藪中三十二さんの『国家の命運』新潮新書を読んだ。2010年読んだ本で一番痛快だった。
薮中さんは、前の外務省事務次官。外務省の事務方のトップ。その前は北朝鮮の非核化を目指す6ヶ国協議の日本代表。キャリアの終盤はアジア大洋州局。欧米偏重の外交にあって、薮中さんのような人が、事務次官になるということは、アジア、中国や朝鮮が重要な外交ファクターになってきている証拠。
その薮中さんが、気がついたら外務省を退職され、今は大学の講師をしている。その薮中さんが『国家の命運』と題して、外交の立場から今の日本へ、日本人への提言というのがこの新書の趣旨となる。
6ヶ国協議で、北朝鮮に振り回され、記者団にマイクを向けられてもいい返事ができない。あまり、頼りにならないイメージがあった・・・・。
しかし、薮中さんは、なかなかファイターだ。オバマ新政権発足と共にやってきたジョセフナイ博士を中心とするお抱え日本通学者どもが言った『日本はアフガニスタンでは何もしていない』という指摘に、警察を中心にした、人的、経済的援助、多くの学校設立、民間も含めた援助を知っているかと反論し、相手に謝罪させたり、日韓漁業交渉では、ぎりぎりのところですり合わせた譲歩案を、打ち切ろうとした先輩に、相手のいるのもかかわらず、猛然と反論したり、結構、藪中さんはイケテル外交官なのだ。
その他、今の日本の目の前にある大問題『少子高齢化』『国の債務』。そして、この問題に『本気で取り組もうとしない日本人』を批判する。2国間の経済協定を漸次進めていく時代から、PPTのような、一気に自由貿易を進めていく時代に来ているが、政府の歩みは遅い。 何より、薮中さんが感じている焦燥感を日本人が持っていないことが問題なのだ。
『言うことは言う』薮中さんにしても、手に余ったのが北朝鮮、この国は、普通の外交ルールは通じない。金正日の意向イコール外交方針。譲歩も、妥協も通じない。さすがの薮中さんでも、手を焼いたのは、しかたがない。
薮中さんの交渉術も披露されているが、薮中さんでもコントロールできないのが、省庁の複雑な利権、縦割り行政の弊害、与党の意向、そして、マスコミの動静だ。
マスコミが不要な混乱を演出している80年代の日米経済摩擦を例に、交渉を阻害するマスコミへの苦言も忘れない。進展しない6ヶ国協議の薮中さんの苦い顔は、自慢の交渉術でも限界があるという諦めか?
また、外交上手、交渉上手になること以上に、日本が、他国に誇れる国にしたいという思いを薮中さんは持っている。日本に来た大使はみな例外なく、日本をほめる。その四季折々に見せる日本の美しさ、芸術文化を愛し、人と人のつながりを重んじる国民性。その国民性は、今急速に失われようとしている。明治以来、外国に出て進取の精神に満ちた若者も激減している。
2010年日本人を感動させたのは、『惑星探査機はやぶさの冒険』と『ワールドカップサッカーでの日本の活躍』。この二つに共通するのは、『チームワーク』。アメリカの何十分の一でしかない宇宙研究予算、何度も危機を向かえ、そのつど克服し、地球に帰還したはやぶさ。決して肉体的に恵まれていない、また、前評判も悪いながら、見事なチームワークでベスト16に入った日本代表。日本人が、これから、何をもって世界に打って出るかを示したと思う。
アニメやオタクと言ったソフトパワーを、これからの日本の原動力とみなす人はいるが、ゲームやアニメで尊敬を得てもちっとも嬉しくない。
まずは『今そこにある危機』を、乗り越え、もう一度、薮中さんの言うような世界に誇れる日本像を描き出さなくてはいけないのかも。
他にもいろんな藪中提言があるので、ぜひぜひ読んでください。
