「この部分を、私らしい色に染めてほしいの。
それから、この金具もっと軽くならないかしら?」
華やかな雰囲気の女性ハンターがやってきた。
何回か来たことがある、話好きな、愛嬌のある娘だ。
近頃雨が続いていたので、今日の晴れ間は天の恵み。
「ほら、今日は染色日和だ。壺を外に運んでおくれ。」
母の言いつけで、染料の壺を2つ裏庭に運ぶ。
「母さん、あのお客のを染めるのかい?俺にもやらせてくれよ。」
俺には、まだ染め物の経験はない。
そもそも、自分で染めることも可能なので、あまり店に依頼する客自体多くない。
「お前に、女心がわかるのかねぇ?」
母はおかしそうに笑う。
「好きな人もいないお前が、あの娘さんの要望に応えられるとは思えないねぇ。」
女心。確かに、俺には理解できない。
「お前も色々経験していけば、来るお客が何を求めて来るのか、顔を見ただけでわかるようになるさ。」
その娘は、翌日もやって来た。
菓子を焼いたのだと、カゴに山盛りのマドレーヌを差し出してくる。
正直甘いものは得意ではないと彼女に話すと、何も言わずに帰ってしまった。
母が染めあがった布を手に戻ってくる。
「なんだい、帰っちまったのかい。」
説明すると、盛大にため息をつかれた。
「やはりお前に染めさせなくて正解だったよ。」
…なぜ俺ではダメなのだ。さっぱりわからない。
その翌日も娘はやってきた。今度はこんがり肉をたくさん抱えて。
母の提案で、彼女を交えて昼飯にする。
本当によく笑う娘だ。
依頼品を引き渡してからも彼女はちょくちょくやって来て、金属装飾部分を細かに注文していく。
……装備にこだわる奴なんだな。
しかし、ある時。煩いくらいに来ていた彼女が、ぱったりと来なくなった。
「母さん、あの子、これ取りに来ないね。」
彼女から依頼されていた、防具の装飾パーツ。
「そうねぇ…。次の目的地にでも向かったか…。」
母は、俺の顔を見て、またため息をつく。
「…はたまた愛想尽かされたかねぇ…。」
暫く顔を見ないと、かえって気になるものだ。店の入り口に人の気配がすると、つい彼女かと見てしまう。
彼女が他街へ引越したと知ったのは、少し後になってから。
この妙な…寂しい気持ち。
――人はこれを何と呼ぶのだろう。
考えながら染めた布。
その色合いを、母は初めて褒めてくれた。
3fin
とわ著