北へ伸びる鉄路の先に広がるは掛替へのなき昭和の時代 中田慧子
地下鉄の電車に乗りこむ人のむれ磁石に寄りゆく砂鉄のごとし 伊藤郁子
裸木にも霧氷きらめく朝がある黙するのみの日々にあらざる 和田愛加
ジーンズのダメージの先六月のしっとりとした歩道は続く ささきあゆみ
桜降る土手に花摘む娘と孫とわが前過ぎるよき夢のごと 福原美知子
蔓という針路探しに支えられ悩みなきまま朝顔が咲く 古屋 稔
ぬばたまの夜の床にてこんとんの脳そのまま眠り落ちむ 足立敏彦
暮れ空の雲の切れ間に点となるドクターヘリは夕鶴のごと 簑島知恵子
台本のない人生をまだ生きる残生のペダルゆつくり漕いで 福島明美
歯車を回す歯車の底力見てをり拳握り締めつつ 時田則雄