日本のパンク・ロック!(8) ほぶらきん (昭和55年/1980年) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。


ほぶらきん - こっぷらきん・キングホブラ・インドの虎狩り・ゴースンの一生 (Alchemy Records, 1991)
ほぶらきん・コンプリートBox (Alchemy Records YOUTH-2, 6CD+1DVD, 2013)
ほぶらきん - キングホブラ (self released, 1980) 


ほぶらきん - Untitled Flexi Disc (Vanity, 1980) A1. 村のかじや (0:55), A2. 魚うり (0:45), A3. ゴースン (0:40), A4. ペリカンガール (1:50) :  

ほぶらきん - インドの虎狩り (Unbalance, 1981) 

ほぶらきん - ゴースンの一生 (Olsen Record, 1983) :  

ほぶらきん - 1981年 8月28日 新宿ロフトライブ (Alchemy Records, 2008) :  

 ロックがアマチュアリズムとインディペンデント精神の音楽だとしたら、1980年代初頭に活動していた滋賀県草津市が生んだバンド・ほぶらきん(HOVLAKIN)こそ究極にして純粋なロックを体現した存在はないかもしれません。ヴォーカリストの森下太朗のやけくそな歌唱はロジャー・ダルトリーやジョー・ストラマーにも匹敵する原初のロックの叫びそのものです。そもそも2023年の今なお活動しているほぶらきんはロック・バンドですらなく、麻雀仲間の高校生が麻雀大会のかたわら興に乗って自主制作EP『こっぷらきん』(1979年)を録音・発表したことから始まった仲間内の冗談で、この時点では「ほぶら」「こっぷらきん」とバンド名すら定まっていませんでした。地元で手売り販売した同作(EPのAB面に全7曲収録)の反響に味をしめたバンドは「ほぶらきん (HOVLAKiN)」に名義を統一し、セカンドEP『ほぶらきんII・キングホブラ』(1980年)の制作・発表を機にロック雑誌「ロッキング・オン」「ROCK MAGAZINE」に投稿とプロモーションを図り、「ロッキング・オン」ではバンド寄稿の1ページ記事(その数か月前に、初ソノシート「電動コケシ c/w 肉」を発表したスターリンの遠藤ミチロウが同様への寄稿を採用されていました)、「ROCK MAGAZINE」では『キングホブラ』からの抜粋4曲のソノシート付録(Vanity Records)を取りつけます。1980年11月に初のライヴを行ったバンドには即座にファン・クラブが結成され、以降ファン・クラブによってEP『ほぶらきんIII・インドの虎狩り』(1981年)、ライヴEP『ホームラン』(1982年)がリリースされ、さらにバンドはソノシート2枚組におよぶ時代劇バトル・ファンタジー・ロック・オペラ大作『ゴースンの一生』(ファン・クラブ制作、1983年。ビー・プロダクション制作のヒーロー時代劇『怪傑ライオン丸』1972-1973にインスパイアされた作品)をリリースします。しかし1983年をもってメンバーは大学を卒業し、以降ほぶらきんの活動は本来の麻雀大会活動に戻りました。ライヴEP『ホームラン』を除く全EPが関西のインディー・レーベル、アルケミー・レコーズによって集成・初CD化されたのは1991年の『こっぷらきん・キングホブラ・インドの虎狩り・ゴースンの一生』で、スタジオ盤4作の完全収録に未発表スタジオ曲1曲5テイクが増補され、さらにアルケミー・レコーズは初の映像作品『1981年8月28日 新宿ロフトライブ』(2008年)、時代劇ロック・オペラ全曲のライヴ・ヴァージョンとスタジオ・ヴァージョンをカップリングした『ゴースンの一生・ライブ』(2009年)、さらに全既発表音源に未発表音源・未発表映像を加えたCD6枚組+DVD1枚のコンプリート・ボックス『ほぶらきん・コンプリートBox』(2013年)をリリースします。ほぶらきんは知る人ぞ知るバンドとして伝説化していましたが、2015年にはテイチクレコード(テイチクエンタテインメント)から、アルケミーからのボックス・セット中スタジオ音源とライブ音源をセレクトし(タイトルや版権に問題がある「京阪牛乳」「まらだしガンマン危機一髪」「ますかきラッキー」などが未収録になりました)、さらに未発表テイク26曲(!)追加収録に加え、ほぼ30年ぶりとなる驚異の新曲(!)「かもがわブルース」を追加した『メジャーデビュー』がリリースされました。『メジャーデビュー』リリース時のテイチクエンタテインメントのアーティスト・インフォメーション、また同作を紹介した「音楽ナタリー」のネット記事を引いておきましょう。

