「 おやぁ、まだ しぶとく生きているのかいぃ ?
この薄汚いスパイめ、もういい年なんだから
私が、あの世とやらに送ってやるよ 、
これが、地獄行きの片道通行手形さ !
オッホホッホホ ~! 」
マリスボマーは、老婆めがけ、
爆弾を 大きく振りかぶりました。
「 危 な い ~ ! お ば ぁ さ ~ ん ~ ! 」
ショールが 叫びました 。
その時、老婆が 口笛を吹きました。
< ピィ~ィィィイイ ~! >
「 覚悟しな~ ! お~ほっっほほほほっ ! 」
マリスボマーは、悪魔のような形相で
爆弾を 投げつけようとした その瞬間。
< バサ ッ ! バサ ッ ! バサ ッ ! >
突然、黒い影が マリスボマーめがけ 飛びかかりました。
「 カァ ! 」「 カァ ! 」「 カァ ! 」
黒い影は 老婆の飼い慣らしていた カラスたちでした。
< ツン ! > < ツクッ ツクッ ! > < ツン ! >
三羽のカラスが 義母の顔や腕を狙い、
鋭いくちばしで激しく突付きました。
「 何をしゃぁがる~、ごぅぉぉおおらぁああ ~ !
このクソカラスども ~~ !
美しい私を 突っくんじゃぁ無いよ !
うわぁぁああ ~ ! 鼻がぁぁあ ~!
目玉がぁぁあああああ ~~ !
ぎゃあぁぁあああっ ~ ! 」
火のついた爆弾が 義母マリスボマーの手から
ぽろりっと、こぼれ落ちました。
カラスたちは、それを見ると素早く、その場から飛び去りました。
「 あぶな~い ! みんな~、地面に伏せるんだよ ~! 」
老婆が叫びました。
<<< ズ ド ~~ ン ! >>>
転げ落ちた爆弾が、マリスボマーの 足元で爆発し、
その衝撃が、マント内の沢山の爆弾を 誘爆しました。
<<<< ゴ ォ ォ ォ オ オ オ ~~~~ ン ! >>>>
地鳴りのような大音響と、衝撃波、爆風、
巨大な火柱が 天空めがけ、高々と立上がりました。
やがて、辺り一面を覆っていた爆煙と土埃が薄れると、
その場には、地面に大きな穴ができ、
そして、マリスボマーの姿は 消え去っていました。
「 やれやれ 人を呪わば 穴が、何とやら 、、、 」
土埃の、もうもうと立ち上がる様を見ながら、
老婆が うんざりしたように呟きました。
「 ずいぶん派手に たくさん穴を開けたもんじゃわい ごほごほ ! 」
「 ショールよ、すまなかった、
長く連絡が取れなかった、
父上にも心配させてしまっていた 」
「 戦争が長引き 戦地から戻れぬため、
頻繁に 手紙を出していたのだが、
どうやら 敵との内通者によって、
廃棄されてしまっていたようだ 」
「 ショール、お前にも心配をかけてしまった、
この森の老婆からも 話は聞いている 」
オニキス。ジェット。オブシディアン。が言いました。
「 わたしも、あの女の策略のために、
仕方なく、あの森の家を出たのさ ごほほっ 」
老婆が言いました。
「 それで、家が無くなっていたのですね 」
ショールは あの日の事を 思い出しました。
「 そう、急に出城を建てるという話で、
あの地から、無理やりに追い払われたのだよ。
他国の鉱山技師が密かに送り込まれていた、
マリス、ボマーが 企んでいた
鉱山開発のためだったのだろう
既に、すべての者を捕らえている。 」
「 あの爆弾を 作るためだったのですね ? 」
「 そう、破壊力は凄いものだ、
自分をも、吹き飛ばしてしまったがね
まさか 身につけていたとは思わなかったよ 」
「 、、、、、、、、、 」
「 そして新しい住処に移ったら、
赤ん坊を捨てに来た お城の召使を 偶然見つけて、
わたしが その赤ん坊を引き取ったのさ 」
「 子供達三人とも 召使に連れて行かれましたから 」
「 命令されて、やむなくだったのだ、
責めてはいかんよ、召使も良心の呵責があったのだろう、
捨てることに悩んで困っていた。
わたしが 引き取ると言ったら、おとなしく渡してくれた。 、
それから 次の年、また次の年と、わたしの所に預けに来た、
自分の給金から 多額のミルク代も置いて行ったのさ 」
老婆が 事の顛末を 話しました。
「 今は、家の庭に色々作っているよ、
幼子を育てるには遊び場も必要だからね。
砂場やブランコや滑り台もあるし、
アスレチックジムも作った。
情操教育に、ぬいぐるみも どっさりあるよ、うふふ ♪ 」
「 子供達の育児と世話を、今まで、ありがとうございました 」
ショールは、深々と頭を下げお礼を言いました。
「 なんの、私には何人も子育て経験のある配下がいるからね。
