サン・ラ - エジプト三部作(トリロジー) (El Saturn, 1972/1973) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - エジプト三部作(トリロジー) (El Saturn, 1972/1973)
サン・ラ Sun Ra and his Astro-Intergalactic-Infinity Arkestra - ホライズン Horizon (El Saturn, 1973) 

Released by El Saturn Records 1217718 / 849, 1973
In various editions, the record has sometimes been known by the other title of "Starwatchers"
Tracks 4, 5, 10, 11 previously unreleased Bonus tracks on Art Yard CD 008, 2008
(Side A)
A1. Starwatchers/Theme of the Stargazers - 1:22
A2. Discipline #2 - 5:28
A3. Shadow World - 16:42
4. Enlightenment - 2:37
5. Love In Outer Space - 7:13
(Side B)
B1. Third Planet - 6:44
B2. Space is the Place - 6:10
B3. Horizon - 5:31
B4. Discipline #8 - 11:22
10. We'll Wait For You - 1:38
11. The Satellites Are Spinning - 11:14
サン・ラ Sun Ra and his Astro-Intergalactic-Infinity Arkestra - ニドハム Nidhamu (El Saturn, 1972) Full Album
A1, A2, B1 were recorded live at the Ballon Theatre in Cairo on December 17, 1971; B2 is a solo keyboard performance recorded at the House of Hartmut Greeken, Heliopolis, Cairo, December 12
Released by El Saturn Records Thoth Intergalactic 7771, 1972
In various editions, the record has sometimes been known by the other title of "Live in Egypt II" 
(Side A)
A1. Space Loneliness #2 - 11:41 :  

B1. Discipline #15 - 2:44 :  

サン・ラ Sun Ra and his Astro-Intergalactic-Infinity Arkestra - ライヴ・イン・エジプト・I Live in Egypt I (El Saturn, 1972) Full Album
Side A are from a television broadcast on December 16, 1971 and include an interview with Sun Ra; Side B recorded at the House of Hartmut Greeken, Heliopolis, Cairo, December 12
Released by El Saturn Records Thoth Intergalactic KH-1272
In various editions, the record has sometimes been known by other titles, "Dark Myth Equation Visitation" and "Nature's God" 
(Side A) :  

A2. Solar-Ship Voyage - 2:33
A3. Cosmo-Darkness - 2:08
A4. The Light Thereof - 5:12
(Side B)
B1. Friendly Galaxy No 2 - 10:16 :  

Sun Ra - organ, Mini Moog, piano
John Gilmore - tenor saxophone
Danny Davis - alto saxophone, flute
Marshall Allen - alto saxophone, flute, oboe
Kwame Hadi - trumpet, conga drums
Pat Patrick - baritone saxophone
Elo Omoe - bass clarinet
Tommy Hunter - percussion
Danny Thompson - baritone saxophone, flute
Larry Narthington - alto saxophone, conga drum
Lex Humphries - percussion
Clifford Jarvis - percussion
Hakim Rahim - alto saxophone, flute
June Tyson - vocal
Tam Fiofori - Engineer 

(Original El Saturn "Horizon", "Nidhamu" & "Live in Egypt I" LP Liner Cover)

 両手を上げてお薦めしたい今回の作品は、これまでも何度となく言及してきたサン・ラ・アーケストラの記念碑的三部作、1966年の名盤『ナッシング・イズ』、1970年秋のドイツでの大傑作ライヴ『世界の終焉』に並ぶサン・ラの最強ライヴがこのエジプト三部作です。オリジナルのサターン盤はLP3枚にもおよび、現在ではサン・ラ専門復刻レーベル、Art Yard社の丁寧な2008年版リイシューによって、三部作全篇が未発表テイクを加えた増補版でCD2枚にまとめられました。最初に触れるサン・ラのアルバムとしても『ナッシング・イズ』(またはノーカット版『College Tour: Complete Nothing Is』)や『世界の終焉』(またはノーカット版『Black Myth/Out in Space』)と同格かそれ以上に、質・量ともに充実、かつ傑出したライヴ・アルバムです。本作にいたるサン・ラの足跡をたどると、先にご紹介した1971年8月・カリフォルニアでのライヴ・アルバム『Universe In Blue』に続いて10月~12月に、アーケストラはヨーロッパ巡業を行いました。そのうち予定されていたツアー終盤のストックホルム公演がバンドによって正式にライヴ録音され、LP用に編集されてインディー・レーベルのブラック・ライオンに買い取られましたが、その『Calling Planet Earth』は1998年まで発表されませんでした。今回のツアーは1970年のヨーロッパ・ツアーよりゴスペル・ファンク色が増していたのが同作からもうかがわれ、『Universe In Blue』が1作限りのコンセプトではなかったことがわかります。大学の客員教授体験がサン・ラの説教癖に火をつけたか、翌1972年にはサン・ラ主演のSF映画にして伝説的な黒人至上主義カルト・ムーヴィ『Space Is The Place』が製作されることになります。