ほぶらきん
HOVLAKIN 
 1979年に結成し、1983年に音楽活動を休止した。主なメンバーは森下太朗(ボーカル):音楽面での中心人物。ロックを作曲しようとしても、すぐに童謡になってしまう癖があるが、これが「ほぶらきん」に比類なき独自性を生む活力となった。従姉妹は漫画家の森下裕美。黄之瀬英史(ギター):「きんぐほぶら」ジャケット画、超巨大ヒヨコのモデル。ギターはフェンダーのパチモノ、「フォンダー」。山本進(ベース):バンドの会計担当。青木宝生(ドラム):バンドのリーダー。個性的なライナーノーツと個性的なレコード・ジャケットも彼の手によるもの。No New York、関西のオルタナティブ・ロック・シーンを追いかけていて、結成当時、メンバーのうち、彼だけが「ほぶらきん」の成功を確信していた。木村隆浩(キーボード):機材はクローバー楽器店で購入したYAMAHA CS-15。他の機材はMS-20など。 
 メンバーは滋賀県草津市出身、高校の同級生で、麻雀仲間がそのままバンドに発展。バンド名は、青木家の飼い猫「ほぶらきん」から取られた。音楽活動は主に1979年から1983年まで。メンバーの大学卒業・就職により徐々に音楽活動はフェードアウトしたが、現在も温泉麻雀旅行の活動は継続中と思われる。活動時のライブ共演には「非常階段」、「アウシュビッツ」、「C.MEMI+NEO METISSE」、「ザ・スターリン」、「ラフィンノーズ」、「P-MODEL」、「ZELDA+モモヨ」、「E.D.P.S.」、「吉野大作&PROSTITUTE」、「STIGMA」、「コンチネンタル・キッズ」、「ANIMAL Z」、「チャンスオペレーション」、他。
(テイチクレコード、2015年『メジャーデビュー』アーティスト・インフォメーションより)

聴くたびに思い出すラーメンマンの言葉"無いもの以外は全てある"僕にとってのモノリス。--石野卓球(電気グルーヴ)
 関西のインディーズシーンにおける伝説のカルトバンド、ほぶらきんのアルバム「メジャーデビュー!」が5月20日にテイチクエンタテインメントからリリースされる。
 高校の同級生による麻雀仲間がそのままバンドに発展し、1979年に結成されたほぶらきん。4枚のEP盤と2枚組ソノシート作品を残したが、メンバーの大学卒業に伴ってわずか4年で音楽活動を停止した。その後も彼らの童謡のような楽曲や自由で破天荒なパフォーマンスが音楽ファンの間で語り継がれ、1991年にはアルケミーレコードからアンソロジー盤が発売された。
 彼らにとって初のメジャー作品となる「メジャーデビュー!」は、ほぶらきんが世に残したさまざまな楽曲を集めた「ほぶらきん・コレクション」をDISC 1、2009年にアルケミーから発表された1982年録音のライブアルバム「ゴースンの一生ライブ & スタジオ」をDISC 2に収録。1981年の未発表スタジオトラック「ウサギ音頭で大暴れ(2)」や、2013年に録音された新曲「こもがわブルース」も追加収録され、トータルで102曲というボリュームたっぷりの作品になっている。なお今作は、石野卓球がコメントを提供し、JOJO広重(非常階段)が監修・解説を担当している。
(「音楽ナタリー」2015年5月20日)

 テイチクからの『メジャーデビュー』は初回プレスのみのリリースになっていましたが、昨年2023年には再びインディーのP-Vineレコーズからアルケミー・レコーズ作品の再発売の一貫として、CD(7月)とアナログLP(11月)の2形態で再発売されました。テイチク盤では割愛された「京阪牛乳」「まらだしガンマン危機一髪」「ますかきラッキー」などもオリジナル通り収録され、CDではロック・オペラ『ゴースンの一生』収録、LPでは『ゴースンの一生』が割愛された代わりにライブ盤『ホームラン』収録と、マニア泣かせの異動があります。こちらもメーカー・インフォメーションを引いておきます。

