クラウス・シュルツェ - ドーデの水車小屋 (サウンドトラック) (Virgin, 1994)
Released by Virgin Records France 7243 8 39594 2 6, May 3, 1994
Reissued by Revisited Records REV 004, SPV GmbH SPV 085-304062 CD, January 31, 2005
Produced and Composed by Klaus Schulze
(Tracklist)
1. The Beginning/The Delegates - 4:03
2. Mother Sadness - 3:01
3. The Loss of the Factory - 1:56
4. The Youth - 1:46
5. Friday's Departure - 0:48
6. The Mill of Maitre Cornille - 1:46
7. Maitre Cornille in the Fields - 1:08
8. Folk Dance - 1:27
9. The Discovery of Maitre Cornille's Secret - 1:48
10. Joy of Maitre Cornille/Garden & Youth (Reprise) - 3:14
11. Landscape/Way to the Old People - 2:36
12. Old People's Piano - 3:25
13. Old People's Farewell - 2:00
14. Exodus - 4:50
15. Le Petit Dauphin I - 5:29
16. Le Petit Dauphin II - 1:34
17. First Church Sequence - 1:59
18. Second Church Sequence & Organ - 6:55
19. St. Pierre - 2:15
20. Paradise & Inferno - 5:53
21. Finale - 4:57
(Reissued SPV CD Bonus Track)
22. The Ion Perspective - 15:58 :
Klaus Schulze - electronics
(Original Virgin "Le Moulin de Daudet" CD Liner Cover & 2005 Revisited Records SPV Reissued CD Front Cover)
数作ぶりに全曲の試聴リンクが引けたこの日本未公開のフランス映画のサウンドトラック・アルバムは、第26作の『The Dome Event』'92に続いて発表された10枚組未発表音源集大成アルバム第1弾『Silver Edition』'93の次に単独アルバムとして初めて発表されたもので、未発表録音の集大成アルバムのシリーズは『Silver Edition』は以降10枚組『Historic Edition』'95、25枚組『Jubilee Edition』'97、『Silver~』『Historic~』『Jubilee~』にさらに収録曲を追加して並べ直した50枚組『The Ultimate Edition』2000、さらに新作10枚組『Contemporary Works I』2000、新作5枚組『Contemporary Works II』2002と続き、この頃のクラウス・シュルツェ(1947-2022)はボックス・セットも収録CDを1枚ごとに単独アルバムと見なしていましたから(のち2000年代に未発表曲ボックスを再構成してCD2枚組、CD3枚組単位で『Contemporary Works』2セットをリリースし直しした『Ballett』シリーズの14作、『The Ultimate Edition』をリリースし直した『La Vie Electronique』の16作発表後は、再び単独アルバムの新作とアーカイヴ・ボックスを分けるようになるのでややこしいのですが)『Silver Edition』を数えない純粋な単独アルバムの新作とすると本作は27作目、『Silver Edition』の10枚を加えると本作はシュルツェ37作目( ! )になり、本作の再発CDのボーナス・トラック曲「The Ion Perspective」は「Ion/Andromeda」と改題されて16分7秒の完全版がシュルツェ2017年のアルバム『Eternal』に収められますが、アーカイヴ・ボックスを数えれば『Eternal』はシュルツェ105作目( ! ! )のアルバムに数えられることになります。筆者は2000年以前のシュルツェのアルバムはバンド作、プロジェクト作、共同名義作、「The Dark Side of the Moog」シリーズまでほぼ全作品を押さえましたが、ボックス・セットは限定版だったこともあり『Historic Edition』しか手に入らず、『The Ultimate Edition』を年代順に並べ直して3枚組単位で分割再発売した『La Vie Electronique』全16巻(2009~2015)は『Historic Edition』との重複やまだ入手していない'80年代~'90年代のアルバムを優先する事情もあって二の足を踏み、シュルツェのソロ・アルバム紹介シリーズも20世紀を区切りとする'90年代いっぱいの作品をもって一旦締めくくるつもりです。ソロ・アルバムのご紹介を終えたあとご紹介する予定の20世紀以内にシュルツェが関わったアルバムは、バンド作、プロジェクト作、共同名義作、「The Dark Side of the Moog」シリーズなどなど、ソロ・アルバムと同数あまりあるのです。
本作と同時期にシュルツェが手がけた映画のサウンドトラック音源はまだ他にもあり、直前にリリースされた『Silver Edition』にも収録されていますが、フランスの映画監督サミー・パヴェル(1944-)によるフランス作家アルフォンス・ドーデ(1840-1897)の伝記映画のサウンドトラック・アルバムの本作は、映画会社の意向や後押しもあったかもしれませんが、単独発売されただけあってライヴ盤の続いていたシュルツェの、ひさしぶりに全編スタジオ録音のトータル・アルバムを聴いた手応えがあります。シュルツェのサウンドトラック・アルバムというと1977年に『絶頂人妻ボディ・ラブ』、1985年に『アングスト』がありましたが、映画音楽家としてのシュルツェはきっちり旋律・調性・和声・定型リズムを備えた明快な音楽を作るので、シュルツェの音楽のキャッチーな面、メロディー・メイカーとしての側面をストレートに味わえる作品になっています。『絶頂人妻ボディ・ラブ』がドイツとイタリア合作のポルノ映画、『アングスト』がドイツの猟奇犯罪サイコ・スリラー映画の映画音楽だったのに今回は19世紀フランス作家の伝記映画とは意表を突かれますが、フランスはシュルツェの音楽をいち早く高く評価した国で、日本未紹介の監督ですがサミー・パヴェルは'72年監督デビューでシュルツェのソロ・デビューと同年、世代的にもシュルツェより3歳年長なだけですからシュルツェには早くから注目していたのでしょう。『ドーデの水車小屋』はパヴェルの監督第8作ですが、前'93年にヴァン・ゴッホの伝記映画でポルトガルの映画祭の大賞を受賞したのに続く企画だったようです。映画については未見なので何とも言えませんが、このシュルツェのサウンドトラック・アルバムを聴くとあまりに壮大かつダイナミックで、映画が音楽負けしてはいないか心配になります。案外映画では楽曲の大半が断片的使用か未使用になったので、映画公開のプロモーションにもなることだし単独アルバムとしてリリースされたのではないかという推測もされます。映画音楽というジャンルではサウンドトラック・アルバムを聴いてから映画を観たらほとんど音楽は使われていなかった、というのもよくある例で、音楽は音楽で埋もれさせるには惜しいのでリリースした、という場合も多いのです。映画を観ていないので本作だけ聴いた感想から言えば、これはシュルツェのアルバムとしては具体的なイマジネーション喚起力も抜群な、なかなかの会心作で、同じ理由で映画音楽としてはやり過ぎだったかもしれませんん。本作はあまりに音楽作品として強力に完結していて、映画音楽としては過剰すぎるように思えるのです。本作はシュルツェの好調を伝える作品として表題音楽的に聴き、映画はまた別物という意味では『絶頂人妻ボディ・ラブ』や『アングスト』と並ぶシュルツェの会心作と言えるアルバムでしょう。この時期のシュルツェがいかに充実した創作力にあったかを確認できる佳作です。
(旧記事を手直しし、再掲載しました。)