チャールズ・ミンガス - ミンガス (Candid, 1961) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

チャールズ・ミンガス - ミンガス (Candid, 1961)
チャールズ・ミンガス Charles Mingus - ミンガス Mingus (Candid, 1961) :  

Released by Candid Records CJS 9021, October 1961
All compositions by Charles Mingus except B1 by Harold Arlen & Ted Koehler.
(Side A)
A1. M.D.M. (Monk, Duke and Me) - 19:49
(Side B)
B1. Stormy Weather - 13:23
B2. Lock 'Em Up (Hellview of Bellevue) - 6:40
[ Charles Mingus Jazz Workshop ]
Charles Mingus - bass (A1, B1, B2)
Ted Curson (A1, B1, B2), Lonnie Hillyer (A1, B2) - trumpet
Jimmy Knepper, Britt Woodman - trombone (A1)
Charles McPherson - alto saxophone (A1, B2)
Eric Dolphy - alto saxophone (A1, B1, B2), flute (A1, B3) and bass clarinet (A1, B2)
Booker Ervin - tenor saxophone (B2)
Nico Bunink (A1), Paul Bley (B2) - piano
Dannie Richmond - drums (A1, B1, B2)
(Original Candid "Mingus" LP Liner Cover & Side A Label)

 本作は前回ご紹介した『Charles Mingus Presents Charles Mingus』(Candid, 1961)の続編または姉妹作と言えるアルバムで、この時期チャールズ・ミンガス(ベース、作編曲・1922-1979)はアトランティック・レコーズとの契約とともにマーキュリー・レコーズ、ユナイテッド・アーティスツ・レコーズからも力作・佳作・秀作・名作・傑作を連発していたために、本作ほどのアルバムでもミンガス作品にあってはインディー・レーベルのキャンディド盤、しかも大傑作『~Presents Charles Mingus』の直後とあって比較的地味なアルバムになっています。ミンガスのアルバムは『Mingus Wonderland』『Mingus Ah Um』『Mingus Dynasty』『Mingus Rivisited』『Charles Mingus Presents Charles Mingus』『Mingus Oh Yeah!』『Mingus Mingus Mingus Mingus Mingus (aka Five Mingus)』とタイトルにもミンガスの名前を謳ったアルバムがあまりに多いので、本作のように単に『Mingus』だと既発表曲からのベスト盤かコンピレーション盤のようでまぎらわしい、ということくらいキャンディド側も考えなかったのでしょうか。しかし内容は必聴で、まず『~Presents Charles Mingus』が録音された1960年10月20日セッションから、『~Presents Charles Mingus』には未収録だった2曲がB1, A1(録音順)と含まれています。ミンガス、テッド・カーソン(トランペット・1935-2012)、エリック・ドルフィー(アルトサックス、バス・クラリネット・1928-1964)、ダニー・リッチモンド(1931-1988)のピアノレス・カルテットは『~Presents Charles Mingus』の4曲に続いて同じ編成のまま13分半にもおよぶブルース・スタンダード曲「Stormy Whether」を録音しました。さらに同日はカルテットにロニー・ヒラー(トランペット)、ジミー・ネッパーとブリット・ウッドマン(トロンボーン)、チャールズ・マクファーソン(アルトサックス)、ブッカー・アーヴィン(テナーサックス)、ニコ・ビューニック(ピアノ)を加えた10人編成で20分近い大曲A1「M.D.M. (Monk, Duke and Me)」と「Reincarnation of Love Bird」を録音します。この2曲はピアノレス・カルテットで統一した『~Presents Charles Mingus』とはコンセプトが異なり、アトランティック盤で既発表だった「Reincarnation of~」は一旦ボツにされ、アルバムにするには「Stormy Whether」「M.D.M.」の大曲2曲だけでは足りないので、キャンディドはミンガスに翌11月11日、最大8人のメンバーを揃えて8曲を録音し、2曲をジャズ・アーティスト・ギルド名義のオムニバス盤『The Jazz Life』(Candid CJS 9019, 1961)、3曲をやはりジャズ・アーティスト・ギルド名義のオムニバス盤『Newport Rebels』(Candid CJS 9022, 1961)に振り分け、「Lock 'Em Up (Hellview of Bellevue)」を本作『Mingus』に収録し、残る「Reincarnation of Love Bird」3テイク、11月セッションで没になった「Body and Soul」2テイクは1980年代末のCD化以降ミンガスの拾遺アルバム『Reincarnation of Love Bird』やキャンディドでのドルフィー参加曲のうち未発表曲・未発表テイクを集めた『Candid Dolphy』で初発表されました。そんな具合に1回の解説ではすんなり理解できる方はいないくらいに、ジャズ、ことにインディー・レーベルのアルバムはややこしい成立過程を持っていることが多いのです。とりあえず本作はA1とB2が中編成ビッグバンド、B1がピアノレス2菅カルテットという辺りを押さえておけばいいでしょう。

 録音順から解説していくと、B1「Stormy Whether」は『~Presents Charles Mingus』の4曲に続いて同じピアノレス・カルテット編成で演奏された曲です。『~Presents Charles Mingus』は全4曲ミンガスのオリジナル曲だったので、ブルース・スタンダード曲をいかに斬新なピアノレス・カルテット編成で演奏するかが興味となっています。ピアノレスのスカスカな空間ばかりかほとんど無伴奏ソロのリレーでつながれるこのヴァージョンは、アーシーな原曲ともに『~Presents Charles Mingus』とは違う方向への実験性が際立っていて、別のアルバムに分けた意図が伝わってきます。また本作最大の力作でこの曲のためだけに6人を増員したミンガスのオリジナル曲A1「M.D.M. (Monk, Duke and Me)」は、セロニアス・モンクの「Straight No Chaser」にデューク・エリントンの「Main Stem」、ミンガス自身の「Fifty-First Street Blues」を合体・並行演奏した曲で、2~3曲同時演奏の試みはミンガスの作風確立期からのお手の物でしたが、ここではそのもっとも複雑なアレンジが聴かれます。

 A面全面を占める大曲A1は、サブタイトル通り「M.D.M.』はモンク、デューク・エリントン、そしてミンガスの頭文字を採ったもので、特にソロイストがフィーチャーされない分、B2「Lock 'Em Up (Hellview of Bellevue)」とともにアンサンブルのアレンジに興味のかかっている曲です。いかにもミンガスらしい濃厚な作編曲の妙が聴かれるアルバムですが、ドルフィーを目当てに聴くとピアノレスで無伴奏ソロやベースとのデュエットがたっぷり聴ける「Stormy Whether」以外は「M.D.M.」で短いアルトサックス・ソロが聴けるだけで、本作は実質的には準ビッグバンド作品であり、ミンガスの成功作がアレンジとソロイストの配分がバランス良く取れている時にこそ楽しめるものだとすると、本作は核をなす大曲「M.D.M.」に代表されるようにあまりに凝ったアレンジに成否がかかっていて、ミンガスの力作でこそあれドルフィーを始めとしてカーソン、ネッパー、アーヴィン、マクファーソンら優れた奏者の自在なソロを楽しむには不向きな方向性にまとめられたアルバムという印象はぬぐえません。一方ドルフィーがニューヨーク進出以降最晩年のヨーロッパ・ツアーまで生涯ミンガスのバンド・メンバーだったことも違いないので、本作がもっとドルフィーをフィーチャーした内容だったらと思うのはない物ねだりでもあり、しかしどうしてもそこに物足りなさを感じてしまうのです。