サン・ラのカリンバ・ジャズ!アザー・ストレンジ・ワールズ (Roaratorio, 2014) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - アザー・ストレンジ・ワールズ (Roaratorio, 2014)
Released by Roaratorio Records roar33 (LP, US), 2014
Producer, Liner Notes by Michael D. Anderson
All Compositions and Arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. Other Strange Worlds - 4:20
A2. Celestial Beings - 4:44
A3. Thence, Thus And Ethereal - 10:00
A4. Voice Within The Stars - 3:28
(Side B)
B1. The Other Beings - 11:22
B2. Journey Amongst The Stars - 8:59
[ Sun Ra & His Astro-Infinity Arkestra ]
Sun Ra - percussion, strings, celecte, kalimba
John Gilmore - percussion, shaker, cymbals
Marshall Allen - kora, oboe, percussion
Ali Hasaan - trombone, percussion
Art Jenkins - space voice, percussion 

(Original Roaratorio "Other Strange Worlds" LP Liner Cover)
(Side A Label)
(Side B Label)

 録音から50年を経てようやく発掘リリースされた、何とサン・ラのカリンバ・ジャズ・アルバムが本作です。ただでさえカリンバとパーカッションだけの音楽などめったにない代物(現代音楽か映画音楽くらいでしょう)なのに、サン・ラがそんなとんでもないアルバムを作っていたとは、ひょっとしたら世紀の大発見です。アナログLPのAB面でトータル44分もの本作は、サン・ラ・アーケストラのスタジオ盤としては1964年録音(録音月日不詳)の『Other Planes of There』(El Saturn, 1966)、またサン・ラ生前の発掘ライヴも含めれば1964年6月15日収録・12月31日収録の2説ある(かつては12月31日収録説で通ってきましたが、近年は6月15日収録説の方が有力な)『Sun Ra Featuring Pharoah Sanders & Black Harold』(El Saturn, 1976)を契機に、サン・ラの国内・国際的知名度をようやく認知させることになった1965年4月20日録音の24作目『The Heliocentric Worlds of Sun Ra』(ESP, 1965)と11月16日録音の『The Heliocentlic Worlds of Sun Ra Volume 2』(ESP, 1966)の間にスタジオ録音されて、2014年のRoaratorio社からの発掘リリースまで未発表になっていたアルバムです。アーケストラ公式サイトではディスコグラフィーから洩れているもので、本作が入れば『Volume 2』は27作目にくり下がることになります。アーケストラ名義ながら5人編成という最小編成の本作は、収録曲のタイトルからアナログLPでのAB面での曲順まで、いわゆる「完パケ」の状態まで完成されていたもので、おそらく『The Heliocentric Worlds~』続編制作のための試作として録音されたものでしょうが、パーカッション・アンサンブル中心の『The Heliocentric Worlds~』と同様サン・ラを含むメンバー全員がほぼパーカッションに専念し、サン・ラはカリンバとヴィオラ(推定)でバンドをリードし、ピアノどころかチェレステさえも滅多に弾いていません。サックス陣のジョン・ギルモアとマーシャル・アレンもコラやシェイカー、シンバルらパーカッション類にほぼ専念し、トロンボーン奏者のアリ・ハサーン、ヴォーカリストのアート・ジェンキンスもほぼ全編でパーカッション・アンサンブルに始終しています。B面ではアレンのオーボエ、ハサーンのトロンボーンが少し聴けますが、あくまで主役はサン・ラのカリンバや弾き方を知らないので弦をこすっているだけのヴィオラであり、のち1966年にメンバー全員が(ベーシストのロニー・ボイキンス、またドラマー以外)いきなりサン・ラが買い集めてきた世界各種の弦楽器をリハーサルもなしに演奏して録音された変則的ギター・アルバム『Strange Strings』(El Saturn, 1967)に先がけた実験的アルバムです。 録音順と発表順がまったく一致しないサン・ラ作品でも、本作がいかに遅れてリリースされた未発表アルバムだったか、再びデビュー~60年代いっぱいまでの、制作・録音順のサン・ラのアルバム・リストを上げておきましょう。

