偽作 ナイチンゲールと赤いバラ 8 | 藤花のブログ 詩と

藤花のブログ 詩と

この胸に 湧き上がる気持ちを 言葉にして あなたに贈りたい


  

                                     Tau-


  大金持ちになった男は 庭師を雇い入れ、

  まるで怨みを晴らすかのように大きな温室を作り、

  たくさんの 赤い薔薇の木を植えました。


  男は赤い薔薇を見る度に 過去を振り返り、

  若い女の 気まぐれな言葉に過剰に反応し

  熱情に浮かされ 突き動かされ愚かな行為をした

  あの日の 自分の姿を思い出すのでした。


「 あの日 あんなにも手に入れたかった赤い薔薇、

  今は いくらでも咲いている、

  しかし あの赤い薔薇は咲かせられない、

  どんな優秀な庭師を雇ったとしても、

  あの日の 赤い薔薇を生み出すことはできはしない、

  何故ならば、あの赤い色は あの日流した 

  俺の燃えるような血潮で 贖った色だからだ 」


  男は絞りだすように言いました。


「 金で女など いくらでも手に入る、

  今の あの赤い薔薇の花のようにな、

  だ が 、、、 」


  男は浮き名を流し、 

  贅を尽くす享楽的な生活をしました。

  しかし彼の心は 晴れませんでした、

  社交界も ダンスも 高価な酒も 

  心を躍らせるものではありませんでした。

  本当に渇望したものを 男は手に入れられなかったからです。

  男は強い孤独感に囚われました。


  男は 母一人子一人で暮らしてきましたが

  母は、男が大金持ちになる前に亡くなっていました。

  今の男に 無償の愛を注ぐ存在は無く、

  男は、誰も愛することができなかったのです。

  男に近づく女達は 皆、彼の財力目当てでした。



  男の胸の中は 虚無でした。

  娘に復讐を遂げた今、

  金があろうが、無かろうが、

  あの日に流した熱い情熱の血脈は

  もう枯れてしまったかのようでした。



  赤い薔薇を見つめ 得られなかった愛の、

  打ち捨ててしまった あの日の血の色の

  赤い薔薇の花を 思い出していました。



  そんな頃、戦争は続き、拡大し、

  男の国を巻き込む事になったのでした。


        続 く