聴くたびに思い出すラーメンマンの言葉"無いもの以外は全てある"僕にとってのモノリス。--石野卓球(電気グルーヴ)
 奇妙奇天烈、はちゃめちゃ、フリー、1979年に滋賀県で森下太朗(vocals)と青木宝生(drums)を中心に麻雀仲間によって結成されたインディーロックバンド、アナログLPは『こっぷらきん』『きんぐほぶら』『インドの虎刈り』とライブ盤の『ホームラン』の4枚のEPをLP1枚に詰め込んだ初期のベストともなる全47曲52分!初アナログ化で。CDにはEP『こっぷらきん』『きんぐほぶら』『インドの虎刈り』そしてソノシートでの2枚組『ゴースンの一生』を全部収録。プラス未発表曲の「京阪牛乳」の2トラックを追加の全51曲。(ライブ盤の『ホームラン』はLP収録のみです)超ハイレベルなギャグセンス、未だに古びない発想、邦楽パンクの至宝とでも言うべきアルバム。
(P-Vineレコード、2022年『グレイテストヒッツ』インフォメーション)

 麻雀仲間の高校生が始めた余興が40年以上を経て今なお聴かれているというのは世界的にも稀有なことで、本来ほぶらきんの音楽は商業的ポピュラー音楽はおろかロック文脈にも属さない、身内の冗談のようなものだったでしょう。あまりに曲が短い(最短40秒~長くても2分前後の)ために、ほぶらきんのスタジオ作品『こっぷらきん』(全7曲)、『キングホブラ』(全11曲)、『インドの虎狩り』(全15曲)、『ゴースンの一生』(全12曲)は、オリジナル盤ではシングル、または2枚組ソノシートでまとめられています。「私はライオン」「陽気なサイパネ人」など早くも作風の確立が確認できる『こっぷらきん』からの曲をご紹介できないのは残念ですが、「ROCK MAGAZINE」の付録ソノシート4曲(いずれも『キングホブラ』より)、また『キングホブラ』最終曲「とんがりとしき」を始めとする数々の楽曲は、ほぶらきん以外には聴くことのできない発想です。そして『怪傑ライオン丸』の山よりでかい悪の巨人にしてラスボス・ゴースンのライオン丸との戦いと末路を描いた、およそ日本では類を見ない本格的時代劇バトル・ファンタジー・ロック・オペラ『ゴースンの一生』、とりわけ強烈なアルバム最終曲「死んだら赤貝」は、誰の追従も許さない根源的なロックの叫びそのものです。ジャケット・アートとコンセプトを握るリーダーの青木宝生(ドラムス)は『インドの虎狩り』収録の「ピコリーノ」では小学生の弟にテレビアニメ『ピコリーノの冒険』の主題歌「ぼくはピコリーノ」をアカペラで歌わせて収録しており、これもメジャーのテイチク盤では収録が危ぶまれましたがあまりに楽曲の原型をとどめていないため無事に『メジャーデビュー』収録となりました。そもそもデビュー作『こっぷらきん』ですら、前述の通り「ほぶらきん」名義ではなく、EPレーベルには「こっぷらきん」「ほぶら」とわざわざバンド名を混乱させています。そして音楽的(!)リーダーのヴォーカリスト、森下太朗の壮絶な歌唱はさすが『少年アシベ』の作者・森下裕美さんの従兄弟と言うべきか、「ロックを作曲しようとしても、すぐに童謡になってしまう」という強烈な個性は代表曲「私はライオン」「とんがりとしき」「うさぎ音頭で大暴れ」でもっとも痛快に聴かれる通りです。

わたしはライオン わたしはライオン わたしはひとをくうライオン
(「私はライオン」)

もしもしくまさん こんにちは わたしといっしょに たこおどり ひよこも ぴよぴよ じょうきげん わたしも いっしょに いもあらい
(「とんがりとしき」)

うさぎ おんど で おおあばれ
うさぎ おんど で おおあばれ だ
うさぎ おんど で こあばれ だ
ぴょん ぴょん ぴょん
にょろ にょろ にょろ
(「うさぎ音頭で大暴れ」)

