Googleの囲碁ソフトAlphaGoが囲碁名人との対局で出だしから3連勝し、4勝1敗と圧勝した。
このニュースに触れて、多くの人は人工知能が人間の脳を超えるという意味での ”シンギュラリティ” が迫ってきたと、漠然とした怖れを抱いたのではないかと思う。シンギュラリティを提唱したカール・ワイツによる本来の意味では、人工知能の進化が人間の知能の及ぶ範囲を超えることによって様々な技術的変化が引き起こされる変曲点(日本語訳では技術的特異点)を指すと言う。氏の予測によれば、今回の囲碁対戦のように人工知能が総合的な知的能力で人間を上回る事象は2020年代末に実現するとしていたが、それが早く実現したということであろう。この点で、氏の唱えた技術進歩の収穫加速の法則は的を射ていたと言える。
今回の実績で、囲碁においては今後ますます人工知能の優位が高まっていくであろう事は間違いないと思う。チェス、将棋に続き囲碁も人工知能が人間を追い越した訳で、知的ゲームの世界では人工知能の優位が確立した。これをどう感じるかは個々人で異なるであろうが、感情論を抜きに考えればこれらのゲームにおいて客観的な指標・ベンチマークが出来るようになると前向きに評価すべきであろうと思う。これまで、人間同士の対局での勝敗で優劣を決め、ランキングを付与していたものが、今後は人工知能を相手にすることで客観的な個人プレーヤーの実力を評価することができるのではないか。人間同士の対局によるランキングでは、その同時代のプレーヤーのレベルにより個人の実力ランクが決定する訳で、20年前の十段と今の十段では同じ実力か否かは判定のしようが無かったと言える。人工知能という安定したベンチマークができれば、年代を超えた実力判定が可能になると期待できる。今回の囲碁での人工知能の勝利については、この点で前向きにグッドニュースと捉えたいと思う。
話を戻して、技術進歩の収穫加速ついて考えてみると、我々の身近にも昔は想像さえしなかった新たな技術が氾濫している。方や人間の単独での仕業を見ると、太古の昔から進歩していないのではという例も多く感じられる。卑近な例で言えば、大英博物館を見学した際に強く感じたことがある。それは、芸術家にならなくて良かったということであった。何故ならば、多くの展示物の美しさや造型の見事さ、精緻な加工技術に圧倒され、現代の芸術家の習作より格段に優れているのではと感じたからである。つまり、人間そのものの進化は殆ど速度は持たず、現代人の生活の利便は人間を補助する技術に支えられて進歩しているに過ぎないという事であろう。この点を見ても、技術の進歩が人間の能力そのものを追い越すことは、その圧倒的な速度差からみて自明の事と感じる。
技術進歩について具体例で思うことが2つある。一つは原子力発電、二つはFCEV(水素自動車)である。原子力発電については、5年前の震災事故以来、強い逆風に見舞われて、すっかり悪者になってしまったが、存続論議の中で一つ欠けていることがあると感じている。それは技術進歩への期待である。安全を担保する新たな技術は必ず生まれると信じており、ここで一斉に廃炉・縮小に歩を進めれば、その希望の芽を摘み取ってしまうことになると思うのである。この点で、ワイツ氏の言う技術進歩の収穫加速を重く受け止めるべきと考える。
FCEVについては、トヨタに次いでホンダも今月から市販を開始したが、FCEVに将来性はないと感じている。それは、電池の技術進歩の収穫加速についての視点が欠けているからである。FCEVの駆動機構はEVそのものであり、EVとの違いは電力を外部から電池に蓄えて用いるか、水素を用いて車上で発電を行い電気を作り出しながら走行するかの違いでしかない。EVの普及が進まない大きな理由に走行距離の短さが挙げられているが、これは電池の技術進歩が加速すれば一気に解消することである。一方のFCEVは普及のために水素ステーションをゼロから新設する事が必要であり、車両とは別にインフラに膨大な費用を投じる必要がある。この点、EVならばどこの家庭・店舗にも電気は来ている訳で、インフラへの追加投資は水素の比ではない。冷静に考えれば容易に判ると思うが、発電所を自動車に登載するということは、一日の大半を車庫・駐車場に静置されたままの自動車に高額の水素発電機を搭載することは資源の大いなる無駄遣いである。EVならば単に電池に電力を蓄えるのみであり、そのコスト差は大きい。しかもFCEVにも安定した電力出力のために電池登載は必須なのである。FCEVがEVに勝てる目は全くないし、社会全体のロスという点でもFCEVは筋の悪い製品であろう。技術進歩の収穫加速を信じて、電池容量の飛躍的改良に期待しEVに集中するのが理に叶っていると考える。
技術進歩というものを冷静・正当に評価し、期待も持つことが肝要であると強く思ったニュースであった。
2016/3/17 15:00