[ Sun Ra and His Arkestra 1956-1961 Album Discography ]
1. Jazz by Sun Ra, Vol.1 (Sun Song) (Transition, rec.1956/rel.1957)
2. Super-Sonic Jazz (Saturn, rec.1956/rel.1957)
3. Sound of Joy (Jazz by Sun Ra, Vol.2) (Delmark, rec.1956/rel.1968)
4. Visits Planet Earth (Saturn, rec.1956-58/rel.1966)
5. The Nubians of Plutonia (Saturn, rec.1958-59/rel.1966)
6. Jazz in Silhouette (Saturn, rec.& rel.1959)
7. Sound Sun Pleasure!! (Saturn, rec.1959/rel.1970)
8. Interstellar Low Ways (Saturn, rec.1959-60/rel.1966)
9. Fate In A Pleasant Mood (Saturn, rec.1960/rel.1965)
10. Holiday For Soul Dance (Saturn, rec.1960/rel.1970)
11. Angels and Demons at Play (Saturn, rec.1956-60/rel.1965)
12. We Travel The Space Ways (Saturn, rec.1956-61/rel.1967)
13. The Futuristic Sounds of Sun Ra (Savoy, rec.1961/rel.1962)
 
[ Sun Ra and His Arkestra 1961-1969 Album Discography ]
1. (14) Bad and Beautiful (Saturn LP-532, rec.1961/rel.1972)
2. (15) Art Forms of Dimensions Tomorrow (Saturn LP-9956, rec.1961-1962/rel.1965)
3. (16) Secrets of the Sun (Saturn London404, rec.1962/rel.1965)
4. (17) What's New? (Saturn 52735, rec.1962/rel.1975)
5. (18) When Sun Comes Out (Saturn LP-2066, rec.1963/rel.1963)
6. (19) Ron Croney, Queens of Limbo, with Orchestra and Chorus - It's Limbo Time (Dauntless DM-4309, rec.&rel.1963)
7. (20) Cosmic Tones for Mental Therapy (Saturn LP480, rec.1963/rel.1967)
8. (21) When Angels Speak of Love  (Saturn LP-1966, rec.1963/rel.1966)
9. (22) Other Planes of There (Saturn KH-98766, rec.1964/rel.1966)
10. (23) Featuring Pharoah Sanders & Black Harold (Saturn IHNY-165, rec.1964/rel.1976)
11. (24) The Heliocentric Worlds of Sun Ra, Volume One (ESP-Disk 1014, rec.1965/rel.1965)
12. (25) Other Strange World (Roaratorio roar33, rec.1965/rel.2014)
13. (26) The Magic City (Saturn lPG-711, rec.1965/rel.1966)
14. (27) The Heliocentric Worlds of Sun Ra, Volume Two (ESP-Disk 1017, rec.1965/rel.1966)
15. (28) The Heliocentric Worlds of Sun Ra, Volume Three (ESP-Disk ESP 4002, rec.1965/rel.2005)
16. (29) Walt Dickerson Quartet - Impression of A Patch of Blue (MGM SE4358, rec.1965/rel.1966)
17. (30) The Ark And The Ankh (CD IKEF-02, rec.1966/rel.2001)
18. (31) Nothing Is (ESP-Disk 1045, rec.1966/rel.1966)
19. (32) College Tour Vol,I~Complete Nothing Is... (ESP-Disk ESP4060, rec.1966/rel.2010)
20. (33) Space Aura (Art Yard AY10001, rec.1966/rel.2013)
21. (34) Strange Strings (Saturn LP-502, rec.1966/rel.1967)
22. (35) Batman and Robin - The Sensational Guitars of Dan and Dale (Tifton 78002, rec.1966/rel.1966)
23. (36) Monorails and Satellites, volumes 1 (Saturn SR-509, rec.1966/rel.1968)
24. (37) Monorails and Satellites, volumes 2 (Saturn LP-519, rec.1966/rel.1967)
25. (38) Our Spaceways Incorporated (Saturn 14300A/B, rec.1966-1968/rel,1974) Various Sessions
26. (39) Continuation (Saturn ESR-520, rec.1968/rel.1969)
27. (40) Amiri Baraka - A Black Mass (Jihad Productions 1968, rec.1968/rel.1968)
28. (41) Picture of Infinity (Black Lion 30103, rec.1967-1968/rel,1971)
29. (42) Music For Tomorrow's Mood (Atavlstlc, rec.1969/rel.2002)
30. (43) Atlantis (Saturn ESR-507, rec.1967-1969/rel.1969)

