作品展望 №21(伊藤典子) | 短歌活動をめざす北海道歌人会

短歌活動をめざす北海道歌人会

北海道在住の歌人や愛好者、もしくは道外転出者も希望によって会員とする北海道歌人会です。短歌における親睦と創作を希望する方はどなたでも加入できます。ぜひ、一緒に短歌を楽しみましょう!

 

 

令和5年度短歌年鑑より (※ 解釈文省き、各結社短歌を10首前後紹介)

 

【新墾】昭和5年創立、編集・発行人は富岡恵子氏

 

不穏なる時代を吸へる大き球青きミナヅキ傾ぐも散らず(小田觀蛍賞)   中沢久子

 

省みてかへりみて来し過ぎし日のたとへば薔薇の花びらの層(新墾新人賞)   川尻智子

 

セルフレジに茫然と立つ老人の心はきつと荒野のやうだ   貝森久仁子

 

ありがたうと言つてみようよ擦り抜ける鋭利な言葉錆びつきてゆく   西澤真理子

 

中世の国取りのごと侵略さるウクライナ東部をテレビが映す   上田律子

 

さらさらとドライ・イーストのやうな雪春の心を膨らませ降る   那須愛子

 

わが家にひと日遊びて帰りゆく幼を送る夕暮れの窓   田口京子

 

己が身を捨てるがごとく俯きてゴミ捨てにゆくおみなの一人   白石玲子

 

透明な水のかたちはもりあがりしづれゆく時夏たちあがり   大倉純子

 

陽炎をふるはせにつつ夏蝉のこゑのみ沸ききてひとりの墓参   大関法子

 

九十路入り余生は未知で計画は幾年先とたてずに生きる   宮下邦夫

 

祝張るる齢九十の八月十五日十三歳の恐怖語りつつ   足立敏彦