宇宙探求~サン・ラ・イン・コンサート Vol.1&Vol.2 (Shander, 1971) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

宇宙探求~サン・ラ・イン・コンサート Vol.1&Vol.2 (Shander, 1971)
サン・ラ Sun Ra Arkestra - 宇宙探求~サン・ラ・イン・コンサートVol.1 Nuits de la Fondation Maeght Volume 1 (Shander, 1971)

Released by Disques Shander SR-10.001, France(1971), Recommended RR11, UK(1981)
All Written & Arranged by Sun Ra except as indicated.
(Face A)
A1. Enlightment (Sun Ra, Hobart Dotson)  - 2:56
A2. The Star Gazers - 3:08
A3. Shadow World - 13:20
(Face B)
B1. The Cosmic Explorer - 19:45 
サン・ラ Sun Ra Arkestra - 宇宙探求~サン・ラ・イン・コンサートVol.2 Nuits de la Fondation Maeght Volume 2 (Shander, 1971) 

Released by Disques Shander SR-10.003, France(1971), RCA SHP-6204, Japan(1971)
All Written & Arranged by Sun Ra.
(Face A) :  

A2. Spontaneous Simplicity - 10:19
(Face B) :  

B2. Black Myth - 7:32
 - A) Shadows Took Shape
 - B) The Strange World
 - C) Journey Through the Outer Darkness
B3. Sky - 3:31
[ Sun Ra Arkestra]
Sun Ra - electric piano, organ, Minimoog
Kwame Hadi - trumpet
Akh Tal Ebah - cornet, trumpet
John Gilmore - tenor saxophone, drum, vocals
Marshall Allen - alto saxophone, flute, oboe, piccolo, percussion
Pat Patrick - baritone saxophone, tenor saxophone, alto saxophone, clarinet, bass clarinet, flute, percussion
James Jacson - clarinet, oboe, flute
Danny Davis - alto saxophone, flute, percussion
Absholom ben Shlomo - alto saxophone, flute, clarinet
Danny Thompson - baritone saxophone, alto saxophone, flute
Alan Silva - violin, cello, bass
Alejandro Blake Fearon - bass
Rashid Salim IV - vibraphone, drums
Nimrod Hunt - hand drums
John Goldsmith - drums, tympani
Lex Humphries - drums, percussion
June Tyson - vocals
Gloristeena Knight - dance, vocals
Verta Grosvenor - space goddess, dance, vocals 

(Original Shander "Nuits de la Fondation Maeght Volume 1" LP Liner Cover, Gatefold Inner Cover & Face A Label)
 今日は大晦日ですがこのブログは平常通りで、むしろLP2枚におよぶサン・ラ・アーケストラのヨーロッパ進出のパリ公演を収めたこのライヴ・アルバム(1970年8月5日収録)こそ、ロックで言えば全世界のヒッピーの一家に1枚と名高いホークウィンドの2枚組ライヴ『宇宙の祭典 (Space Ritual)』1973と並んで、大晦日に楽しく聴ける祝祭的作品はないでしょう。本作と同じ原題『Nuits de la Fondation Maeght』(マグー美術館の夜)と題されたフランスの美術館収録のライヴ・アルバムはセシル・テイラー(1969年収録)にもアルバート・アイラー(1970年収録)にもあって、いずれもフランスのShanderレーベルが原盤です。Shanderレーベルは先にご紹介した、やはりフランスでリリースされた『The Solar-Myth Approach Vol.1 & 2』BYGレーベル同様フランスのインディー・レーベルで、1970年~1972年にかけてテリー・ライリーやラ・モンテ・ヤングらアメリカの現代音楽家、またフランス公演を行ったアメリカのフリー・ジャズ・アーティストのライヴ・アルバムをリリースしたレーベルですが、セシル・テイラーの邦題は『セシル・テイラー(Aの内幕)』で3枚組LP、アルバート・アイラーは2枚が『ラスト・レコーディングVol.1』『Vol.2』という邦題でRCAレコードの配給によって分売され、サン・ラは『Volume 1』と『2』がそれぞれ邦題『宇宙探求~サン・ラ・イン・コンサートVol.1』『Vol.2』として日本発売された、と資料にあります。Shanderはその後原盤権が不明になっているらしく、'90年代にはテイラー、アイラー、サン・ラともJAZZ VIEWというイタリアのパブリック・ドメイン・レーベルから観光写真をあしらったLP起こしのCDで出ていました。2000年代にはアイラー盤は遺族が版権を再登録して正規CDが出ましたが、テイラー盤(アメリカではLP時代にはプレスティッジ・レコーズが3枚組『The Great Concert』として発売していました)とサン・ラ盤の『Nuits de la Fondation Maeght』はJAZZ VIEW盤が廃盤になっても未だに正規CD化されていません(海賊盤、パブリック・ドメイン盤のみ)。ボロボロの演奏のアイラー盤が最晩年の録音ゆえに人気と知名度が高く、絶頂期の壮絶な演奏が聴けるテイラーの傑作とサン・ラ盤がいまだに海賊盤でしかCD化されず、公式CD化されていないのは大きな損失です。サターン・レコーズも2010年代からはCD化が稀になり、配信発売によって未CD化作品の復刻に切り替えていますが、MPファイルによる音質の限界を含めて、やはりサン・ラのようなアルバム・アーティストのジャズマン作品はしっかりアイテムとしてのCD再発の方がふさわしいでしょう。