まぁ カラスたちも 通信の手伝いをしてくれたから、
お前さんの子供達への心配も、幾分か少なくてすんだろう、
召使は、本当の事は言えなかっただろうからねぇ 」
城主バイロンは妻ショールが、
カラスと遊んでいるという話に 納得がいきました。
「 なるほど カラスを 通信手段に使っていたのだね 」
「 はい、お婆さんに子供達の様子を
文書で知らせてもらっていました 」
ショールは、声を出して 夫に答えました。
「 しかし、お前の声は、なんと愛らしいのだ。
これからは沢山、話しをしておくれ 」
バイロンは微笑みました。
三人の子供達は、派手なアトラクションを喜ぶように、
ケラケラと楽しそうに笑っていました。
老婆は どんな子育てを していたのでしょうか、
ものに動じない、ず太い神経に育っているようです。
「 あの森からは、良質な爆薬の材料の鉱石が取れる、
それは我々も知っていたのだ、
戦局の打開のため 戦地から、その事を
知らせようとしていたのだが、手紙は届かなかった、
あの女が、情報を握りつぶしていたのだろう 」
「 手紙から 鉱石のことを知ったのかも知れない
あちこちと 秘密裏に 試掘をしていたのだ 」
「 幸い、戦争は痛み分けで、かろうじて休戦になったが、
本格採掘も始まり、大量生産する手前だったようだ 」
「 生産が進んで 敵の手に渡っていたら、
間違いなく、戦局を左右したに違いない 」
「 もしも、この地が敵に併合されてしまえば、
国そのものが、存亡の危機だっただろう 」
「 あの女が 敵国の傀儡として、
我が国全土を 支配していたかも知れない 」
三人の兄達は 妹に語りかけました。
「 何と、恐ろしいこと、でも、もう安心ですね。
恐ろしい野望は、本人と共に吹き飛んだのですものね 」
妹ショールは言いました
「 いやいや、まだ油断は出来ないのだろうて、
内通者は他にも たくさんいるのさ
戦争を 金儲けのチャンスと考える、
金次第で どちらにも 転ぶ奴らは多いのさ 」
老婆は苦々しく言いました。
「 これからも、気を引き締めなければいけない 」
「 その通りだ 」
「 そうとも 」
三人の騎士たちも頷きました。
「 爆音のせいで耳鳴りがするよ、
『 こんなもんじゃ、まだまだ終わらさないおぉぉおお ~! 』 と
何処かから、あの女が 怒鳴っているようじゃ 」
老婆が、耳を押さえながら言いました。
「 マリス ( Malice ) 悪意の
ボマー ( Bomber ) 爆弾魔、
そのまんまの名前だったんだねぇ 」
「 平和な世の中を望むのは 難しいのでしょうか ? 」
ショールは呟きました。
「 我々が 努力して創り上げよう、
憎しみ、悪意ではなく、
優しさ、寛容さ、愛を持って 」
バイロンが、育ちの良い、理想主義的な、
夢見るような顔で言いました。
「 爆薬は殺戮のためでなく 人々の暮らしに、
役立つように 使ってもらいたいものじゃ 」
「 カァ 」「 カァ 」「 カァ 」
老婆の言葉に、三羽のカラスも 同意しているかのようです。
城主バイロンは、三人の騎士を召抱えました。
老婆の配下の者も、乳母として城に置きました。
これからは自国のために、
爆薬の原材料の確保、管理もしなければなりません。
ショールの父は、オニキス。ジェット。オブシディアン。
三人の息子たちが無事、戦争から帰還し、
おまけに、突然現れた三人の孫を見て、
狂喜乱舞しました。
「 うははははっ ♪
ワシは いきなり三人の孫の おじいちゃんだ、
子孫繁栄、ばんざ~い ! 」
森の老婆は、身内からマリスボマーに、
子供達の動向がバレないように、
あえて、ショールの父親カラーレスに、
孫の存在を教えていなかったのです。
「 森の老婆よ そなたは この城には来てくれないのかい ? 」
城主バイロンが尋ねました。
「 カァ 」「 カァ 」「 カァ 」
「 それは、とても有り難い御言葉ですが、
今まで通り、私は森に住みます。
ほら、あのように連中も、
騒がしく鳴いていますので、
カラスと、いっしょに
帰 り ま す 、、、、、 」
「 カァ ♪ カァ ♪ カァ ♪ 」
「 ちきしょぉぉおおおお~~!
おぼえてぇぇろぉぉぉおおおお~~~!
こんなもんじゃ、まだまだ
終わらさないぞぉぉおおお ~~~~~!
グワァ グワァ グワァァァアアア ~~~~! 」
大爆風に飛ばされた 誰かさんが
はるか上空を 高速度で 遠ざかり
みるみる 小さくなっていくのに気付く者は
誰一人として いませんでした。
お し ま い