 また「ペリカンガール」「ゴースンゴー」などに聴かれる破壊的な木村隆浩のチープなキーボード、黄之瀬英史のギターと山本進のベースは、ほとんど森下太朗のヴォーカルと青木宝生のドラムスのデュオだけの「村のかじや」と並んでパンク・ロックを超越し、'60年代末のニューヨークのダダイズム・バンド、ゴッズや'70年代初頭の北ドイツ・ヴュメのアナーキスト・バンド、ファウストの系譜にほぶらきんを位置づけるものです。2022年7月に発売されたばかりのP-Vine盤CD『グレイテストヒッツ』はテイチク盤『メジャーデビュー』では割愛された「京阪牛乳」「まらだしガンマン危機一髪」「ますかきラッキー」などを含む『こっぷらきん』『キングホブラ』『インドの虎狩り』『ゴースンの一生』全曲を収録した全51曲のスタジオ録音集、11月にリリースされるアナログLP盤『グレイテストヒッツ』は『こっぷらきん』『キングホブラ』『インドの虎狩り』にライヴ盤『ホームラン』を含む(その代わり『ゴースンの一生』が未収録ですが)の全47曲と、テイチク盤の全102曲収録の2枚組CD『メジャーデビュー』にテイチク盤割愛曲を復原し、CD版とアナログLP版に振り分けた格好になっています。アルケミー・レコーズからのCDは(おそらく買った人の多くがすぐに売ってしまうために)比較的中古盤での入手は容易なので、『こっぷらきん・キングホブラ・インドの虎狩り・ゴースンの一生』(Alchemy Records ARCD-029, 1991)、ライヴ盤『ランニング・ホームラン』 (Alchemy Record ARCD-131, 2001)、ライヴ+スタジオ版『ゴースンの一生・ライブ』 (Alchemy Records ARCD-217, 2009)の3作で1979年~1983年の主要音源は聴け、さらにディープに進むなら6CD+1DVDの『ほぶらきん・コンプリートBox』(Alchemy Records YOUTH-2, 6CD+1DVD, 2013)で未発表音源・ライヴ映像すべてが網羅されています。ほぶらきんはアルケミー・レコーズ盤CD『こっぷらきん・キングホブラ・インドの虎狩り・ゴースンの一生』、テイチク盤2CD『メジャーデビュー』、P-Vine盤(CD版)『グレイテストヒッツ』がほぼ同内容で、これらでほぶらきんの音楽活動存続中(1979年~1983年)のEPアルバム音源が一気に聴けるので、YouTubeからの試聴リンクだけでは不十分な、パンク・ロックも童謡も民謡もフォークも歌謡曲もアニソンもごった煮になった、この不世出のバンドの音楽を、ぜひお聴きいただきたい次第です。末尾に、1979年から2022年にいたる、ほぶらきんの全作品をリストにまとめておきましょう。

[ ほぶらきん HOVLAKIN Discography ]
・7'' EPs (& Flexi Disc)
1. こっぷらきん (self released, 1979)
2. ほぶらきんII・キングホブラ (self released, 1980)
3. United Flexi Disc (Vanity Records V2006, A Side Only Flexi Disc, 1980)
4. ほぶらきんIII・インドの虎狩り (ほぶらきんファン・クラブ/Unbalance OUT-2, 1981)
5. ホームラン (ほぶらきんファン・クラブ/Unbalance OUT-5, 1981) *Live 1981
6. ゴースンの一生 (ほぶらきんファン・クラブ/Olsen Record E6930~6933, 8'' 2Flexi Disc, 1983)
・Albums
1. こっぷらきん・キングホブラ・インドの虎狩り・ゴースンの一生 (Alchemy Records ARCD-029, 1991) *Compilation
2. デビューライブ (Fujiyama VOID-38, Cassettetape, 1999) *Live 1980
3. ランニング・ホームラン (Alchemy Record ARCD-131, 2001.6.28) *Live 1980-1981、EP『ホームラン』、発掘盤『デビューライブ』の増補版
4. ゴースンの一生・ライブ (Alchemy Records ARCD-217, 2009.8.28) *Live 1982 + Studio 1983、ロック・オペラ『ゴースンの一生』ライヴを含む、EP『ゴースンの一生』の増補版

5. メジャーデビュー (テイチクエンタテインメント Reveil / Alchemy Records TECH-36440~41, 2CD, 2015.11.19) *アルバム『こっぷらきん・キングホブラ・インドの虎狩り・ゴースンの一生』『ランニング・ホームラン』から数曲割愛、未発表テイク26曲、新曲「こもがわブルー」追加収録
6. グレイテストヒッツ (Alchemy Records / P-VINE Records ALPCD-4, 1CD, 2022.7.6) *『こっぷらきん・キングホブラ・インドの虎狩り・ゴースンの一生』のリマスター増補版
7. 2CD, 2015)
6. グレイテストヒッツ (Alchemy Records / P-VINE Records ALPLP-4, 1LP, 2022.11.2) *『こっぷらきん・キングホブラ・インドの虎狩り・ゴースンの一生』のリマスター増補版から『ゴースンの一生』を割愛、ライヴ盤『ホームラン』を収録
・DVD
1. 1981年8月28日 新宿ロフトライブ (Alchemy Records ARDVD-003, 1DVD, 2008.9.30)
・Box Set
1. ほぶらきん・コンプリートBox (Alchemy Records YOUTH-2, 6CD+1DVD, 2013.5.29)

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)