捨てられる銀行 (講談社現代新書)/講談社
を読みました。
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・銀行が貸し出しノルマの達成に明け暮れて、

 顧客の経営の悩みや課題に耳を貸さず、

 真の意味で向き合っていないことが・・・

 どれほどの国家的な損失か



・「地方の雇用よりも地銀の不良債権処理」が

 長らく地域金融行政で優先されてきた


・森金融庁長官

 「いまだに地方銀行は担保・保証に依存している

 といった声が政治家や企業から聞かれる」



・2015年10月から12月までに取りまとめた

 第1弾ヒアリングの318社の集計結果

 やはり、地銀などが担保や保証をあてにした取引に依存し、

 顧客から遠い存在になっていることが浮かび上がった。

 多くの地銀は

 「低金利での貸し出しこそ、企業や事業者が

 最も求めているものだ」と思い込んでいるが、

 企業側は「金利以上に事業内容を見てもらい、

 経営課題の解決と成長に向けて一緒に歩んでほしい」

 と期待していたのだ


・金融庁のために何ができるのかではない。

 顧客のために何ができるのか。

 そこにしか地域金融の答はない


・元足利銀行頭取、現在はゆうちょ銀行社長の池田憲人の持論

 「靴底減らし運動」

 リスクをコントロールしながら売り上げを伸ばすには、

 単価ではなく、むしろ数量


・「支店の業績評価」

 営業ノルマを撤廃し、顧客の課題解決に取り組んだ行動を評価する

 北國銀行



・金融庁 3つの重要業績評価指標(KPI)を設定

 ①金融機関が主力とする企業の経営改善や成長力の強化

 ②持続可能性に懸念がある企業抜本的事業再生や

  早期転廃業等円滑な新陳代謝の促進

 ➂担保・保証依存の融資姿勢からの転換


・多胡秀人

 「金融マニュアルと不良債権をあぶり出す資産査定検査、

 信用保証協会による100%の保証付き融資への丸投げが、

 地銀経営のすべてを変えてしまった。つまり、

 顧客に向き合うのではなく、金融庁を向き、

 『形式主義』、『書面主義』、『担保・保証主義』に

 変えてしまったのではないか」



・「銀行マンはどんどんバカになっています」


・村岡隆史

 バランスシート、つまり資産、担保で融資を判断しているが、

 それは過去の財務諸表の話に過ぎない。多くの地域金融機関で

 重視されていない、今後の取引先企業の成長可能性を

 分析すること、それこそが事業性評価だと定義した



・「地銀が低金利競争と規模拡大に走り、自縄自縛に

 陥っている元凶は、取引先企業の事業性を

 見なくなってしまったからだ」

 森は確信を強めていった


・マツダの復活

 サプライヤーを含めた総力が底上げ

 広島銀行の事業性評価は、ここに起源がある


 ①製品サービス、②顧客基盤力、➂営業販売力、

 ➃生産力、⑤技術開発力、⑥組織管理力の

 計25項目を科学的かつ客観的に判定して、

 財務情報では読み取れない企業の力を見極める


 25項目を各1~4点の100点満点で評価し、

 レーダーチャートで強み、弱みを「見える化」



・金融機関の思考と行動を顧客本位に変えることが真の目的だ。

 事業性評価は、その登山道の・・・最初の入り口に過ぎない



・森信親長官


 「省益ではなく国益で働け」


 「おまえは、できない理由を完璧に説明するが、それは、

 できない理由すらわからない人と何も変わらない。

 できない理由が聞きたいんじゃない。ゼロではなく、

 イチでもいいから成果を持ってこい」



 「これまでも財務局長会議の発表をずっと聞いてきたが、

 君たち財務局長は、地方創生における各地域のリーダーとして、

 地域金融機関をどう導いていくのか真剣に考えるべきだろう!

 地方創生の処方箋を作るのが仕事なんだ!

