結社【原始林】その三
三十度超ゆる日射しを天蓋の如く遮る樽の大樹は 渡辺民江
夏つばき細ぼそ白き芽を吹きぬ開花を思ふ落下を思ふ 上澤孝二
曙いろの花びら密に息づきてゆたかなりけり朝の牡丹花 (故)尚乃戸妙子
マンションの窓から見ゆる交差点あなたではない人ら通り過ぐ 滝野正子
しとしとと「平和の像」に雨降りて空指す指のゆがみて見ゆる 丹羽アヤ子
片えくぼ娘へ孫へと継がれおりマスクの中の小さな秘密 今井明美
咲ききれぬ蕾ほろほろ掌に零る凍れる椿の寂しさ零るる 千葉悦子
志願して前線へ行く少女兵トランクいっぱいのチョコレート菓子 磯石万里