サン・ラ - ユニヴァース・イン・ブルー (El Saturn, 1972) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ユニヴァース・イン・ブルー (El Saturn, 1972)
サン・ラ Sun Ra And His Blue Universe Arkestra - ユニヴァース・イン・ブルー Universe In Blue (El Saturn, 1972) 

Originally Released by El Saturn Records ‎- ESR 200, 1972
All Written & Arranged by Sun Ra.
(Side A)
A1. Universe In Blue Part I - 4:10
A2. Universe In Blue Part II - 10:00
(Side B)
B1. Blackman - 2:21
B2. In A Blue Mood - 7:11
B3. Another Shade Of Blue - 11:18
[ Sun Ra And His Blue Universe Arkestra ]
Sun Ra - intergalactic space organ (Farfisa organ)
Akh Tal Ebah, Kwame Hadi - trumpet
Danny Davis - alto sax, clarinet
Marshall Allen - alto sax, piccolo flute, flute
John Gilmore - tenor sax
Pat Patrick - baritone sax
Danny Thompson- baritone sax, flute
Eloe Omoe - bass clarinet, piccolo 
Alzo Wright - cello
Lex Humphries - percussion
June Tyson - vocals 

(Original El Saturn "Universe In Blue" LP Liner Cover & Side A Label)

 先にご紹介した『宇宙探求~サン・ラ・イン・コンサート (Nuits de la Fondation Maeght)』は1970年8月のフランスでのライヴ・アルバムでしたが、ちょうど1年後の1971年8月のカリフォルニア(日付、会場不明)のライヴ・アルバムになる本作『Universe In Blue』の間に、先にご紹介した1970年10月の西ドイツでのライヴ・アルバム『世界の終焉 (It's After the End of the World)』(Polygram/MSP, 1971)があります。二つの会場のコンサートからベスト・テイクを厳選され、またメジャーのポリドール/ポリグラム傘下のMSPレーベルから発売されたため、発表時から名作と名高いアルバムです。邦題も『世紀の終焉』と実に決まっており、日本盤もLP~CD時代を通して発売されており、素晴らしい内容と入手のしやすさからもサン・ラのアルバム中真っ先にお薦めできる作品です。なお同作は1998年に未収録曲を合わせた2回のコンサートのコンプリート版『Black Myth/Out in Space』としても発売されました。『世紀の終焉』が入手しやすくアーケストラの演奏も最高のテンションとともにまとまりもバランスが良いアルバムなのに較べて『Nuits de la Fondation Maeght』は勢い任せな演奏に面白みがありますが現在は版権不明で廃盤状態が続いており、また今回ご紹介する『Universe In Blue』もライヴ・アルバムながら初演曲にコンセプトを持たせた特殊な作品で、やはり『Nuits de la Fondation Maeght』同様海賊盤CDが出回る状態が長く続き、ようやく本家サターン・レーベルから未収録曲・未編集テイクを含んだ完全版が正規リリース、と思いきやダウンロード販売のみ、ということになっています。

 あまりに多彩なアーケストラの場合、どんな編成とアレンジ、パフォーマンスが標準的とは決め難いのですが、国際的ジャズ・フェスティヴァルでの公演『世紀の終焉』は檜舞台だけあってアーケストラの真骨頂を見せようという意気込みがあり、事実1970年夏の初の海外公演だったフランス公演の好評に応えた1970年秋のヨーロッパ・ツアーの成功から、サン・ラ・アーケストラは毎年のようにヨーロッパ・ツアーに招聘されるバンドになります。ヨーロッパのジャズ・リスナーがアーケストラのリピーターになった記念すべきライヴがとらえられているのがアルバム『世紀の終焉』であり、サン・ラのアルバム史上でも屈指かつ根幹をなす作品です。『Nuits de la Fondation Maeght』や本作『Universe In Blue』は『世紀の終焉』に較べると広げた枝葉に相当するアルバムであり、『Nuits~』は作品性よりも未整理なままでざっくばらんに記録されたライヴ音源であれば、『Universe~』はこれまでのサン・ラならスタジオ録音で制作したような内容をライヴで初演したコンセプト・アルバムになりました。この時期のサン・ラの王道スタイルを示す『世紀の終焉』の音楽性をお聴きという前提で進めるのは恐縮ですが、『Nuits de la Fondation Maeght』をぐっとタイトにしたような作風をご想像ください。『Nuits~』が8月のフランスのヒッピー・リスナー相手のコンサートで開放的な雰囲気なら、『世紀の終焉』は10月の気難しいドイツ人相手の真剣勝負という違いが音楽に表れているように、本作は実演によるサン・ラのジャズ講座にして辻説法のようなアルバムです。

