サン・ラ - コーリング・プラネット・アース (Freedom, 1998) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

 サン・ラ - コーリング・プラネット・アース (Freedom, 1998)サン・ラ Sun Ra & His Arkestra - コーリング・プラネット・アース Calling Planet Earth (Freedom, 1998)YouTube Calling Planet Earth Full Album
Recorded live at Tivoli Hall, Copenhage, Denmark, December 5th. 1971.
Released by Freedom Records Freedom CD 741071, April 1998
Also Released as CD 3 of the box Calling Planet Earth: Freedom/DA Music 761226-2, 1998 (with "Outer Spaceways Incorporated" and "Spaceways")
All Written & Arranged by Sun Ra except as indicated.
(Tracklist)
1. Untitled percussion intro (Discipline #5) - 1:49
2. Discipline #5 (Discipline #10) - 2:45
3. Discipline #5 (solo de Danny Davis) (Enlightenment) - 2:35
4. Discipline #10 (Love in Outer Space) - 8:12
5. Enlightenment (Hobart Dotson, Sun Ra) (Discipline #15) - 2:44
6. Love in Outer Space (The Satellites Are Spinning) - 2:38
7. The Satellites Are Spinning (Calling Planet Earth) - 6:48
8. Calling Planet Earth / The Outers (The Outers) - 9:54
9. Adventures Outer Planes (Adventures Outer Space) - 7:32
[ Sun Ra & His Arkestra ]
Sun Ra - organ
Kwame Hadi - trumpet, conga
Marshall Allen - alto saxophone, flute, oboe, percussion
Danny Davis, Hakim Rahim - alto saxophone, flute
Larry Northington - alto saxophone, conga
John Gilmore - tenor saxophone, percussion
Pat Patrick - baritone saxophone, electric bass
Danny Thompson - baritone saxophone, bass clarinet
Eloe Omoe - bass clarinet, flute
Tommy Hunter - drums, alto saxophone (Discipline #5 or Discipline #15 only)
Lex Humphries, Clifford Jarvis - drums
June Tyson - vocal, dance
Cheryl Banks, Wisteria el Moondew (aka Judith Holton) - vocal, dance
Richard Wilkinson - light show 

(Original Freedom "Calling Planet Earth" CD Liner Cover)

 サン・ラ・アーケストラは1971年秋の10月~12月、再び22人編成の大所帯でヨーロッパ・ツアーに向かいます。この年はスタジオ録音作はない代わりにライヴ盤は多く、先にカリフォルニアでの8月のライヴ『Universe In Blue』をご紹介しましたが、他のライヴは秋のヨーロッパ~エジプト・ツアーからのものになります。1970年夏のフランス・ツアーに続く1970年10月のヨーロッパ・ツアーは過密スケジュールによるものでしたが、1971年秋のヨーロッパ・ツアーは日程にゆとりをもってスケジュールが立てられました。しかしそれが逆に現地収入と滞在費に無理が生じる結果となり、10月にスウェーデンとデンマーク、11月にオランダとこなした後に3人が解雇され、さらにメンバー11人が帰国し、11月29日からはフランス公演2回が行われました。この時のライヴは絶好調ながら前年の公演とはまるで違ったステージに観客からは不評だったと言われます。2010年にArt Yardレコーズからこのフランス公演の主催者録音が発掘アルバム『The Paris Tapes: Live at Le Theatre Du Chatelet』としてリリースされていますが、音源リンクを引けませんので発掘リリースの記載にとどめます。さらにアーケストラはデンマークと公演を行い、デンマーク公演の12月5日の翌日6日にはアメリカ帰国の予定でしたが、エジプト・ツアーを思い立ったサン・ラはデンマーク公演のライヴ・テープを資金調達のためイギリスのブラック・ライオン社に売り、急遽フィンランド公演を追加してこなしたのちエジプトに向かいます。ブラック・ライオン社にこの時売却したのが本作『Calling Planet Earth』で、フィンランド公演は2009年にTransparency社から『Helsinki 1971』として発掘リリースされ、エジプト・ツアーはサターン・レーベルから1972年~1973年にかけて『Dark Myth Equation Visitation』『Nidham』『Horizon』の三部作として発売されました。ブラック・ライオン社はデンマーク公演のテープをお蔵入りにし、ようやくリリースされたのが1998年にサブ・レーベルのフリーダムからのCD『Calling Planet Earth』で、単独CDと1968年収録の既発表ライヴ『Outer Spaceways Incorporated』と『Spaceways』を併せた3枚組CDでのリリースになりました。『Calling Planet Earth』はLP発売前提でサン・ラ側自身がトータル45分に編集したライヴ・アルバムであり、コンサートの完全収録ではありませんが、エジプト・ツアー経費捻出のための提供とはいえよくまとまった内容で、アーケストラ自身による提供という点でもオリジナル・アルバムに数えていい作品となっています。ブラック・ライオン社が即時リリースを差し控えたのはサン・ラのライヴ・アルバムのリリース・ラッシュ時に当たっていたからと思われ(直前にポリグラム/MPSからの1970年10月ドイツ公演収録の傑作ライヴ『世界の終焉』、また直後にはサターンからのエジプト公演三部作が控えていました)、また'60年代末の未発表録音、1970年ツアーからのライヴ録音も次々リリースされていた時期でした。

