VWがディーゼルエンジン排ガス規制の不正で揺れている。
最初の報道を聞いて、あのVWがそんな馬鹿げたことをするとは、と俄かには信じられなかったが、その後の報道で事実関係が徐々に明らかになるにつれ、確信犯であったことが浮き彫りになってきた。極めつけは、そのソフトウェアの開発依頼を受けたBOSCHがVWに対し、このソフトウェアは実車に登載すれば違法になると通告していたことである。当初は、共同開発したBOSCHも共犯であろうと思っていたが、この事実によりVWが確信犯であったことが決定的になった。このような、企業としてのモラル欠如は自動車という高額商品、それも命を預ける商品にとっては致命傷となるであろう。VWは正に存亡の危機に直面してしまったと言える。
今後、各方面へ影響が広がって、どんな副次的波紋を起こすかは予見できないが、想定される最大の影響は、ドイツと米国との国家関係にまで及ぶ可能性もあるであろう。数年前にメルケル首相の携帯電話が米国国家安全保障局により盗聴されていたとして、首相がオバマ大統領に強烈に抗議したことがあったが、今年6月にドイツ司法当局が証拠の立証はできないとして訴追を断念したばかりである。この間オバマ大統領が負い目を負ってきたのは事実であろうが、今回のVWの問題でメルケル首相とオバマ大統領の立場が逆転するのではないかと見える。
また、この問題は幾つかの示唆も与えてくれる。その一つは自動車の電子化の急速な進展に周辺、特に規制が追いついていないことである。従来の排ガス検査がメカニカルな作動のみを前提にしていたために、今回のソフトウェアによる違法操作を見逃す結果に繋がったのであろう。無論、前提となる企業のモラルが守られていなかったのが主因ではあるが、検査手法にも落ち度があったと言われても仕方がない。規制というものは一度設定してしまうと、それが唯一無二の犯さざるべからぬものとして、神聖視されてしまいがちである。世の中の変化に遅れてしまうのは、それ故であろう。まして今まで考慮さえしていなかった、ソフトウェアによる違法操作については完全に抜け落ちてしまったと見える。
二つ目は、ベンチテストそのものの是非である。古くからある一番ポピュラーなベンチテストは燃費であろうが、今では誰もがテスト燃費と実用燃費に大きな差があることを知っている。それでも各国では目安としてモード燃費を設定・評価し公表している。そのために、自動車メーカーはモード燃費を最大化することに血道をあげ、いろいろな手法を用いて0.1km/l でも高い数値を得られるようにチューニングを施している。これにより、実際の車の使用時における快適性が犠牲になっている側面は否定できないであろう。自動車メーカーにとっては、表示燃費で他社に劣ることは販売前線での劣勢に繋がるので、実用特性を犠牲にしてもモード燃費を高くしたくなるのは止むを得ない面はあるが、メーカーの矜持として、例えライバル車にモード燃費がコンマ数km劣っても、実用域での快適性を最大化するチューニングに徹して欲しいと思う。
最後に、これは根拠のない単なる偶然ではあろうが、世界一の自動車メーカーという視点で見ると、長く世界一であったGMが金融危機で破綻・倒産し、それに替わったトヨタが過去にない大規模リコールに見舞われ、それを追い越そうとしていたVWが、トヨタのリコールの比ではない今回の問題を起こした。「驕る平家」ではなかろうが、なにやら因縁も感じざるを得ない。
2015/9/29 10:30