『甘粕正彦 乱心の曠野』 佐野眞一 新潮文庫を読んだ。
前作『阿片王 満州の夜と霧』のあとを受けて、昭和史に今なお、妖しくひかりつづける甘粕正彦の物語の決定版。
甘粕正彦といえば、憲兵。憲兵といえば、秘密警察、日本版ゲシュタポ。そんなイメージがそのまま、甘粕正彦を不気味な存在として私の中にあった。
関東大震災のどさくさにまぎれて、社会主義思想家、大杉栄と妻伊藤野枝、おいの幼子を虐殺した大杉事件の首謀者という前半生。今なお、何だったのかわからない、人口国家満州に暗躍する後半生。
日本史の中で、甘粕正彦ほどすっきりしない人物はいないのではないだろうか?
甘粕が生きた時代は、日露戦争から、第二次世界大戦が終わったときまで。司馬さん流に言うなら、欧米列強に追いつき追い越せ、という、まだ無邪気さすら感じさせる、日本が、坂の上にきたとき、そこから見えるさまざまなものに、日本人がばらばらになっていった時代。
財閥は、ひたすらお金儲け。政治家は商売人と組んで、蓄財、汚職。軍人は、ひたすら強大な国家と軍隊を熱望し、政治に干渉し始める。
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