VWのディーゼルエンジン不正問題の背景が徐々に明らかになってきた。(一番情報の多いのはAutomotive News Europeのwebサイトであろう、毎日2,3本は記事が掲載されている)
先のブログで書いた通り、VWの単独確信犯であったことは、すぐに白日の下になったが、発信元の米国とVWのお膝元である欧州で新たな事実も続々と明らかになってきた。諸事実のトレースは豊富なメディア報道に任せたいが、現段階までの情報から見通せる、この問題の影響を考えて見たい。
先ずは、VWの企業としての行方である。今回の問題による損害額は少なくとも数兆円から十数兆円にも及ぶ可能性があり、2014年の売上27.1兆円、営業利益1.7兆の同社にとって、このような巨額の一時的な損失を負担することは財務的に困難であろう。これだけの巨額な負担に耐えうるのは国家しかない。金融危機後の米国GMと同様に、一時的に国営化しドイツ政府の資金による救済が必要になる可能性が高いのではないか。一時的な財務危機さえ乗り切れば、自動車という商品の性格上、またVWの長年築き上げてきた技術力・ブランド力は高く、車の販売は徐々に回復するのは確実と考える。従って、VW車の供給者としての存続はゆるぎないであろうが、政府からの注入資金の返済にどれだけの年数がかかるかは予見できない。
となると、この返済期間中はドイツ政府の固定化した負債が膨らむ訳で、EU内での経済優等生の地位は低下し、発言力も弱まらざるを得ない。10/8のEU会議でメルケル首相が、「この問題を自動車産業全体の問題ととらえないで欲しい」と発言したのも、EU他国への悪影響が出るとドイツのEU内での立場が低下することを懸念しての事と見える。EUからギリシャ財政危機への支援も、大スポンサーのドイツに余裕がなくなれば、大盤振る舞いはできなくなる。この意味で、事はドイツ一国に留まらず、EU全体に影響をもたらすであろう。先のブログで記した、米国との力関係も変化するのは明らかである。
加えて言えば、VWの市場シェアが高く、同社の売上の大きな部分を占める中国での動向も注視すべきだろう。幸いディーゼルエンジン車は殆どなく、直接の被害はないが、全社に占める中国の比率が更に高まることで、中国政府のVW、及びドイツへの関与が高まる可能性もある。あり得ない話ではあろうが、VWの財務危機への援助と称して、今のVWの中国での合弁資本を中国側が買い上げるとの提案さえ、今の中国政府ならしかねないと思う。当然のことながら救済策なので、資本が抜けても技術的には未来永劫供与を続けるといった不平等契約となるのも容易に予想できる。
また、自動車の環境規制・燃費規制についても、少なくとも欧州では見直しを迫られるのではないか。既にディーゼル車の比率が過半を占める欧州で、ディーゼル車のNOx削減と燃費の両立はこれ以上の改善が難しいことが明らかになったことで、既存の規制強化スケジュールは見直しが必要となるであろう。さもなければ、自動車メーカー側の諸般の事情から普及が大きく遅れている、EVの普及を前倒しせざるを得なくなると思われる。資源上の制約から、いずれ内燃機関による自動車は姿を消さざるを得ないのは既定の事実であり、次世代が電動となるのも間違いない。問題はいつからという事でしかなく、純技術的には、あとはエネルギー密度の高い次世代電池の登場を待つだけのところまで来ていると思う。
環境に敏感で、市民の意識も高い欧州であるから、EV化の前倒しに向かう可能性の方が高いかも知れない。一部ではハイブリッド車の比率が高まるのではとの観測も出ているが、ハイブリッド車はあくまでEVへの繋ぎの技術であり、ディーゼルの代替として今から手を付けるメーカーはないであろう。後追いでハイブリッドに投資するよりは、EVに投資し一歩でも早く覇権を狙うほうが利に叶った判断となる筈である。
そんな訳で、今後はドイツの国際関係、欧州の環境規制、EV化への道のりに変化が出てくるであろうと考えた次第である。
2015/10/10 17:00