 ジャズでも前衛の部類に入る彼らのライヴ収録が美術館で行われたのは何ら芸術的関連などではなく、アメリカのジャズマンを招聘したコンサートは商業的会場での開催に主に税務的問題から法的手続き上の面倒が多いので戦前から美術館開催の伝統があり、また美術館での開催は非商業的コンサートとして免税になるというメリットがあったからと思われます。チケット代ばかりでなく飲食物販売、レコード物販にも税務上の控除があったでしょう。インディー・レーベルのShander、また大所帯で資金繰りが大変なサン・ラ側の両者にとってもライヴ・アルバム制作も兼ねられればチケット売り上げも納税控除になれば大助かりで、ただしきちんとした原盤権契約をアーティストと結んでいなかったらしいリリースが後々版権問題で祟ることになります。再発売して見込める売り上げを考えると原盤権の再登録料は安いものではありません。アイラー盤は遺作となりロングセラーになった人気作だったからともかくとして、テイラー盤とサン・ラ盤はShanderさえも版権を確保しておらず、再発権を主張できないようです。サン・ラ盤は2003年にイタリアでアナログ盤とCDでパブリック・ドメイン復刻され、現在は唯一アーケストラのマネジメントからダウンロード販売されていますが、正式に版権を取得していたらアナログ盤・CDでの復刻が行われているはずですから、ダウンロード販売はバンド側のゲリラ的リリースでしょう。

 サン・ラの'70年代録音のご紹介は今回で8作目ですが、録音順で今回のアルバムはまだ1970年8月です。前回までのアルバムが60年代録音を含んでいることにもよりますし、今回のライヴ・アルバムはサン・ラにしては珍しく録音年月日が特定できる、純然たる1970年8月5日収録のライヴです。先にご紹介した、やはりフランスのBYGレーベルからの『The Solar-Myth Approach Vol.1 & 2』はライヴ・アルバムに見せかけたようなジャケットながらサン・ラの未発表スタジオ録音曲の放出盤でしたが、おそらく同作のジャケットはこの『Nuits de la Fondation Maeght』時のフランス公演のステージ・ショットを流用したものと思われます。

 本作は事実上パブリック・ドメイン状態になっているためYouTubeで『Volume 1』『Volume 2』の全曲が聴けます。『Volume 1』はA面3曲・B面1曲と『Volume 2』より過激な構成をとっており、この『Volume 1』だけが単独アルバムとして1981年にアヴァンギャルド/ポスト・パンク・ロックのレーベルRecommendedからも再発売されました。どうもサン・ラ盤『Nuits de la Fondation Maeght』は『Volume 1』と『Volume 2』はもともと原盤権が別々のようなのです。YouTubeでは聴けて商品としてのアルバムは中古のアナログ盤を探すか、アーケストラの公式サイトからダウンロード販売を購入してCD-Rに焼くしかない、しかも内容は質・量ともに必聴盤クラスのライヴ・アルバムであるために、ビギナー、マニアともに悩ましい作品です。

 さて、本作はアーケストラ'70年代のライヴ活動快進撃のもっとも早い記録として絶大な価値があります。発掘ライヴは別として、純然たる新作のフル・ライヴ・アルバムとしては1966年録音・発売の『Nothing Is』に次ぐものですが、何しろ1970年のヨーロッパ・ツアーは驚愕の21人編成(トランペット2人、サックス6人、ベース2人、ヴォーカル3人、ドラムス4人にパーカッション、ダンサー、コーラス4人!)の上に当時までの代表曲を最新アレンジで聴くことができ、サン・ラがムーグ・シンセサイザーを弾きまくりです。特に『Volume 1』B1の『The Cosmic Explorer』では後半6分あまりノイズの嵐と化した無伴奏シンセサイザー・ソロが聴けます。おそらくアナログ機器ならではの制御を失ったムーグ・シンセサイザーの暴走を紙一重でコントロールしていると思われますが、のちのインダストリアル・ノイズのミュージシャンの先駆をなすノイズ操作で音楽として構成している手腕はさすがで、本作のハイライトになっています。ただ前述の通り本作は正規盤CDがありませんので、代わりにお勧めできるのは本作から2か月後の1970年10月の2回の白熱のドイツ公演を、メジャーのPhilips傘下のジャズ・レーベル、MPSが巧みな編集で収めた名盤『It's After the End of the World』(MPS, 1970)が邦題『世紀の終焉』として日本盤もあり、サン・ラの代表作としてジャズ名盤ガイドでもタイトルが上がる、スタジオ盤の傑作『サン・ラの太陽中心世界』(ESP, 1665)と並んで定評のある、サン・ラのライヴ・アルバムの傑作です。ただしそちらを聴くと、この『Nuits de la Fondation Maeght Volume I et II 』も聴きたくなるのが痛し痒しでしょうか。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)