、
目を覚ますと 彼は猛然と勉強をはじめました。
「 これからは経済が大事だ、人生には必須だ !
経済学の本を読み、金融を学び、人の裏をかき
たとえ 守銭奴と罵られようが、
世界中の金という金を かき集めてやる、
そして あの娘の頬を 札束で引っ叩いてやるのだ、
金さえあれば なんだって出来るはずさ、
『 金を儲けて 悪いんですか ! 』
『 金がさえあれば 買えないものはない ! 』
そうさ、時代の寵児と もてはやされた
若い実業家たちも 言っていたぞ ! 」
学生は 自嘲的な引きつった笑いを浮かべました。
「 金さえあれば 女優を手に入れられる
どんな ちんちくちん男でもな
その例を 僕は知っている、
衣服販売で 大金を手に入れた男だ
そうさ オペラのディーヴァでも
舞台で華麗に舞う プリマドンナでも
金の力で手に入れられるのさ !
いつか 見返してやる、目にもの見せてやる。
金の匂いに敏感な あの女は
その時 激しく後悔するだろう 」
彼は大学も辞め、必死に小金を貯め
小口の金融を 始めました。
貧しい人々に 甘い囁きで貸付けて、
厳しい取り立てをしました。
その金を元手に 株の売買も始めました。
裏社会にも通じるようになり 秘密の情報を集め、
仕手株のような手口も使い 金を転がし、
雪だるまのように 資金を増やしていきました。
やがて他国の戦争で 他者を出し抜く情報を手に入れ、
大博打を撃つように 投機的な勝負に出て
莫大な金銭を 手に入れたのでした。
「 俺は大勝負に勝った ! 大金持ちだ !
この世は 俺のものだ 俺を中心に回るのだ !
ざまぁみろ うわっはははは ! 」
戦場で散る人の命を尻目に
莫大な大金を手にした彼は
溺れるほどの 勝利の美酒に酔い痴れました。
彼は 連日連夜、酒場で大騒ぎを繰り返しました、
金の匂いに引きつけられる女は山ほどいました。
彼は巨額の金銭を手に 強い力を手に入れたと浮かれました。
享楽的な生活を続けていた ある日、
派手な酒宴にも飽き 虚しさを覚え、
男は ふと我に返りました。
「 そうだ、俺には やるべき事がある 」
男は代理人を通して
娘の親に美味しい投資話を持ちかけ
無理に大金を貸付けて莫大な借金を負わせました。
実態のない投資先を 頃合いを見計って
計画倒産させましました。
男は 借金のかたに
容赦なく家屋敷を奪い取りました。
「 教授、賢人と学生たちに褒めそやされても、
美味しい話に 簡単に騙されやがって、
しょせんは 象牙の塔の世間知らずだったな。
人は 欲得には抗えない、
金の前には 賢人も愚者に成り下がるものさ
ふふふっ 」
男は 長年の怨みの復讐を遂げたような
一時の どす黒い甘美な満足感に浸りました。
「 教授の屋敷に乗り込んで、
あの小娘に 侮蔑の言葉を吐きつけて
貶めてやろうと思っていたが、
今になれば もう会う必要もない、会いたくもない。
全くもって俺には 無価値な女だった。
いや、人を信じるなという教えを
与えてくれたのかもしれないがな。
だが、きつちりと落とし前だけは つけたぞ。
はっはははははははっ 」
父親は悪い評判がたち、教授職も辞することになり、
婚約者も 無一文の教授と彼女を見限り、
薄情にも 婚約解消しました。
男は 娘と婚約をした男も許せませんでした。
「 婚約した女を かんたんに捨ててしまうとは、
まるで 汚れた玩具を捨ててしまうかのように、
それで済むほど 世の中は甘くないことを教えてやる 」
男は 元婚約者も それ相応の苦境に陥らせたのでした。
父親と娘は どこかへ姿を消しました、
それ以来、男は娘の姿を見ることはありませんでした。
「 俺に 仇なす奴らは みな不幸になればいいのさ、
それが当然の報いさ、あっはっははははは ! 」
男の高笑いは 一人ぼっちの部屋に響き渡りました。
続 く
by:jk+too