 その処方箋を持ってこい!」



・資産査定を中止する代わりに

 「水平的レビュー」


 ベスト・プラクティスとして共有



 あら探しの検査から、優れた取り組みを探す検査へ



・2015年7月

 金融庁が14年からの事務年度の成果をまとめた

 「金融モニタリングレポート」

 ベスト・プラクティスの一つとして

 日下智晴が情熱を傾けてつくりあげた広島銀行の

 事業性評価モデル



・経済合理性だけの流れに任せると、

 街は濁流に呑まれて独自性を失い、やがて色あせていく



・預金者の相当数は労働者であり、経営者もいるだろう


 「預金者だけを守る」などということは人口減少が

 深刻になる地域においては、何の責任も果たしていないに等しい



・マニュアル行政の恐ろしさ



・どの地銀にも検査マニュアルに対応するため、

 その1.5倍のボリュームの独自マニュアルが常備



・小渕恵三内閣が1998年10月に導入した

 中小企業金融安定化特別保証制度(特別保証)


 倒産などで返済できない事態に備えて

 信用保証協会が返済を100%肩代わりする(代位弁済)


・リーマン・ショックへの対応策

 麻生太郎政権が2008年10月に導入した

 緊急保証制度

 これも100%保証の制度設計


・27兆円というどの国よりも巨額な保証債務残高と、

 他のどこにもない100%保証の存在


・銀行は完全にリスクから解き放たれる代わりに、

 企業の事業価値を見る目利き力を次第に失っていった


・地銀マンの足腰が弱っている



・保証制度には、事業再生という機能が存在しない



・もともと銀行が貸し出していたプロパー融資(旧債務)を

 巧妙に返済させ、実質的に保証付き融資に切り替える

 「旧債振替」のような事態が横行


・若い銀行員の多くはもはやプロパー融資を

 起案できないだけでなく、苦手意識を

 持ってしまっているのではないだろうか



・中小企業・小規模事業者に対する保証限度額は、

 1社あたり2億8000万円。

 中小企業信用保険における普通保証の限度額

 2億円と無担保保証の限度額8000万円の合計額


 中小企業・小規模事業者約385万社のうち、

 制度全体では15年3月末の制度利用事業者数は

 約141万社


・1998年の特別保証によって中小企業庁は

 「1万社の倒産、10万人の失業、

 2兆円の民間企業の損失を回避」させることができたとしている。


 しかし、その代償として、地場企業が窮地に立たされても

 逃げずに事業再生に取り組む地銀の矜持を失わせた



・担保に頼らない短期継続融資

 短コロ


・短コロを知らない金融マンたち



・1998年の金融危機以前の地方企業の間では、

 設備投資は長期で貸し出し、運転資金は短期で

 貸し出すという取引が一般的な習慣だった



・期末になると

 「借り入れてください。私のノルマが達成できません」

 と低金利貸し出しのお願い営業を繰り返すだけの存在

 に成り下がっている


・元本返済が不要で、顧客との接点が増える

 短コロの活用が喫緊の課題


・リレーションシップ・バンキング

 リレバン



・2015年7月19日

 長官に就任した森は、全国地方銀行協会の例会に出席

 居並ぶ全国の地銀頭取を前に、

 自ら書き上げた所信を読み上げた


 「地銀が地域企業に付加価値をつけ、

 企業を再生・成長させ、その果実として銀行の

 収益も改善・拡大するとの考え方は、

 10年以上前にリレーションシップ・バンキング

 を打ち出した時から言われていたことである。

 10年経っても、未だに地域金融機関に対する

 評価が厳しいのはなぜか、ファクトを調べたい」


・ノルマの達成度合いを絶対的な評価軸にした

 人事制度においては、顧客満足などは「雑音」

 に過ぎない



・稚内信用金庫

 中興の祖 

 81歳で死去した理事長、会長、最高顧問を務めた井須孝誠


 やせ我慢経営


 増田雅俊理事長

 自己資本比率は全国平均の13%程度を

 遥かに上回る60%以上


 自己資本比率よりも500億円という絶対額が重要


 転勤する際は、家族帯同が大原則

 週末は中心部の自宅に戻るような単身赴任は許されない

 地域に溶け込んでこそ、初めてやせ我慢経営が

 地域にも受け入れられるのだ


 30~50代の若手経営者が集まって設立した

 「てっぺん塾」


・北國銀行

 営業ノルマを撤廃し、「顧客のためにどう行動したか」

 で行員を業績評価している異色の地方銀行


 「目先の数字を追う者に碌な人間はいない」


 営業マンに必要な資質

 ①共感力、②洞察力、➂金融機関として

