令和5年度短歌年鑑より (※ 解釈文省き、各結社短歌を10首前後紹介)
【一粒】平成29年創刊、編集・発行人は林多美子氏。
ゆっくりと月が離れてゆく宇宙 どうして誰も淋しがらない 下沢風子
し忘れし抱擁をしに雪道をあゆみかへさむ父のもとへと 阿部久美
水の皮と書かるる波の底に棲むまなこつむらむ魚のいとしさ 大家 勤
朝空に白きからだを張りつめてカモメ過ぎたりまぼろしのごと 林 多美子
【コスモス札幌】昭和44年創立、発行人は新保弥代枝氏
深碧の葉に青白き花待ちて月待ちてゐる庭のどくだみ 大桃小やゑ
除雪されし道は街灯に照らされて今日の舞台の開けたるごとし 金子幸子
永らへてあれば逢ひたしベニヤ板の素描の未完の「馬」の後姿(うしろで) 久保啓子
医師とわれアクリル板にしきられて病名のメモ板の下より 久保田静子
したたかに人は生きゆくリネン、シルク、レース飾りのマスク選びて 後藤美子
高き音低き音あり家々の軒から落つるしづくの音は 吉田真弓