FCVについては、トヨタの量産発表を受けて昨年6月4日に本ブログにアップしたが、再度取り上げたい。
その後の展開としては、ホンダが発売を延期したこと、トヨタMIRAIが生産計画を上回る受注を受けて増産の意向を示したこと、水素ステーション普及のために日本政府が助成策を検討開始したこと、ルノー日産とともにEVのリーダーである米Tesla社のマスクCEOがデトロイトのフォーラムでFCVを酷評したこと、等々があった。
当方のFCVの社会的合理性についての疑義には、6月のブログ掲載内容から、いささかの揺らぎもない。今回は、上記のその後の事象について記してみる。
先ずは、ホンダの発売延期。これはトヨタとホンダとの企業財務ポジションの違いが大きいと思う。トヨタは過去最高の利益を出しているが、一方のホンダはリコール問題が後を引いて新型車の投入を控えるなど、業績は好調とはいえない。トヨタはMIRAIに約800万円の車両価格を設定したが、恐らく1台あたり百万円単位の赤字であろうと思う。数年前に1億円を下らないと言われたFCVが、1/10以下になったという納得できる理由は見当たらない。トヨタもコストダウンの明細を示さず、赤字額も明らかにはしていない。トヨタは衆知のごとく、1円を惜しんでコストダウンに取り組み利益を最優先する企業である。そのトヨタがFCVで巨額の製品赤字を抱え込むのは、企業として一貫していないようであるが、広告宣伝費と考えれば腑に落ちるであろう。MIRAIは決してトヨタの製品系列の範疇ではなく、広告宣伝素材の一部なのである。そう考えれば、あの面妖なボディデザインも、看板と考えれば納得がいく。最初のプリウスがそうであったように、トヨタはMIRAIが多量に売れては困るのである。初代プリウスも車として酷いボディデザインであったが、あれは意識して醜い姿とし、販売の伸びを制限したのであろう。トヨタにとって最初のハイブリッド車の意義は、一般ユーザーの実使用による製品モニタリングであった筈で、そのためには数百台で十分であった。その後、ハイブリッドシステムのコストダウンが徐々に進んだことで、売れても商売になるようになり、二代目、三代目とデザインは洗練されてきた。
ホンダとの違いというと、もう一つ対照的な事がある。トヨタは水素自動車と呼ぶが、ホンダは水素電気自動車と呼んでいる。これは何としてもFCVをEVの先を行く未来車と位置づけたいトヨタと、技術に正直なホンダの違いと言える。FCVは駆動システムにおいて、正に電気自動車であって、EVとの相違はエネルギー源の電力を外部から電池に蓄えるか、車上で発電するかの違いでしかない。ホンダが水素電気自動車と呼ぶのは当然のことであって、トヨタが「水しか排出しない究極のエコカー」と呼ぶのは誇大広告どころか詐欺に近いと思う。
次にMIRAIの受注が1ヶ月で1,500台に達したこと。発表によると、内訳は個人が40%超との事であるが、水素ステーションも普及していない現状で一般ユーザーが購入するとはとても信じられない。地域別を見ると愛知県がトップの720台で、3位が福岡県150台と、トヨタの地元が過半を占めている。関連企業がトヨタへの忠誠の証として、社有車では見え見えなので、社長名で購入している姿が垣間見えるように思える。MIRAIの当初計画では年間販売は400台であったから、恐らく手造りに近い製造体制であったと思う。思わぬ受注を受けてトヨタは増産を検討すると発表したが、恐らくトヨタは本気では増産はしないであろう。購入希望者を精査し、関連企業からの受注分はバックオーダーのまま放置しておくと思われる。
水素ステーションについても難問山積と言える。政府は多額納税企業であるトヨタへの配慮からか、水素ステーション普及へ向けて規制緩和や助成金まで検討をするらしい。しかし、ガソリンスタンドの数倍の設置コストで、せいぜい地域で百台程度のFCVに水素ガスを供給するのでは大赤字は免れない。事業として全く存立可能性はないと言える。それでも2,3社が水素ステーション事業に前向きの姿勢を見せているが、これとて設置費用の外にも運営費用にも巨額の助成金が必要となるであろう。問題は政府の助成金無しにビジネスが成立する時期が見通せないことにある。恐らく1つのステーションのカバー地域で数千台のFCVがなければ商業的に成り立たないと思われるが、そのためには補助金まみれの車両を大量に販売しなければならない。先に述べたトヨタの事情も鑑みると、そうそう車両販売に弾みがつくとは思えず、一方の水素ステーションは初期投資が嵩むので、時間軸が全く合ってこない。10年以上も赤字を垂れ流し、補助金で穴埋めする事業が成立する訳は無く、税金の使途としても社会的不公平とのそしりを免れないであろう。
最後にTeslaイーロン・マスクCEOの発言であるが、氏の言はFCVへの誤解を指摘したものである。氏はFCVはEVの一部であり、決してメディアが騒ぐような新規性のあるものではないと発言したのであって、FCVは自社のEVを脅かす存在ではなく、エレクトリックドライブという共通の技術基盤の上にあると言っている。氏にとっては同じEVの範疇で、Teslaは電池に賭けたのであり、トヨタが水素発電機に賭けるのは企業としての選択であり、勝手でしょうと言うことである。その上で、氏は当然のことながら自社の判断は正しいと発言する訳であり、何の敵意を持ったものでもないと思う。
いまだにメディアの中にはFCVに新たな提灯をつけるところが多くあるが、敢えて大げさに言えば、日本の自動車市場をガラパゴス化することは将来の国力をそぐ事になると思う。ただでさえ、世界で通用しない軽自動車の比率が4割を超え、いびつな市場となっている日本市場がFCVで更に孤立化するのは避けるべきであろう。日系自動車メーカーが世界で存在を高めていくには、世界に通用する技術基盤に立脚しなければならない筈である。この意味で、既に市場が立ち上がり、海外主要メーカーも参入を競っているEVの普及を国内でも優先するのが筋であると強く思う。