子供のころ読んだ図書室の本。英語のサブテキスト。そして、最も原作に忠実で、最もイメージに近いという俳優ジェレミーブレット扮するNHKの『シャーロックホームズの冒険』が私にとってのホームズ。最近19世紀のイギリスのことが知りたくて、いろいろ読んでいくうちにホームズを再度読んだ。
『シャーロックホームズの冒険』
『シャーロックホームズの思い出』
『シャーロックホームズの帰還』
『シャーロックホームズの事件簿』
『シャーロックホームズの叡智』
『シャーロックホームズ最後の挨拶』
『緋色の研究』
『4つの署名』
『パスカビル家の犬』
『恐怖の谷』
いくつか感じたことを書く。
①19世紀イギリスの光と影
産業革命を経て、世界中に大英帝国の勢力が及ぶにあたって、ホームズの扱う事件の遠因、発端が海外というものが多い。新大陸アメリカ、オーストラリア、インドで手に入れた富。その富や遺産の相続に関するもの仲間割れや、詐取、詐欺が様々な様相で事件で、事件の形を取る。また、アメリカ、インドでの卑劣な仕打ち(宗教上の忌まわしい因習、戦争に関するもの、マフィアの抗争、仲間の裏切り)にたいする復讐劇が発端だったりする。
当時のイギリスの弁護士は2種類に分けられ、上級弁護士は主に相続に関する調査をする。つまり、世界中の富がここイギリスに集まり、その富に惹き付けられたよく深い人間が起こす騒動をホームズは数多く手がけているのだ。
また、ロンドンは人類最前線の町であると同時に、汚い空気、水、馬糞や、悪臭を放ち淀んだテムズ川など汚濁の町でもあった。ちょうど、ロバートダウニージュニア扮する新解釈のホームズの映画の第2弾が上映される。かなり、当時のロンドンの汚れっぷりが表現されているよう。視覚的にはばっちりだが、実は、馬車のまき散らす馬糞の臭いが充満していたのがロンドン。
まさに、産業革命と大英帝国の躍進がもたらしたコントラストが至る所に映し出されている。
② 美しい田園風景
一方、ホームズは請われて、ロンドン近郊から北部イングランドまで様々な田舎に調査にいく。ある貴族の邸宅であったり、寄宿学校、リチャード1世時代からの名家と様々。汚濁の町ロンドンと違い、そこにはきれいな田園風景が広がる。ただし、イギリスの田舎には、岩がゴロゴロし、耕作には浮かない荒れ地が至る所にある。ヒースの群生する荒れ地はエミリーブロンテの『嵐が丘』を思わせる。
先日スピルバーグの『戦火の馬』を見に行った。スピルバーグらしい戦争もので、主役の馬が育つ美しいイギリスの田園風景が圧巻だった。どこかで聞いた地名と思い調べるとロケ地は『パスカビル家の犬』の舞台でもあるデボン州、ダートムア。とにかく美しい。その美しい中にも石ころだらけの荒れ地があり、主人公と馬が土地を耕すシーンにはイギリスの農民の苦労が忍ばれる。
③ワトソンとの友情、そして引退
ベーカー街でいつもワトソンと2人でいるホームズしか知らなかったが、実は、ワトソンは結婚とともにベーカー街を出てる。その後も引っ張りだされて、コンビの活躍は続く。頭脳明晰で、胸のすく活躍をするホームズであるが、およそ人間らしからぬ冷たさも感じるホームズ。そのよき理解者で本当の助手であるワトソン。この二人の活躍は永遠かと思っていると、ホームズは晩年サセックスで一人引退生活をおくる。
妻を持たず、家庭も持たなかったホームズ。最後はワトソンとも離れて一人引退生活とは、実に寂しい。
単純な推理小説と思っていたホームズだが。19世紀イギリスのエッセンスのような犯罪を次々解決し、時に国家間の争いの防止にも貢献したホームズ。しかし、第1次世界大戦が始まる頃、ホームズの物語も収束していく。ホームズをしても未曾有の戦渦から人類を救うことはできなかったのだ。
後2年で第1次世界大戦勃発100年の節目になる。『戦火の馬』『シャーロックホームズ』から1世紀。さて人類はどのくらい進歩したのだろうか?そもそも進歩したのだろうか?
p.s.
コカイン注射やアヘン吸引の悪癖には、ショック!
グラナダTVのホームズ、NHK放映の際には巧みにカットされている。
でも、ホームズの声は、露口茂、そう山さんが一番!