 そうした事情で27年間未発表になっていたライヴ録音の本作ですが、当初のスケジュールではこの日がヨーロッパ・ツアーの千秋楽となっており、またコンサートの1/2に凝縮された編集もあってまとまりの良い好作品となっています。このコンサートではサン・ラはムーグ・シンセサイザーやピアノを弾かずオルガンに専念しており、またジューン・タイソンのヴォーカル曲を多く選曲しているためゴスペル色の強い、この時期のサン・ラとしてはオーソドックスな演奏が聴けます。なおこのCDではどさくさ紛れの提供だったか曲目が間違ってクレジットされており、上記の曲目が正しく、()内はCDで間違ってクレジットされたタイトルです。この曲目の錯誤からも本作はコンサート完全版がブラック・ライオン社によって一旦LPフォームに編集されて残っていたのか、アーケストラからの提供の時点でLP用に編集されていたのか不明なのですが、前年1970年秋のライヴ名盤『世界の終焉』とは1曲も重複がなく、また1971年暮れのエジプト三部作も入手しづらい、荷が重いという場合には本作は入手しやすく、ヴォリューム、内容ともに親しみやすい作品で、本来サン・ラ生前、しかもおそらく1972年初頭にはリリース可能な状態に編集完了されていたアルバムという点でも見落とせないでしょう。サン・ラの数多い名盤に混じっては本作の出来は平均の線にとどまり、またこの後すぐにライヴ収録されるエジプト公演三部作が壮絶なためにエジプト三部作を先に聴いていると前菜程度の軽量級の出来に聴こえてしまうのですが、逆に力半分に抑えたオルガンとヴォーカル・コーラス主体のこのライヴは、腹八分目にサン・ラ聴こうかなという時に重すぎず軽すぎず聴くには向いています。セットリストもかなり地味ですが逆に聴き飽きた曲がないのでこの時期のサン・ラのライヴ・レパートリーの裏ベスト的な選曲になっており、サン・ラがオルガンに専念しているだけにノイジーで大暴れな側面は抑制されて正統的にゴスペル的な黒人音楽色が強い、聴きやすい演奏内容です。代表曲てんこ盛り、パワー炸裂の壮絶なライヴはすぐ後に収録されるエジプト公演三部作で聴けるので、本作は平均的内容だからこそ落ち着いて聴けるライヴ・アルバムです。収録から27年間未発表になっていたのはそのせいかもしれませんが、'70年代のうちに即発表されていればもっと注目され、ブラック・ライオン=フリーダムは日本発売の契約もあったレーベルでしたから日本盤も発売され好評を得ていたでしょう。激烈演奏の名盤『世界の終焉』と対をなして聴けば、本作ならではの良さがわかってくるような一歩引いたまろやかさもまたサン・ラ・アーケストラの持ち味と伝わってきます。