果てしない大空を見ようと、ほか二つ | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

James Ensor, "Verbazing van het masker Wouse (Astonishment of the Wouze Mask)", 1889

手のひらにすくった水を
孤独、自由、救いと悲しみのために

または頭の上にのせた石を または
手のひらでつつんだ蠟燭の火を 消えないように または
こぼさないように 荒れはてたほこらの 聖堂の祭壇にとどける
厳粛で滑稽な儀式 だがそれは嗤えない

儀式をなしとげた時に もたらされる奇蹟を 信じまいとしても
あるいは 信じない者だけがたどり着ける 未知の領域がある
としたら

それは救済ですら ないかもしれない ただ孤独をまぎらわすための
賭けに似た 自由の確認でしかないかもしれない

手のひらに すくった水をはこぶ
こぼしたら そこで終わりか やり直せるのか
それすらわからないまま 不確かな日常は 何度もくり返す
仮面の老嬢の 悲しみが見つめるぶ厚いカーテンの
閉まった部屋で 不自由を

自由に突きおとす


果てしない大空を見ようと
孤独、自由、救いと悲しみのために

やさしく すばらしい彼女は
果てしない大空を見ようと
窓をいっぱいに開けはなす

彼女は それだけを望んだ 安らぎと憩いの景色 たったひとりで
臨終を迎えても 大空の下に広がる慰めに 限りがないことを
誰にともなく 託して そしてそこでは

無数の雨粒が真っ白な雲になり 青空をいろどる
そして日傘をさす 開けはなした窓から はるか青空へ
ただひとり 飛翔するために そして

き ず ぐ ち は い つ も ば ら い ろ


星雲は青く凍てついて
孤独、自由、救いと悲しみのために

成層圏のかなた 太陽系より遠く
星雲は青く凍てついて 光年の果てに
固定されている ぼくらはそれを見つめる ゼノンの矢のように
時は静止して飛ぶ あるいは飛ばない
そして彼女は 月の光を浴びる

胸やや白き衣紋を透かして、濃い紫の細い包み、袱紗の縮緬がひらりとかゑると、燭台に照つて、さつと輝く、銀の地の、ああ、白魚の指に重さうな一本の舞扇。 

※※
「そのときひとは
泪に近い字を無数におもいだすが
けっして泪にはならない」

魚(水)
 白
 骨

※※※
白骨のしらうをの目や泪なし

凍てつく 凍てついて月光と行燈の灯りに舞う そうするしか
確かめられない 氷の燭台の光の輪に 閉じこもる
永遠のなかに立ちすくむ 誰にも見られず また
見られることも望まずに

ただ白魚の指だけで一切と立ちむかう

※泉鏡花「歌行燈」
※※安東次男『CALENDRIER』より「みぞれ」
※※※芭蕉「行春や鳥啼魚の目は泪」

(未定稿の旧作を整理してまとめました)