 本作のパーカッション・アンサンブルが試作的なものと思われるのは、『The Heliocentric Worlds~』がおそらくほとんど即興的要素のない、リハーサルを積んだアレンジと譜面が用意されたとおぼしい完成度の高いアヴァンギャルド・ジャズのアルバムなのに対して、本作は軽いヘッド・アレンジだけで一気に即興的に演奏されたと思われる内容だからですが、やはりパーカッション・アンサンブルを中心にホーン陣のフィーチャー度も高めた1965年11月16日録音の『The Heliocentric Worlds of Sun Ra Volume 2』(ESP, 1966)、『Volume 2』と同時録音で40年未発表になっていた『The Heliocentric Worlds of Sun Ra Volume 3 - The Lost Tapes』(ESP, 2005)と較べても、本作はESP Diskの『The Heliocentric Worlds~』シリーズよりもずっと楽しげな、のびのびとした演奏で、珍妙なギター・アーケストラ・アルバム『Strange Strings』よりもいっそう面白く楽しいサウンドが聴けるものです。これはサン・ラのカリンバ演奏、ただ弦が軋んでいるだけのヴィオラ演奏がパーカッション・アンサンブルと絶妙に絡んでいるからで、楽器自体が素朴でチャーミングな音色を持つカリンバと、おそらくオープン・チューニングの(しかもまともに調弦されていない)ヴィオラが結果的に作為のない民族音楽のような豊かな情感を醸しだしており、作・編曲家、バンドリーダーとして厳密に息苦しいまでの完成度を誇示した『The Heliocentric Worlds~』よりもずっとサン・ラらしい開放的な演奏とサウンドになっています。ホーン陣のアンサンブルでこれをやったのがフリーを極めた前作『Other Planes of There』でしたが、腕利き揃いのアーケストラのメンバーは自分の専門楽器ではどうしても実力を発揮した演奏になってしまい、おそらくサン・ラの意図した素朴さ、良い意味での朴訥さにはならなかったのでしょう。そこで全員打楽器アンサンブルのアルバムを試作してしまうのがサン・ラならではですが、初めてプロモーション体制の揃った勝負作『The Heliocentric Worlds~』では完成度が求められたので、連続して録音された本作は録音から50年未発表のままに終わったアルバムになりました。リリースされた『Strange Strings』の例もありますからなぜ自主レーベルのサターン・レコーズで発売されなかったのか疑問ですが、これはESP-Diskのためのデモ・テープのため権利関係上サターンからは出せず、そのままリリースのタイミングを逃したとも考えられます。本作はアーケストラ'60年代絶頂期の佳作で、編成からも実験的な異色作で代表作と言うには無理がありますが、それを言えば名盤の誉れ高い『The Heliocentric Worlds~』もそうです。現代音楽的に複雑で精密、完成度が高く難解な『The Heliocentric Worlds~』より本作はずっと楽しく聴けるアルバムで、サン・ラのカリンバ・アルバムとして長く愛聴できる、これをジャズと言っていいものか迷うような、しかしサン・ラの音楽の核心からは外れない作品です。アーケストラ公式サイトのディスコグラフィーに見落とされているのはおそらくプライヴェート・プレス規模の自主制作盤リリースだからだろうと思われ、アナログLPのみでなく、日本国内盤CD化も望まれる隠れた名品です。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)