米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)と保険業界団体のIIHSが世界の主要自動車メーカー20社との間で2022年9月までに大型トラックを除く全ての新車に自動ブレーキを装備することを3月17日に合意したという。
日本国内では大型バスの自損事故や、大型トラックの過失運転、老人の高速道路逆走等々による重大な人身事故のニュースが絶えないが、自動ブレーキ装備の標準化や義務化について具体的な動きは聞こえてこない。事故発生の度に、その背景となった部分にばかり注目をしているように見える。
メディアも、夜行バスドライバーや長距離トラックドライバーの労働環境、高速道路インターの出口標識の不備などを毎回のようにハイライトして報道しているが、このような言わば人的なミスを100%に近く防ぐことは不可能と言うべきであろう。
数年前の高速道路で長距離バスが偶然にもガードレール端部に突っ込んで多数の人命が失われた事故の際も、その後の対応として、全国の高速道路で同様の危険箇所がないかを点検し危険を回避する対処をしたと報道されたが、殆ど無意味な事をしていると嘆息したものである。そもそも、事故の起きる確率と、その事故が偶然にもガードレールの切れ目に当たる確率とを掛け合わせれば、まずあり得ないケースであったと言って良いと思う。それを全国の同様なガードレール形状の部分に何らかの対策をするというのは、全く持って費用の無駄遣いと言えるであろう。
また、トラックドライバーの居眠り運転等による事故についても、労働条件改善で大幅にリスクを低められるとは到底思えない。いくら労働時間に余裕を持たせたとしても、プライベートで寝不足となったり、健康管理を怠ったりすることを防ぐことはできないであろう。これも、事故防止への効果としては大きな期待はできないと思う。
米国での自動ブレーキ装備標準化は、その意味で実にプラクティカルな対応と考える。事故の確率を減らすための外的な投資より、事故の被害を100%軽減できる(衝突を防げなくとも、減速させる事で衝突の衝撃は確実に低くなる)装備を全車両に搭載することの方が、その費用対効果は遥かに大きいであろう。米国での装備標準化は運輸省部局が関与はしているが、手続きに手間と時間がかかる法規制ではなく、保険業界団体を巻き込み自動車メーカーとの自主規制としたことも、米国自動車社会の先進性が現れていると感じる。
自動ブレーキと言えば、技術的には日本が一番進んでいるのは世界中が認めている。そのお膝元で、この技術を重大事故軽減に活用しようとする機運が起きてこないのは大いに疑問である。過去に大ニュースとなった多くの重大人身事故も、自動ブレーキを装備していれば被害は最小限に留められたであろう。特に大型車両はバスであれば乗客数の多さ、トラックであればその重量による衝突相手に対する衝撃の大きさから、自動ブレーキによる衝突前の減速は大きな効果を生むのは間違いない。どこで起こるか判らない道路側の対策や、他人には干渉できない個人生活まで管理しようとする愚策より、確実に被害を軽減できる筈である。大型車両は1000万を下らない価格なのであるから、自動ブレーキ装備のコスト負荷は小さい筈である。自動車メーカーの自主規制でも良いから全ての新車に装備すべきと考える。メディアも、事故の背景など毎回同じ報道を繰り返すのではなく、より実態に即した対応を提言するくらいの気概を持って欲しいものである。
今回の米国のニュースを見て、最近はなにかと地位低下を叫ばれる米国ではあるが、車社会という点ではやはり日本より数歩先を行っていると感じた次第である。
2016/3/25 23:30