第五章完!Nagisaの国のアリス・第25回 | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。



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 アリスは思いつきで女体盛りと口にしただけでしたが、小人たちは一斉にたじろいだようでした。ある者は持っていた道具を落とし、または絶句して喉を詰まらせ、ある者は膝を落とし、または倒れかかりそうになって仲間にやっと支えてもらい、ある者は息を荒くし、またはしゃっくりをこらえ、ある者は音をたてて後ずさりし、または小声で悪態をつき、はてはぶつぶつ祈りや念仏を捧げ始めたようでした。これだと何だか数が合いませんが、たぶんひとりで何役もこなしているか、同じ反応を数人がタイミングをずらして起こしていたのでしょう。いかにも小人ならありそうなことです。
 ところでアリスはなぜそんなことを言い出したかというと、守るより攻めろの精神といいますか、どうせ小人にひどい目にあわされるならなるべく無痛・無傷でどうでもよく済ませたい、との一心からでした。か弱い少女が手足の自由を奪われて、悪知恵より他にどういう抵抗ができるでしょう?できません(反語)、というよりは、アリスの思いつきはどちらかといえば猿知恵の部類でしたが、相手は猿と同等かそれ以下の種族でした。つまりアリスの時代の西洋人にとっては日本人やアフリカ人のようなものです。これは当時のフランス詩人ボードレールも「日本人は猿だそうだ」と日記に書いているくらいですから、相手の水準の知的レヴェルで対抗せずには打つ手は拓けないでしょう。ででで、これって窮鼠猫を噛むみたいなものかしら。もう一度アリスは言ってみました。
 女体盛りよ、わかんないの?
 アリスのだめ押しは小人たちを激しく震撼させました。声に出した反応こそありませんが、これがいわゆるドン引きというやつなのね、と世知にうといアリスですら感知できるほど凍りついたような困惑が、たちまち小人たちをひきつらせ、二の句を継げない状態に追いこんだのは確かなようなことでした。
 わかって言ってるのか?と小人たちのうち、ネゴシエーション・リーダーらしき役割のひとりが震える声でつぶやきました。アリスは強気に、あんた私に訊いてるの、それとも仲間に言ってるの?と追い討ちをかけました。小人は早口で何か言いましたが、おそらくそれは小人仲間たちにだけ通じる周波数帯の言語が思わず出てきてしまったのでしょう。そんなのアリスにはやたらと早口すぎて聞き取りようがありません。
 女体盛りの意味がわかっているのか?と小人がびくびく声で言いました、それをおれたちがやれと?


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 それじゃどうして地面に張りつけにしたのよ、とアリスは喉まで出かかりましたが、考えるまでもなく小人は小人の本能からアリスの自由を封じただけで、たぶんそれは自衛本能か何かなのでしょう。
 それでいいんですかドジソン先生?はい、おおむね間違ってはいません。ですがドワーフ族の多くはワイセツで淫らであることを忘れてはいけませんよ。
 ただですら人間は体長に対して生殖器の比率が大きい哺乳動物ですが、彼らドワーフ族たるや人間の腰ほどの体長なのに、生殖器だけは人間並みの大きさの男性器や女性器を備えているのです。ですから奴隷市場では特別にドワーフ市場があり、調教済みのドワーフ族は紳士や貴婦人には高く取り引きされているほどで、青少年にも将来の夢はYouTuberかミュージシャン、ゲーム製作者か小説家かドワーフ調教師か、というほどの人気なのです。何しろドワーフを調教しほうだいの職業ですからね。
 それでも相手がたかだかドワーフ族で人間でないことを忘れてはいけません。皇族や貴族の寵屓するドワーフでもない限り、死なせてしまっても弁償すれば済みます。
 弁償はいくらくらいかかりますか?
 内臓、筋肉に腑分けして、相当の重量分の畜肉に置き換えてください。肉質では豚ともっとも近いことから同等体重で上品質の子豚の相場が最高になります。後は曲芸ができるとか性的玩具としての性能が高いとか、いろいろ付加価値を賠償額に上乗せ要求するのが上告側の言い分になりますが、それは個人的な嗜好の反映なので、資産価値よりは損害による精神的苦痛の目安程度であり、つまり実際は大して考慮しないのが公正な判決とされています。
 さらに使役されたドワーフはかなりの程度育っているので、その点は子豚より畜肉価値は落ちます。つまり鶏肉としては良質の鶏肉並みで、ドワーフと同等の体長の鳥は稀少種でイメージしづらいですが、単純に重量を鶏肉を置き換えたもの、と思っていただれば実際の賠償額に相当します。
 ドワーフ族を畜肉にする例はあるのですか?
 自然死、事故死、傷害死、病死した畜肉は衛生面から商用販売はできませんが、個人が所有するドワーフを食用にする、または他人の所有物でも示談が成立する場合にはドワーフを食用にすることに法的な禁制力はありません。そもそも豚肉は畜肉ではもっとも人間に近いのですが、豚肉に近いドワーフ族の肉質はさらにほとんど人間と同質ですから、消化吸収栄養価のどれを取っても優れたものなのです。
 また医療用としても歩く内臓バンクと言えるもので、これについては章を改めて。
 第五章完。

※「Nagisaの国のアリス」は今年1月1日から始めた全5部・全200回予定の偽童話シリーズ『偽ムーミン谷のレストラン』の第5部・完結編です。前4部「偽ムーミン谷のレストラン」「荒野のチャーリー・ブラウン」「戦場のミッフィーちゃんと仲間たち」「夜ノアンパンマン」(各40回)は、記事カテゴリー「シリーズ童話」にまとめてありますので、お暇の折にでも拾い読みしていただければ幸いです。ひたすらくだらない内容ですし、自分で言っては何ですが、またまりえさんの素晴らしいイラストのおかげですが、けっこう面白いですよ。

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