エレクトリック・プルーンズ(3) ヘ短調のミサ (Reprise, 1968) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

エレクトリック・プルーンズ - ヘ短調のミサ (Reprise, 1968)
エレクトリック・プルーンズ The Electric Prunes - ヘ短調のミサ Mass in F Minor (Reprise, 1968) :  

Released by Reprise Records RS 6275 (Stereo), R 6275 (Mono), January 1968

Japanese Released by Reprise Records SJET 8059, 1968
Produced by David Hassinger
Engineer - Richie Podolor
All songs composed and arranged by David Axelrod except where noted.
(Side 1)
A1. Kyrie Eleison - 3:21
A2. Gloria - 5:45
A3. Credo - 5:02
(Side 2)
B1. Sanctus - 2:57
B2. Benedictus - 4:52
B3. Agnus Dei - 4:29
(CD bonus tracks)
7. Hey Mr. President (Ritchie Adams, Mark Barkan) - 2:49 *Single A-Side :  

James Lowe - vocals
Ken Williams - lead guitar (some tracks)
Mike Gannon - rhythm guitar (some tracks)
Mark Tulin - bass
Michael "Quint" Weakley - drums
Richie Podolor - engineer, guitar (some tracks)
The Collectors - (some tracks)
(Original Reprise "Mass in F Minor" LP Liner Cover & Side 1 Label)

 本作からはA1「Kyrie Eleison」が映画『イージー・ライダー』1969のサウンドトラックに使用され、同映画のサントラ盤『Easy Rider (Music From The Soundtrack)』(ABC/Dunhill, 1969)にステッペンウルフ、ザ・バーズ(ロジャー・マッギン)、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス、ホリー・モーダル・ラウンダーズらとともに収録されて、映画の大ヒットからサウンドトラックに収録されたステッペンウルフの「Born To Be Wild」(イギリスではまったくヒットしませんでした)、ラウンダーズの「Bird Song」とともに結果的にエレクトリック・プルーンズのもっとも有名な楽曲になりました。本作については英語版ウィキペディア、総合音楽サイトのAllmusic.comにも詳細な解説がありますが、音楽データサイトのDiscogs.comにもっとも簡潔にして要を得た解説がありますから、それを訳して掲載します。

 1968年1月にリリースされた本作『ヘ短調のミサ』は、アメリカのロック・バンド、エレクトリック・プルーンズのサード・アルバムです。歌詞はラテン語とギリシャ語で歌われ、バンドのサイケデリックなスタイルによるミサ組曲として、作・編曲家のデイヴィッド・アクセルロッド(1931-2007)によって作・編曲されました。
 前作『アンダーグラウンド』のセールス不振による商業的限界のため、エレクトリック・プルーンズのマネージャーのレニー・ポンシエと、リプリーズ・レコーズでバンド名の権利を所有していたプロデューサーのデイヴィッド・ハッシンジャー(1927-2007)は、バンド自身にアレンジと演奏を任せていた前2作から、この第3作では正式な音楽教育を受け、西海岸ジャズ(ハロルド・ランド、エルモ・ホープら)のプロデュース実績もあるプロの鬼才作・編曲家、アクセルロッドに企画を立案させました。このアルバムは、カトリックのミサをロック・オペラ化したコンセプト・アルバムで、教会音楽的要素とクラシック音楽的要素をサイケデリック・ロックと組み合わせるアイディアに基づくものでした。
 アクセルロッドは、ハッシンジャーからエレクトリック・プルーンズ名義のアルバムで自由に制作するために、アルバム内容について全権を任せる白紙委任状を与えられました。
 プルーンズのメンバーたち、ヴォーカリストのジェームズ・ロウ、ギタリストのケン・ウィリアムズとマイク・ギャノン、ベーシストのマーク・トゥリン、ドラマーのマイケル・ "クイント"・ウィークリーがアルバムを録音する準備中に、あまりにアレンジが複雑なために、アクセルロッドが要求する水準、また録音用に確保された時間内ではプルーンズの演奏では演奏不可能なのが明らかになりました。 ロウ、トゥリン(楽譜の読めた唯一のメンバー)、ウィークリーはアルバム全曲に参加しましたが、ウィリアムズとギャノンはアルバムA面の3曲(「Kyrie Eleison」「Gloria」「Credo」)のみの参加で録音から外され、アルバム全体のサウンドはエンジニアでギタリストのリッチー・ポドローが手配したスタジオ・ミュージシャンと、カナダのグループ、ザ・コレクターズ(メンバー不詳)によって仕上げられました。聖歌風に唱和するヴォーカルは、ザ・コレクターズと、多重録音によるロウとプルーンズのメンバーによるものでした。
 (Discogs.comより)

