台湾の総統選挙で民進党のツァイ・インウェン氏が圧勝した。
8年間の国民党マー・インチウ政権からの揺り戻しといった風景であるが、民進党の圧勝の背景は台湾公民の中国への警戒心が高まったことであろう。この意味で、昨年11月にマー総統が強行した、中国シー・チンピン主席とのシンガポールでの会談は国民党にとって方向性を見誤った行動であったと言える。政権末期には、このような大局を見誤った突出した行動はまま現れるもので、韓国イ・ミョンバク大統領も任期終盤の2012年8月に竹島に上陸、その直ぐ後には日本天皇への謝罪要求まで表明し、その後の日韓関係悪化を招いたのは記憶に新しい。マー総統も任期切れを控えて、何とか名を残そうとシー主席との歴史的会談を企画したのであろうが、会談ではさしたる成果はなく、単に中国に擦り寄る姿勢のみがハイライトされてしまったと見えた。台湾公民はこの自国総統の姿を見て、台湾としてのアイデンティティの危機を感じたであろうことは想像に難くない。あの時から、今回の選挙結果は見えていたと言えるだろう。
中国との距離感ということを考えると、マー総統が就任した2008年当時は、中国は年率二桁の経済成長を持続し、13億人を有する巨大市場として大きな魅力と将来可能性を存分に見せていたのである。マー政権が台湾の発展のために中国に擦り寄ることは、さほど違和感もなかったであろうし、台湾交民も経済面での果実のみが視野にあったと思う。いわば中国の衣の下にある拡張主義や、何年かかろうと台湾を併合するという強い意思を、敢えて見過ごしたということであろう。ところが、一昨年後半からは中国経済が変調を見せ始め、成長神話はもろくも崩れ去ってしまった。今では世界経済の波乱要因として、中国市場は五星紅旗ではないが、それまでのバラ色ではなく、赤信号の象徴とも感じられるようになってしまったし、市場経済発展とともにより民主的な国家となるであろうと期待した西欧各国も、中国の共産党一党支配の体制がより強化に向かっていることに懸念を強め始めている。遠く離れた西欧諸国と異なり、隣国である台湾にとっては中国の脅威はまさに頭上に迫っている訳で、台湾公民、特に将来ある若い世代が最近の中国の行動に危機感を抱くのは当然であろう。古い世代はビジネス面での、いま目前にあるメリットの方を優先し勝ちであるが、若い世代は経済的恩恵をいま受けている訳ではないし、経済的メリットよりは将来の自由を失うことの方が余程大きな関心事であることは当然であろう。
今回の台湾の政権交代は中国の経済変調がもたらした結果であろうと考える次第であるが、台湾にとって国の存亡という抜き差しならぬ事態に陥る前に気付かされたことは長い眼で見て幸いであろうと思う。台湾に限らず、今後も中国との関係を見直す動きが世界中で勃興するであろう。一言でいうと、『金の切れ目が縁の切れ目』といったところだろうと思う。
2016/1/17 14:00