カルメン・マキ / ブルース・クリエイション (日本コロムビア/DENON, 1971) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

カルメン・マキ / ブルース・クリエイション (日本コロムビア/DENON, 1971)
カルメン・マキ / ブルース・クリエイション Carmen Maki / Blues Creation (日本コロムビア/DENON, 1971) :   

(Side 1)
A1. Understand = アンダースタンド (Lydia J. Miller) - 5:01
A2. And You = アンド・ユー (竹田和夫) - 2:59
A3. Lord, I Can't Be Going No More (竹田和夫) - 3:34
A4. Empty Heart = 空しい心 (竹田和夫) - 8:32
(Side 2)
B1. Motherless Child = 母のない子 (Traditional) - 6:57
B2. I Can't Live For Today = 今日を生きられない (竹田和夫) - 4:37
B3. Mean Old Boogie = ミーン・オールド・ブギー (竹田和夫) - 5:02
B4. St. James Infirmary = セント・ジェイムス病院 (J. Primrose) - 6:45
[ カルメン・マキ/ブルース・クリエイション Carmen Maki / Blue Creation ]
カルメン・マキ - Vocal
竹田和夫 - Guitar
佐伯正志 - Bass
樋口昌行 - Drums
(Original DENON ''カルメン・マキ / ブルース・クリエイション'' LP Liner Cover & Side 1 Label)

 カルメン・マキさん(1951年5月生まれ)は本作以前は歌謡フォーク歌手として3枚のアルバムを出していますが、このブルース・クリエイションとの共演作は18歳の1969年に寺山修司の劇団からデビューしたマキさんが、レコードのヒット記念にレコード会社からオーディオ・セット一式とともにプレゼントされたLPレコードのうち、ジャニス・ジョプリン(まだジャニス生前です)のアルバムを聴いて以来念願だったという、マキさん初のロック・アルバム(それまでのアルバムでも日本のGSの曲のカヴァーはありましたが、スタジオ・ミュージシャンのオーケストラがバックについた歌謡フォーク的なものでした)になりました。ブルース・クリエイションは1969年のポリドールからのデビュー・アルバムの後で一度解散し、オリジナル・メンバー中ギタリストの竹田和夫(1952年3月生まれ)のみが残って1970年夏にバンドを再編、1971年7月25日にメンバーの大沢博美がリード・ヴォーカルを取った『悪魔と11人の子供たち』(DENON CD-5029)と、大沢に代えてカルメン・マキをヴォーカルに迎えた本作『カルメン・マキ / ブルース・クリエイション』(DENON CD-5030)を同時発売します。レコーディング時にマキさんも竹田和夫も19歳だったと思うと驚異的な完成度のアルバムで、ブルース・クリエイションが'60年代末~'70年代初頭のサイケデリック色の強い極東のブルース・ロック=ヘヴィ・ロックのバンドとして21世紀の現在、欧米のクラシック・ロック・マニアに絶大な人気を誇るのもむべなるかなという気がします。

 本作でのマキさんは声質も若々しく、のちのカルメン・マキ&OZ時代に完成する重量感のあるスタイル以前の軽やかなヴォーカルを聴かせており、ヴォーカル・ブレイクと楽器の掛け合いになるB1ではややヴォーカルとバンドの音程のズレやリズム・ブレイクのぎこちなさが目だつものの、すでに堂々とした本格的なロック・ヴォーカルを易々とこなしています。ニュー・ロックの女性ヴォーカルの先駆者・麻生レミ(フラワーズ)より進んだ、自然なロック感覚をすでに身につけていたことを感じさせ、優れたリズム感で歌いこんで十分にバンドを引っ張っています。また全8曲中、ジミ・ヘンドリックスの曲とは同名異曲の「今日を生きられない」を含む5曲(『悪魔と11人の子供たち』収録曲のリフを流用した曲もありますが)は竹田和夫のオリジナル曲で、全曲が竹田のオリジナル曲の『悪魔と11人の子供たち』とともにこの時期の竹田和夫の旺盛な創作力をうかがわせます。

 また、B1「母のない子」とB4「セント・ジェイムス病院」は古典曲のヘヴィ・ロック解釈ですが、A1「アンダースタンド」はアメリカのマイアミの女性ヴォーカル・バンド、ファンタジー1970年唯一のアルバムからのシングル・カット曲で、このバンドは現在ほぼ完全に忘れられており、原曲はヴォーカル、演奏とも、いかにもジャニス・ジョプリン生前の露骨なジャニス・フォロワーを感じさせるスタイルですが、マキさんとブルース・クリエイションのヴァージョンはずっと軽快で乗りの良いハード・ロックに仕上がっており、スマートなセンスの良さを感じさせます。マキさんの声質に合い、マキさんが歌えばもっと良くなる曲をよく見つけてきたものです。本作は癖のあるインパクトの強さや強烈なドライヴ感、強引さでは初期ブルース・クリエイションのアルバムとしてはややおとなしく、マキさんとバンド側の双方で歩み寄った観があるのがその原因と思われますが、聴きやすさ、軽快でソリッドな乗りの良さ、親しみやすさではオリジナル・メンバー時代の完全なブルース・ロック・アルバムや、『悪魔と11人の子供たち』、発掘ライヴ盤『白熱のブルース・クリエイション』より上でしょう。カヴァー元のアメリカのバンドより良い、という証拠に「アンダースタンド」のオリジナル・ヴァージョンを引いておきましょう。
Fantasy - Understand (from the album ''Fantasy'', Liberty, LST-7643, US, Single Version, 1970) :  


(旧記事を手直しし、再掲載しました。)