 と、本来本作は作・編曲家デイヴ・アクセルロッドのコンセプト・アルバム作品で、ロック・バンドによる現代古典聖歌のアルバムを意図した、サイケデリック・ロックがいくつも枝分かれしていくうちプログレッシヴ・ロックに発展していく、その初期のアルバムと言えるものです。ヨーロッパの'70年代プログレッシヴ・ロックのリスナーならこの手の宗教的モチーフのアルバムは即座に数十枚思い浮かぶ(フランスにマグマという特異な存在もいますが、特にカトリック本山のイタリアン・ロックにはうじゃうじゃいます)でしょう。モーツァルトから20世紀ポピュラー音楽を通ってビートルズを経た現代ロックまでの軌跡をたどったヴァニラ・ファッジのセカンド・アルバムのコンセプト作品『The Beat Goes On』(Atco, February 1968)が本作発表の翌月リリースですが(徹底的に破壊的で実験的なヴェルヴェット・アンダーグラウンドのセカンド・アルバム『White Light/White Heat』Verve, January 1968が本作と同月リリースと思うとクラクラしますが)、ヴァニラ・ファッジは年間アルバム・チャートのトップ10入りした大ヒット作のデビュー作『キープ・ミー・ハンギング・オン (Vanilla Fudge)』(Atco, July 1967)ですでにバロック音楽や現代音楽アレンジとヘヴィなモダン・ロックの融合に着手していたので、本作はむしろヴァニラ・ファッジから着想をいただいてコンセプト・アルバムに仕上げた作品と見なせます。ロック・オペラの嚆矢という点でもザ・フーやプリティ・シングスとほぼ同じ時期の作品であり、本作をより現代音楽寄りに、エレクトロニクスやサウンド・コラージュによって本格的に仕上げた作品としてスプーキー・トゥース&ピエール・アンリの『Ceremony』(Island, December 1969)が上げられます。オーケストラとの共演によるトータル・アルバムはムーディー・ブルースがアルバム『Days Of Future Passed』(Deram, November 1967)を制作して大ヒットさせていました。

 それらと聴き較べると、プルーンズの本作はそこそこの管弦楽の導入(次作ではさらに管弦楽の比率が増えます)はあるものの(映画の都ハリウッドに音楽を提供していたロサンゼルスには譜面一発でばっちり決めるミュージシャンがわんさかいます)、基本になっているのはギター、ベース、ドラムスによるロックのサウンドです。仰々しいバロック音楽風メロディーを除けば本作は思ったほど「バロック音楽・教会音楽・クラシック音楽とロックの融合」ぽくないので、もしプルーンズに初期2作の名盤『今夜は眠れない』『アンダーグラウンド』がなく、本作でデビューしていたら(そして本作の発展型である次作によって)案外異色のカルト作品を残したバンドとして、別の方向から支持されていたかもしれません。しかし実際はプルーンズにはアメリカ版ヤードバーズかプリティ・シングスかというくらいかっこいいガレージ・サイケの名盤2作『今夜は眠れない』『アンダーグラウンド』があり、そこにきて路線を急展開して本作『ヘ短調のミサ』、さらに本作同様デイヴ・アクセルロッドの作・編曲による次作『Release of an Oath』(Reprise, November 1968)ではアクセルロッドとの軋轢から本作以上にオリジナル・プリューンズのメンバーは蚊帳の外でアルバムほぼ全編が新たにコロラドからアクセルロッドが連れてきたバンド、クライマックスとスタジオ・ミュージシャンによって録音され、第5作でラスト作がメンバー総入れ替えでクライマックスが「The New Electric Prunes」として全曲を演奏し、オリジナル・プルーンズのメンバーがまったく参加せず、CCRやフォガットもどきのロックンロール大会『Just Good Old Rock and Roll』(Reprise, June 1969)となってしまうのでは、単体としてはなかなかの古典聖歌+ガレージ・サイケ+ロック・オペラの融合作である本作もどこまでバンドが真剣なのか、そもそもプルーンズのアルバムなのかハッシンジャー&アクセルロッドの企画アルバムなのか判然としません。ヴォーカルも悪くない雰囲気でギターもなかなかよく、ベースとドラムスもそこそこ決まっているのに、どこまでがプルーンズのメンバーによるものか、アクセルロッドがカナダから呼んだバンド、ザ・コレクターズのメンバーによるものか、エンジニア兼ギタリストのリッチー・ポドローによるものか、ノンクレジットのスタジオ・ミュージシャンの演奏なのかもわからないのです。それがどこか重量感を欠いた仕上がりに反映されているようです。

 それら異色の内容によって、ひょっとしたらロック史上に残る裏名盤かもしれない出来の本作(AB面3曲ずつ全6曲しかありません)は、本作の姉妹編と言える第4作と並んでおそらく今後とも評価が定着しないまま聴き継がれると思われ、その分プルーンズというバンドの真価に対する評価の足を引っぱり続ける問題作です(そしてコロラドから呼ばれたバンド、クライマックスが「The New Electric Prunes」として制作した第5作はつまらないハード・ブギー系のロックンロール・アルバムで、見向きもされません)。多くのリスナーに聴き継がれている分だけ企画アルバムとしては成功なのかもしれませんが、現存するプルーンズのメンバーにとっても、かろうじてヴォーカルとコーラスだけは残されながら、どこまで自分たちの演奏が使われたかわからないという厄介なアルバムです。異色作か失敗作か、それとも隠れた名作か、本作ほどリスナーの気分次第でどうにでも聴けるアルバムはないという点では、ロック(とそのリスナー)のうさんくささをじっくり堪能できるアルバムです。しかも収録時間はアルバムとしてぎりぎり成り立つ手抜きの26分30秒!というのもこすっからいではありませんか。