人魚姫は 王子には聞こえない
超音域の声で 泣き叫びました
高周波は 海原の はるか彼方まで
深い悲しみを 響かせました
工作高速艇は 二人を乗せて 進みました
ひとつ ふたつ みっつ 、、、、
いつしか 海中を 高速艇に
寄り添うように泳ぐ 5つの影がありました
やがて 波の上に その姿を見せました
人魚姫の 姉たちの姿でした
「 可愛い 私たちの妹 サファイアよ やっと会えましたね 」
<< あぁ お姉さま達 ! >>
人魚姫は 超高音域の声で答えます
「 やっと サファイアの声が 私たちに届きました 」
「 急いで ここまで来ました 」
<< お姉さま達 髪の毛が ベリーショート !
どうしたの ? 流行りのヘアスタイルなの ? >>
「 サファイアの書き置きを 読みました 」
「 人間になるための手術を 施されたことを知りました 」
「 そして手術は 不完全であることも 」
「 そこで ナノ・マシン( 注 )システムによる
新しい改造手術の方法を サファイアを改造した
遺伝子工学の科学者に 開発してもらっていたわ 」
「 みんなの髪の毛と 引き換えにしてね 」
「 なぜか あの科学者は 髪の毛に執着するのよ 」
「 髪フェチなのかしら ? 」
「 でも サファイアの為ですもの 髪の毛くらい 平気よ 」
「 サファイアよ さあ これを 受け取って 」
「 この自動輸血マシーンで 相当量の王子の血液と
ナノ・マシーンの入ったカプセルの人体改造液を
自分に輸血するのですよ 」
「 そうすれば サファイアは 人魚に戻れるのよ 」
<< 今 王子様は 大出血しています >>
「 でも やらなくては なりません 」
<< もし 今 大量の血液を抜いてしまったら
王子様の命は どうなってしまうのですか ? >>
「 残念ですが 二者択一です サファイアは遺伝子レベルで
王子とシンクロしています 彼の血液を使わなければ
元には戻れないのですよ 」
「 王子様の今の状態では 海底に連れていくことは無理です 」
「 このままでは王子様は どのみち亡くなります 」
<< で も 、、、、 >>
「 先の改造手術は不完全 失敗でした 自己免疫システムの暴走で
想定以上に早く サファイアの肉体は 崩壊してしまいますよ 」
「 もう 不調なのではありませんか ? 」
人魚姫は うなずきました
「 一刻も早く ナノ・マシン輸血をしなくてはいけません
サファイアも 死んでしまうのですよ 」
「 この船のスピードには もう 私たちはついていけません 」
「 あぁ サファイア 、、 早く 、、、 急いで ! 」
<< ありがとう お姉さま達 >>
人魚姫は自動輸血マシーンとナノ、マシンカプセルを受け取ると、
王子の傍らに 行きました。
自動輸血マシーンを王子の腕に つけようとしました
し か し
とても実行することができずに 逡巡していました
王子の意識が戻りました
「 どう したんだい ?
そんなに 思いつめたような 顔をして 」
王子は微笑みました
人魚姫は 愛する王子を殺すことができません
人魚姫は機械を床に置くと 泣きました
「 どう 、、 したのだい ?
僕のために 、、 泣いているのかい ? 」
人魚姫は うなずきました
「 泣かなくてもいいんだよ サファイア
お前は 自分の生命の 危険も顧みずに
僕を 助けに来てくれた お礼を言うよ 」
人魚姫は 王子を見つめます
「 不思議な ” 術 ” を使えるんだね 心強いよ
僕にも 教えてもらいたいものだ
でも 残念だが もうすぐ お別れだ
いつか お前を ” 妃 ” にと 思っていたのだが
その願いは 叶えられそうもないね 」
王子が 拉致される前に 言い出しかけた
サファイアに 伝えたかった 大切な言葉でした
王子は 苦しさをこらえ 笑顔を見せました
” 王子様は 私のことを 愛していてくれたのだわ ”
人魚姫は 驚きました
でもそれは 日頃の 王子の優しさから
どこか 気づいていた事でもありました
「 もっと 平和な時代に 二人 生きていたのならば 、、、 」
人魚姫も そう 願わずにはいられませんでした
「 いつか 皆が 生きている幸せを 感じられる
人々に 笑顔があふれる日々を
そんな時代を サファイアと共に 作りたかった 、、、 」
続 く
( 注 )
ナノマシン( Nanomachine )は、0.1~100nmサイズの機械装置。
ナノとは10-9を意味する接頭辞であるため、
原義では細菌や細胞よりもひとまわり小さい
ウイルス( 10nm~100nm )サイズの機械といえる。
広義ではもう少し大きなサイズの、
目に見えない程度の微生物サイズの機械装置も含む。
ナノ・マシンは機械的動作を重視しているが、
微小な回路形成など機械的動作を含まないより
一般的な技術をナノテクノロジーと呼ぶ。
フィクションの中には、ナノマシンの事を
「 無から有を作り出す便利な小道具 」として登場させるものもあるが
現実のナノマシンは、エネルギー保存の法則を破るものではない。
また元素の変成も困難であるため、必要な材料元素は用意する必要がある。
ウィキペディアより