 顧客と議論ができる分析力、➃判断力、⑤仲間と協力できる協調性


 2015年4月から導入した営業目標の撤廃


 「コスト=地域貢献という割り切り」


 雨の時に傘を取り上げない



・きらやか銀行

 山形しあわせ銀行の前身、山形相互銀行から

 40年近く社長、頭取を務めた故澤井修一

 「金を貸す前に知恵を貸せ。

 預金・貸出金だけが銀行の仕事ではない。 

 お客様の相談に乗ることが自分たちの仕事だ」


 自ら『論語』を行員に教えるほど人間教育に熱心


 融資残高や融資件数を結びつけずに、

 本業支援の件数、顧客に喜んでもらった件数を

 業績評価に盛り込み、経営の中核事業とすることに

 理解を求めた



・北都銀行

 パート行員の呼称を「キャスト」と変えた


 女性の活躍が触媒となり、

 銀行の古い個人向け営業そのものが変革期を迎えつつある



・森長官

 「今後の地銀には、金利ではない競争が絶対に必要だ。

 地方企業に地銀によるメインバンク制を復活させ、

 トコトン付き合う覚悟を示さなければならない。

 中途半端だから金利で選別される」



・素案で示されたのは、3つのKPIに直結する

 共通ベンチマーク5項目


 ①金融機関がメインバンクとして取引(支援も含む)

  を行っている企業のうち経営改善

  (営業利益率・売上、労働生産性等の経営改善)

  がみられた先数、及び融資額の過去3年間の推移


 ②金融機関が条件緩和を行った中小企業の

  経営改善計画の進捗状況又は転廃業件数


 ➂金融機関が関与した創業、第二創業の件数


 ➃金融機関の取引先のうち、廃業・転業の件数


 ⑤金融機関の中小企業融資のうち

  未保全与信先及び未保全与信率



・帝国データバンクによれば、倒産件数は

 リーマン・ショックの影響を受けた09年の

 1万3306件から、15年は8517件まで減少した。

 一方で、後継者の不在や人手不足などで

 休廃業・解散件数は少なくとも05年以降、

 毎年2万件以上のペースで推移

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金融ビッグバンと言われた

1990年代から2000年代初頭に

都市銀行の再編が活発になされ、平成初期には

13あった都市銀行は、グローバル金融競争によって、

いまや3大銀行とも4大銀行

ともいわれる数に集約されています。


そこから遅れること約20年。

昨今は、地方銀行の再編が活発です。


ただ、この本を読みながら、

ローカル金融という領域では、規模の拡大を追うことが

本当に正しいことなのか、という疑問が膨らんできました。


バブルの後処理行政のなかで

銀行のリスクを回避させる信用保証という仕組み、

信用保証協会という存在が生まれ、

地方金融機関の経営力が弱まってしまった

という指摘には、深く頷くばかりでした。


僕の実家は、個人事業で商売をしていますが、

幼心に、信金の営業マンがしょっちゅう足を運び、

集金に訪れたり、お茶を飲みながら、世間話をしたり、

時には商売の手伝いをしたりしていたシーンを記憶しています。


時は流れて40年ほど。

僕も小さな会社を営み、地域金融機関とお付き合いを

していますが、「最初の融資はプロパーではなく、

信用保証協会付きで」という場合がほとんど。


しかも、経営者の僕としては、

銀行とお付き合いするのは、金利が低いからではなく、

定期的に経営分析をしてアドバイスをもらったり、

ご縁つなぎを応援してほしいにも関わらず、

そんな提案と行動が伴うケースにも出会いません。


それ以前に、足しげく通って来られる

ということもありません。

寂しい限りです。


その背景の一端が、この本で学べた気がします。


もちろん地域金融機関の努力不足も大きいですが、

一方で、国に管理・保護される恐ろしさも感じました。


管理されることは保護されることに通じ、

保護されると、短期的には経営は安定しますが、

長期的には自律能力を奪われ、衰退していきます。


これは、会社経営も個人のキャリアも同じですね。

ただ、金融庁もこのままではいけないと

本気の改革を進めようとしています。


僕も人材育成や組織開発の観点で

地方銀行が変わることは、この国の企業社会が

デフレ経済から脱却しきれず苦しむ現状を打破し

未来を切り開くためには欠かせないと思います。


稚内信金や北國銀行のような

顧客のために自分の足で立つ

銀行が増えることを祈念します。




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