナログLPで『Beyond The Purple Star Zone』『Oblique Parallax』の2枚分だけ抜粋発表されていた一週間連続コンサートの完全版)にいたるまでリリースしています。現在流通しているサン・ラのアルバムは生前発表作品、生前制作ながら未発表に終わり没後発表された作品、生前のサン・ラ側にリリースの意図がなく没後発掘されたスタジオ録音・ライヴ録音が混在しているのでこれらTransparency社の発掘リリースのシリーズは位置づけが難しく、これまでに取り上げたのはどちらもバンド側にリリースの意向はなかった観客録音の発掘ライヴ音源『Live in London 1970』と放送局が録音していた音源で2009年リリースの『Helsinki 1971』のみですが、どうも『Lost Reel Collection』のシリーズにはサターン側がリリース候補としてレコーディングしてあったマスターテープをソースとしたものも含まれているようなのです。そうした発掘録音の性質上ご紹介するタイミングに困っていたのですが、公式スタジオ・アルバム『Astro Black』に先立ってVol.3『The Shadows Took Shape』がちょうどこの位置にあり、さらに先立つVol.1、Vol.2、また比較対象として再度の掲載になりますが『Live in London 1970』ともどもまとめてご紹介することにします。
Sun Ra and His Arkestra - The Creator of the Universe (The Lost Reel Collection #1) (Transparency, 2007)
Disc 1 Recorded live at The Warehouse, San Francisco, on June 10, 1971
Disc 2 is a lecture at UC Berkeley on May 4, 1971
Released by Transparency Records 0301, 2CD, 2007
(Disc 1) :  

1-2. Unidentified Title - 20:39
1-3. Unidentified Title - 6:30
1-4. Unidentified Title - 6:20
1-5. Satellites are Spinning - 3:31
1-6. Enlightenment - 1:39
(Disc 2)
2-1. Lecture by Sun Ra - 47:38
Sun Ra and His Arkestra - Intergalactic Research (The Lost Reel Collection #2)  (Transparency, 2007) Full Album
Disc 1 performance at Native Son, Berkeley, CA on summer 1971
Disc 2 Location Unknown circa 1972
Released by Transparency Records 0302, 2CD, 2007
(Disc 1) :  

1-2. Strange Worlds / It's after the End of the World / Outer Spaceways Inc. / Why Go to the Moon - 6:26
1-3. Untitled Improvisation - 7:25
(Disc 2) :  

2-2. Outer Space - 7:19
2-3. Untitled - 6:51
2-4. Intergalactic Research - 14:13

 サン・ラの公式録音アルバムのリリースでエジプト公演三部作『Live in Egypt I』『Nidhamu』『Horizon』(1971年12月収録、1972年~1973年リリース)の次に来るのは、録音順ではインパルス!社との契約第一弾アルバム『Astro Black』(1972年5月録音、1973年リリース)、発表順ではエジプト公演三部作の直前の公式アルバムには1970年10月のドイツ公演のライヴ『世界の終焉 (It's After the End of the World)』に続く、1971年夏にカリフォルニアでの大学での教鞭に伴って会場不明で西海岸で録音された新曲ばかりのライヴ盤『Universe in Blue』1972がありました。ご紹介済みの同作は大学での黒人音楽文化講義の教材サンプル演奏をアルバム化したものであり、『Lost Reel Collection』のVol.1『The Creator of the Universe』、Vol.2『Intergalactic Research』はライヴ未編集版(マスターテープ由来の欠損はありますが)の『Universe in Blue』と見なせるアルバムになっています。録音状態もサターン盤としてならば十分に公式録音と言えるもので、『Universe in Blue』制作に当たってリリース候補の素材、または参考資料としてアーケストラ側がライヴ・レコーディングしていたと思われる内容です。未編集のためライヴ・アルバムとしての完成度は求むべくもありませんが、Vol.1『The Creator of the Universe』ディスク2にはサン・ラの音楽文化講義、Vol.2『Intergalactic Research』ディスク2にはムーグ・シンセサイザーの各種パターンのサンプル演奏が収められており、リスナーにサン・ラの授業の聴講生の気分を追体験させてくれる格好のテキストとして聴ける発掘アルバムです。このVol.1とVol.2はメンバー不詳ながら時期的にもロケーション的にも『Universe in Blue』と同一メンバーのアーケストラによる演奏でしょう。Vol.4『Dance of the Living Image』、Vol.5『The Universe Send Me』、Vol.6『The Road To Destiny』はいずれも1973年~1974年の発掘ライヴなのでご紹介は後に見送りますが、Vol.3『The Shadows Took Shape』は録音場所・日時不明ながらアーケストラの公式サイトでは5月録音の『Astro Black』に先立つ1972年の発掘ライヴとされており、CD2枚トータル96分におよぶ内容は1971年秋のヨーロッパ~エジプト・ツアー後の過渡期のアーケストラの演奏が良好な音質で聴ける興味深いものです。Transparency盤ではメンバーが明記されていますがアーケストラ公式サイトではサン・ラ(各種キーボード)、ジューン・タイソン(ヴォーカル)、ジョン・ギルモア(テナーサックス)、マーシャル・アレン(アルトサックス、フルート、オーボエ、ピッコロ)、クヮディ・ハディ(トランペット)以外メンバー不詳となっており、2か月間におよんだ長期ヨーロッパ・ツアーの後にニューヨークからフィラデルフィアにアーケストラの本拠地(事務所兼スタジオとバンドの社宅)を移したこともあって、メンバーの再編が行われたのが推察されます。何しろ中核メンバーほぼ10人、準レギュラー・メンバー15人~20人、スタッフも合わせれば総勢40人あまりのビッグバンド経営をしていたのですから年間200回以上のライヴ本数、10枚近いレコーディングをこなさないとメンバーが食べていけません。ジャズ不況の'70年代にいかにサン・ラ・アーケストラが異例の存在だったかがわかろうというものですが、ここでのアーケストラは過激な実験的フリー・ジャズだった1970年秋ツアー、ゴスペル色の強かった1971年秋ツアーから一転してパーカッション・アンサンブル中心にアフロ色を前面に押し出したサウンドに変化しており、'50年代後期のエキゾチックなサウンドを'60年代中期以降の実験的フリー・ジャズで濾過したような演奏になっています。ステージではそれで良いとしても、レコード作品ではこのままでは散漫になってしまいますからこのサウンドをいかに凝縮したスタジオ・アルバム化するかが『Astro Black』からの課題だったのがうかがえる貴重なライヴ音源です。作品性は別とすれば演奏内容は充実しており、レコード作品にパッケージ化されたアーケストラと生のアーケストラのライヴを比較するにも、ライヴ中継のラジオ番組を聴くように快適に聴き流しても楽しめる、無編集・ノーカットの自由奔放な演奏が聴ける発掘ライヴです。