 この変化はサン・ラにはより根源的な黒人性の追求であり自然な流れだったと思われますが、前1970年のヨーロッパ巡業ではサン・ラはフリー・ジャズの伝説的バンドとして好評を博していたので、今回サン・ラの意図したゴスペル・ファンク色の強化は少なからず当惑を持って迎えられました。観客動員は前年の評判から大盛況だったようで巡業先諸国でテレビ出演が依頼され、11月11日のオランダでのコンサートはテレビ放映されています。『Calling Planet Earth』のように短縮編集されていないので、このコンサート音源は公式なCD化はされていませんし、テレビ放映の音声トラックから起こしたナロウ・レンジのコピー盤でしか出回っていませんが、発掘盤『Helsinki 1971』同様1971年秋ツアーのフル・セットを聴ける貴重でエキサイティングな演奏です。今回、肝心要のエジプト三部作の全曲が曲ごとのリンクしか引けないものもあるので、こちらも(テレビ放映からの音声のみのエアチェックですが)参考までに載せておきます。音質はエアチェックとしては良好で、内容はノリノリの好ライヴです。
◎Sun Ra Arkestra -  Live in Delft Holland 1971 Part 1 - 47:22 :  

Technische Hogeschool, Nieuwe Aula, Delft, The Netherlands 11-11-71 
The Arkestra appeared at the Technische Hogeschool, Nieuwe Aula in Delft, on November 11, 1971. Once again, the state-run radio station recorded the concert and broadcast it on November 14. According to Campbell and Trent, portions of this concert were also televised on Dutch TV on November 17, but the tape no longer exists in the VPRO archive (p.176). The audio recordings do exist, however, and, fortunately for us fans, the entire three-hour concert was re-broadcast in 2001. The sound quality is exceptionally good. 
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Part 1.
1. Enlightement
2. Love in Outer Space
3. Space Is the Place
4. Journey Through the Outer Darkness
5. We'll Wait for You
6. Theme of the Stargazers
7. Discipline 27-II
8. Outer Spaceways Incorporated
Part 2. (Continued)
1. They'll Come Back
2. Percussion interlude
3. Discipline 1
4. Vibes Improvisation
5. Discipline 2 vox
6. Improvisation
7. Intergalactic Research
8. Spaceship synthesizer solo
9. The Satellites are Spinning
10. Discipline 3
11. Watusi
12. Sometimes you should appreciate the work of Nature's God

 ツアー先のライヴ録音をすぐさまインディー・レーベルに売りつけたのは、この際現地で資金調達して念願のエジプト公演を決行してしまおうではないか、という無茶な計画によるものでした。古代エジプト人こそが土星から植民した黒人民族の発祥であり、すなわち有史以降の地球上の文明はすべて黒人文化を源泉としたものである、というのがアーケストラ結成時からのサン・ラの持論でアーケストラのメッセージでしたから、ヨーロッパ巡業終了の12月中旬にバンドはエジプト入りします。そこでテレビ出演(日時不詳、『Live in Egypt I』A面)、パトロン宅のホームパーティ出演(12月12日、『Live in Egypt I』B面、『Nidhamu』タイトル曲)、カイロのボールルーム(社交ダンス会場)出演(12月17日、『Nidhamu』タイトル曲以外)、『Nidhamu』に入りきらなかった12月17日公演をまとめた『Horizon』の三部作が録音されました。サン・ラの音楽などまったく知らないエジプトの観客に向けた、実現しただけでも驚異的なライヴで、しかも大成功したために、数日間の予定が次々出演依頼を引き受けているうちに2週間の滞在になったといいます。

 アルバム発売は『Nidhamu』『Live in Egypt I』『Horizon』の順でしたが、ややこしいのは『Live in Egypt I』発表後に『Nidhamu』が『Live in Egypt II』と改題再プレスされたり、かと思うと『Live in Egypt I』が『Nidhamu』と『Horizon』(『Starwatchers』とも改題版あり)に準じて『Dark Myth Equation Visitation』や『Nature's God』と改題されて短期間のうちに再プレスされていることで、この3作は順不同で「エジプト三部作」とまとめて1作とした方がいいでしょう。音楽性は意外にも'50年代アーケストラのまろやかな側面とフリー・ジャズ化した後の壮絶で熱烈な音楽性が1971年ツアー特有のゴスペル・ファンク色とバランスを取っており、サン・ラの実験的ムーグ・ソロを含め焦点の絞れた内容になっています。その点でもツアー序盤の22人編成から13人編成に凝縮し(経費面での理由もあったでしょうが)、4人だったヴォーカル隊も歌姫ジューン・タイソン一人に絞ったのがエジプト公演では功を奏したのが伝わってきます。CD化ではサン・ラ専門の正規再発レーベルArt Yardから発掘されたアルバム未収録曲を足して1.5倍の収録内容になった『Horizon』が三部作中で優先発売され、『Nidhamu』と『Dark Myth Equation Visitation(Live in Egypt I)』を合わせた2in1CDが2008年に出てロングセラーになっており、廉価版の輸入CD2枚で揃うこの雄渾なエジプト三部作は1965年の『The Heliocentric Worls of Sun Ra』以来のクールで過激なフリー・ジャズからより黒いブラック・ミュージックへの転換を明確に示すものとなっています。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)