猫の話をひとつ。駅前のお宅にグレーのトラ柄の猫がいます。
昼間の陽が射す時間になると、この猫は門の前でじっと座って動かないのです。声をかけても振り向きもしません。
うちの奥さんのノッコは近隣の犬、猫に勝手にニックネームを付けます。わんわん吠える犬に、「ボンジュール」って声をかけると、おとなしくなくなるので、「ボンジュールわんこ」。この犬がいた家の前を通ると、「ボンジュール」と声をかけていました。今はもういません。犬の寿命は短いです。
ある時近くの家の大きな庭で遊んでいた犬に門前から声をかけたら、尻尾をふりふり、ものすごい勢いで飛び出してきた。勢い余って我々を飛び越えて道路の真ん中でフィギュア選手のごとく急に止まりました。慌てて引き返してきましたが、車が来てたら轢かれるところでした。この犬は「ブレーキわんこ」と命名。門の前を通る度に「ブレーキわんこ」はいるかなっと庭を覗きながら通ります。
この駅前の猫は何を考えているのか解らないので、「哲学の野良ちゃん」。
「天気だと、いつも門の前にじっとしてますね」
「この猫は野良ちゃんで、ある日うちに迷い込んできたのよ。うちには他に猫が一匹いるの。この猫はうちに上がろうともしないから、庭に猫小屋を作ってあげたの」
猫はこの奥さんには身体をすりすりしながら甘える。でも通りかかりの人が声をかけて、近づいても振り向きもしません。じっと遠くを眺めているだけ。猫の気持ちは解りません。
ある日の午後、子犬を連れた中年の女性が通りがかりました。犬は哲学の野良ちゃんを見つけると、突然吠えて、猫に向かって突進します。この女性、慌ててリードを引っ張って、叫びました。「お前が敵う相手じゃないんだから、駄目よ!」。猫はピクリともしないで、そのまま遠くを眺めている。
ところが先日見かけたら、様子が少し変です。声をかけると、甘えた声を出しながら近づいてきます。喧嘩をしたのか両耳のところに怪我をしています。痛いのか、「何とかしてよ~」って言っているようです。可哀想だけど如何しようもありません。
これで性格が変わって、哲学の野良ちゃんじゃなくなったかも知れません。
Viosan の「ミネソタの遠い日々」
1970年に私たち夫婦・子供連れでミネソタ大学(University of Minnesota)へ留学した記録のホームページにもどうぞ