 前記の通り1970年夏・秋のヨーロッパ公演でピークに達したサン・ラが、続くこの時期になぜ本作のような異例のカリフォルニア録音の異色作を手がけたかというと、1971年初夏にはアーケストラはカリフォルニア州オークランドを巡業していたそうですが、カリフォルニアの黒人文化財団からサン・ラにカリフォルニア州立バークリー大学での客員教授の依頼が舞い込み、短期間ながらサン・ラが教授を勤める黒人文化学の連続講義が行われました。講義は毎回2部制で前半はサン・ラによる黒人文化の歴史と展望の講演、後半はサン・ラのソロ・ライヴで、正規の学生は退散しましたが「潜り」の聴講生で大盛況だったそうです。ちなみに結局ノーギャラだったというオチがつきますが、この時の反響から再びカリフォルニア巡業を行った8月ライヴ録音のこのアルバム・タイトルであり、A面を占める新曲の「Universe In Blue」とは宇宙と大学(University)に由来しているのは言うまでもないでしょう。「In Blue」とはジョージ・ガーシュウィンの古典「Rhapsody In Blue」以来「ブルーな気分」を表す常套句ですが(ガーシュインはポピュラー音楽も手がけたユダヤ系白人作曲家の巨匠ですが、初めてクラシック音楽の分野で黒人音楽を白人社会に紹介した音楽家でもありました)、「ブルーな宇宙」でも面白い上に「ブルーな大学」と掛けてあるのはサン・ラらしい大らかなユーモアがあります。バンド名をわざわざ「Sun Ra And His Blue Universe Arkestra」としているのも本作限りの諧謔です。

 本作ではサン・ラはジャズ講座という制約のためかインターギャラクティック・スペース・オルガン(改造ファルファッサ・オルガン)のみを使用しており、1969年以来主楽器にしていたミニ・ムーグ・シンセサイザー(2台併用)は使用していません。カリフォルニア巡業には携行しなかったのか、ムーグ・シンセサイザーは単音しか出ない・音程や音量が不安定な上にでかくて重いなどライヴ楽器としてはもちろんスタジオ録音ですら問題があり、サン・ラがインターギャラクティック・スペース・オルガンと呼んでいるのは'60年代のポピュラー音楽で愛用されたファルファッサ・オルガンですが、これは電気オルガンでもパイプ・オルガンに匹敵する重厚で豊かな音色の代わりにピアノ並みにでかく重いハモンド・オルガンとは対照的な軽量級の電気オルガンで、楽器自体もポータブル・キーボードの上にハーモニウム(足踏みオルガン)程度の軽い音圧と電気楽器ならではの歪みのある音色が好まれました。音色的にはムーグ・シンセサイザーでやりたいことはファルファッサ・オルガンで代用できたということです。ファルファッサ・オルガンの典型的なサウンドはロックではゼムやザ・ドアーズ、「In A Gada-Da-Vida」のアイアン・バタフライが上げられます。本作A面を占める2部構成のアルバム・タイトル曲は'70年代に入ってますます過激化したサン・ラには唐突なほどに明快なゴスペル調のブルース曲であり、アルバム・ジャケットもサターン盤にしては意外なほどシリアスでオーソドックスなものです。ジューン・タイソンのヴォーカル曲も本作全体の生真面目なブルース/ゴスペル・ムードを高めており、本作の前後には激しく奔放なライヴ・アルバムが並ぶことからも、このアルバムだけは特にアメリカ国内の白人リスナーに向けた(バークリー大学の生徒らに代表される白人青年層を想定した)わかりやすい黒人ジャズ入門との意図があったでしょう。しかし本作は実験的なフリー・ジャズ路線からゴスペル的ジャズ・ファンク路線に転換した1971年秋以降のアーケストラの転機を示し、そのコンパクトな試作として後続の傑作群(『Astro Black』『Space Is the Place』『Disipline 27-II』など)を予告する、見落とされがちながらサン・ラの作風の推移を表すアルバムという位置づけがされる、さり気ない重要作になりました。なお2014年からダウンロード販売された増補改訂版(未収録曲追加、短縮曲の復原)の曲目も併せてご紹介します。以後こちらが決定版となるのかもしれませんが、ブルース&ゴスペルをテーマとしたコンセプト・アルバムとしてはオリジナル盤の編集が勝っているように思います。
Sun Ra And His Blue Universe Arkestra - Universe in Blue ; Expanded Edition (Saturn, 2014)
Recorded at California, around August, 1971
Released by El Saturn Records 200, Digital Downloads May 6, 2014
(Tracklist)
1. Universe in Blue - 13:19
2. Calling Planet Earth - We'll Wait for You - 23:31
3. When the Black Man Ruled This Land - 7:43
4. In a Blue Mood - 7:14
5. Another Shade of Blue - 11:35

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)