偽作 ナイチンゲールと赤いバラ 7 | 藤花のブログ 詩と

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この胸に 湧き上がる気持ちを 言葉にして あなたに贈りたい





  目を覚ますと 彼は猛然と勉強をはじめました。


「 これからは経済が大事だ、人生には必須だ !

  経済学の本を読み、金融を学び、人の裏をかき 

  たとえ 守銭奴と罵られようが、

  世界中の金という金を かき集めてやる、 

  そして あの娘の頬を 札束で引っ叩いてやるのだ、

  金さえあれば なんだって出来るはずさ、

『 金を儲けて 悪いんですか ! 』

『 金がさえあれば 買えないものはない ! 』

  そうさ、時代の寵児と もてはやされた

  若い実業家たちも 言っていたぞ ! 」


  学生は 自嘲的な引きつった笑いを浮かべました。

「 金さえあれば 女優を手に入れられる

  どんな ちんちくちん男でもな 

  その例を 僕は知っている、

  衣服販売で 大金を手に入れた男だ

  そうさ オペラのディーヴァでも

  舞台で華麗に舞う プリマドンナでも 

  金の力で手に入れられるのさ !

  いつか 見返してやる、目にもの見せてやる。
 
  金の匂いに敏感な あの女は

  その時 激しく後悔するだろう 」


  彼は大学も辞め、必死に小金を貯め

  小口の金融を 始めました。

  貧しい人々に 甘い囁きで貸付けて、

  厳しい取り立てをしました。 

  その金を元手に 株の売買も始めました。

  裏社会にも通じるようになり 秘密の情報を集め、

  仕手株のような手口も使い 金を転がし、

  雪だるまのように 資金を増やしていきました。

 



  やがて他国の戦争で 他者を出し抜く情報を手に入れ、

  大博打を撃つように 投機的な勝負に出て 

  莫大な金銭を 手に入れたのでした。


「 俺は大勝負に勝った ! 大金持ちだ !

  この世は 俺のものだ 俺を中心に回るのだ ! 

  ざまぁみろ うわっはははは ! 」


  戦場で散る人の命を尻目に

  莫大な大金を手にした彼は  

  溺れるほどの 勝利の美酒に酔い痴れました。





  彼は 連日連夜、酒場で大騒ぎを繰り返しました、

  金の匂いに引きつけられる女は山ほどいました。

  彼は巨額の金銭を手に 強い力を手に入れたと浮かれました。


  享楽的な生活を続けていた ある日、

  派手な酒宴にも飽き 虚しさを覚え、

  男は ふと我に返りました。


「 そうだ、俺には やるべき事がある 」

  
  男は代理人を通して 

  娘の親に美味しい投資話を持ちかけ 

  無理に大金を貸付けて莫大な借金を負わせました。

  実態のない投資先を 頃合いを見計って 

  計画倒産させましました。

  男は 借金のかたに 

  容赦なく家屋敷を奪い取りました。

 
「 教授、賢人と学生たちに褒めそやされても、

  美味しい話に 簡単に騙されやがって、

  しょせんは 象牙の塔の世間知らずだったな。

  人は 欲得には抗えない、

  金の前には 賢人も愚者に成り下がるものさ 

  ふふふっ 」


  男は 長年の怨みの復讐を遂げたような 

  一時の どす黒い甘美な満足感に浸りました。


「 教授の屋敷に乗り込んで、

  あの小娘に 侮蔑の言葉を吐きつけて

  貶めてやろうと思っていたが、

  今になれば もう会う必要もない、会いたくもない。

  全くもって俺には 無価値な女だった。

  いや、人を信じるなという教えを

  与えてくれたのかもしれないがな。

  だが、きつちりと落とし前だけは つけたぞ。

  はっはははははははっ 」


  父親は悪い評判がたち、教授職も辞することになり、

  婚約者も 無一文の教授と彼女を見限り、

  薄情にも 婚約解消しました。

  男は 娘と婚約をした男も許せませんでした。


「 婚約した女を かんたんに捨ててしまうとは、

  まるで 汚れた玩具を捨ててしまうかのように、

  それで済むほど 世の中は甘くないことを教えてやる  」


  男は 元婚約者も それ相応の苦境に陥らせたのでした。


  父親と娘は どこかへ姿を消しました、

  それ以来、男は娘の姿を見ることはありませんでした。


「 俺に 仇なす奴らは みな不幸になればいいのさ、

  それが当然の報いさ、あっはっははははは ! 」


  男の高笑いは 一人ぼっちの部屋に響き渡りました。



        続 く
 


                     by:jk+too