 問題なのは以前にもご紹介した伝説的な1970年11月の初イギリス公演を収録した『Live in London 1970』で、これは以前にもご紹介しましたがTransparency社ならではのリリースとして再びご紹介しておきましょう。1970年8月にサン・ラ・アーケストラは初めてフランスで海外公演を行い大好評を博し、10月にはフランスへの再度の公演からドイツ、オランダ、スペイン、イタリアを回り、イギリスで3公演を行って帰国します。この時の2度におよぶ西ドイツでのジャズ・フェスティヴァル出演から1枚のアルバムに選び抜いたのがサン・ラ史上初の国際メジャー・リリース(ポリドール)になったアルバム『世界の終焉 (It's After the End of the World)』でした。イギリス3公演の幕開けになった11月9日ロンドンのエリザベス・ホールでのコンサートは満席の観客に驚愕をもって迎えられ、この公演を見て呆気にとられたデイヴィッド・トゥープが観客の受けた衝撃を伝える貴重な証言をしています。日本でもそうですが外国からのミュージシャンの公演はほとんどが放送局や会場主宰者によって放送用・記録用に録音されており、サン・ラのヨーロッパでの発掘ライヴもほとんどが主宰者や放送局によって録音されたものですが、イギリスのエリザベス・ホール、セイモア・ホール、リヴァプール大学ホールでの3公演はいずれも公式録音が残されませんでした。せめて誰か観客なり、できればスタッフなりが隠し録りしたテープがあるのではないかと長年テープが捜索されてきましたが、ついにTransparency社が見つけ出してきたそのイギリス公演初日、エリザベス・ホールでのライヴは2010年にCD2枚組で発売されました。アーケストラ公式サイトもこのリリースを公認しましたが、サイト内のアルバム・ディスコグラフィーでわざわざ注釈をつけています。
「注記: サン・ラを聴くのに本質的には音質は関係ないとしても、この発掘ライヴは限度を越えている。Amazonに寄せられたユーザー評を引く。『これまでに聴いたどんな最悪の音質の録音よりもさらに劣悪な音質を想像すればこれになる。このアルバムを買うのは20ドルの紙幣を火にくべるようなものだ』『バスルームではなくホールで録音されたとは信じがたい。まるでオーディオが壮絶に壊れたようだ』本当にハードコアなサン・ラのコレクターにしかお薦めできない」。
 キング・クリムゾンの『Earthbound』、キャバレー・ヴォルテールの『Y.M.C.A.』、SPKの『Live At The Crypt』など意図的にローファイなサウンドを狙ったロックのライヴ盤をもってしても、この『Live in London 1970』の前にはハイクォリティー・サウンドにすら聴こえます。音楽的な効果を狙った音質劣化ではなく単なる客席からの隠し録り録音の大失敗で、ワイヤーの名曲「Underwater Experience」のように鼓膜に水が入ったままバンジー・ジャンプしているような音響がひたすら続いて何を演奏しているのかもわかりません。サン・ラだから、伝説的な1970年秋のロンドン公演だからという以外CD化などもっての他のようなオーディエンス録音の劣悪音質です。もちろんアーケストラ側には何の非もなく、実際のコンサートの音響は通常通りのコンサート・ホールのサウンドだったでしょうから、結局イギリス公演はまともなライヴ・テープが存在しなかったと割り切るしかないでしょう。リリースしたTransparency社も相当なものですが、よくまあ40年間も録音者がこの壊滅的録音状態のテープを破棄しなかったものです。このようにTransparency社の発掘リリースにはピンからキリまでありながら、サン・ラの録音なら何でも聴きたいリスナーが現在では世界中にいるということです。
Sun Ra and The Intergalactic Research Arkestra - Live in London 1970 (Transparency, 2010) Full Album
Recorded live at London's Queen Elizabeth Hall, November 9, 1970
Released by Transparency Records 317, 2CD, 2011
(Disc 1) :  

1-2. Walking On The Moon
1-3. Outer Spaceways Incorporated
1-4. Untitled
1-5. The Shadow World
1-6. Untitled
1-7. Watusi
1-8. Theme Of The Stargazers
1-9. Life Is Splendid
1-10. Moog solo
(Disc 2) :  

2-2. Untitled
2-3. Planet Earth
2-4. Second Stop Is Jupiter / Myth vs. Reality / It's After The End Of The World
2-5. Untitled

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)