イネです。もう大方の地方では出穂も終わり、それどころか稲刈りの済んだ地方も少なくありませんね。
ウチは晩生系が多いので、今時期は前半の早生、中生系の開花が終わり、これから晩生系の本番に入る所です。
これ、「愛国」です。コシヒカリの元になった品種の一つです。
「コシヒカリ」はその曽祖父母世代に近代の主要品種が色々入っています。
曽祖父母ですから、8品種なければならないのですが、イネの場合は「純系選抜」で次の品種が作られる事も多いので、3組の交配育種と1つの純系選抜で、以下の7品種があります。
(銀坊主 x 朝日)、(上州 x 撰一)、東郷2号、(陸羽20号 x 亀の尾4号)
カッコで括ったものが交配組み合わせです。
で、祖父母世代が
(農林8号(銀坊主 x 朝日) x 農林6号(上州 x 撰一))、(森多早生(東郷2号から選抜) x 陸羽132号(陸羽20号 x 亀の尾4号))
で父母が
農林22号(農林8号 x 農林6号)と農林1号(森多早生 x 陸羽132号)
その子が「コシヒカリ」と言う事になります。
えっ?「愛国」がないッて?そうなんです。曽祖父母世代まで遡っても「愛国」は出てこないんです。
「愛国」はそのもう一つ前の世代なんです。曽祖父母世代の「銀坊主」と「陸羽20号」が「愛国」の純系選抜、つまり「愛国」の自家受粉後代から選抜育成された品種なんです。
「銀坊主」と「陸羽20号」は私は未だ栽培した事がありませんので、親の「愛国」とどれくらい違う品種なのか分かりませんが、コシヒカリの曽祖父母7品種の内の2品種、率で言うと30%近くが「愛国」由来なのです。
つまり「コシヒカリ」は「愛国」のDNAを色濃く受け継いでいると言う事です。
「コシヒカリ」は耐冷性の強い品種と言われています。
従来その耐冷性は「亀の尾」から受け継がれたと言われる事が多かったのですが、この「愛国」も耐冷性の強い品種で、今では「コシヒカリ」の耐冷性には「愛国」の貢献が大きいとも言われています。
「愛国」は禾(ノギ)の赤い品種で、最近の禾の無い品種や色の付いていない品種を見慣れていると、色のある穂は賑やかな感じがします。
穂全体がぼんやり赤く染まります。
丈夫で病虫害に比較的強く、収量も多く、寒さに強く、東北で晩生、関東で中生、東海以西で早生と言われています。味はあまり良くないと言われていますが・・・・
私は結構美味しいと感じました。甘みがあって口当たりも良かったです。
出穂期はこちら(広島県西部、標高300m、やや冷涼な気候)では、中生で「コシヒカリ」より10日くらい遅い感じでした。
で、表題の「選抜」の話ですが、今年作付けた「愛国」は小さな試験田に3列、70株程度作付けたダケなんですが、結構「変異株」が出ました。
「変異株」と言うより、在来種は元々固定度が低いのでバラつくのが普通なんですよ。
その上、私は面白がって「いい加減な所」から種籾を入手しますから、余計に変わったのが出易くなります。
「いい加減な所」と言っては失礼ですね、怪しいコメを買うワケじゃありません。
ただ「種籾」として栽培されたものではない、普通の食用の籾を買うんです。
そう言う食用として売られるコメは、「種籾」みたいに「原原種圃場」から品種特性のはっきりしたものを選び出し、それから種籾を採種して、翌年「原種圃場」で栽培して、特性の異なるモノが出たら取り除いて「間違いなく「愛国」の特性を持っています」って奴だけにして「種籾」として販売する普通の種籾販売とは違って、何もせずにフツーに栽培されたコメなので、その方が変異を含んでいて面白いのです。
元々の在来種が持つ多様性に加えて、他の様々な品種のイネも栽培されている水田地帯で栽培されると、いくらかは交雑も起こるので、花粉親の分からない雑種も出るのだろうと思います。
で、今回は先ず一番見つけ易い「出穂期」の変異です。
ほら↓分かりやすいでしょ?
まわりが皆んな首を垂れているのに、一株だけ、真っ直ぐ突っ立ったのが居ます。
時々、全校集会みたいので、「着席ッ」って言われてるのに、1人だけボーッと立ってるバカが居たりしますけど、あんな感じです。
他が全部垂れ下がってる時に、未だ直立しているのは出穂が遅かった株ですから、「晩生変異株」の可能性が高いでしょう。
コレはとっても見つけ易くて、田んぼ一面が出穂完了して一週間から10日くらい後にザーッと見回すと、出現していたらひと目で見つかります。
逆に「早生変異株」は、皆んなが未だ穂を出していない内にいち早く出穂する株を見つければ良いワケです。
但し、見つけたらそれが必ず晩生や早生の品種として固定できるかどうかは、その株から採種して来年100株程度でも栽培してみて、出穂期の変異が引き継がれているかを確かめてみなければ分かりません。
翌年から元に戻っちゃう場合もありますからね。
でもまあ、こんな出穂期の変異は発見し易いので、目に付いたらダメ元で選抜して見ると面白いと思います。
今回の「愛国」は栽培株数が少なかった割には変異が良く出て、こんな白髪の奴も出てきました。
これは草丈が10cmくらい高く、穂が大きく、禾が白い昔の古代米みたいな風貌の個体です。
こう言うのも、ルックスだけでも結構面白いでしょ?
コッチ↓は逆に草丈が10cmくらい低くて小粒の禾の無い澄んだ淡緑色の穂をだすコンパクトな個体。
「愛国」からは禾の無い「銀坊主」と言う品種が生まれていますから、コレもそう言うタイプなのかも知れません。
ガーデニングでの、バラや椿などの花木や、ペチュニアや朝顔の様な草花の花を愛でる人は多いですけど、なかなかイネの穂みて喜んでる奴は居ませんね。
家業が農家の方は普通にイネも作って居られるでしょうから、田んぼの端とか面積の小さい細切れの田んぼとか使って、色んな品種を作ったり、自分で選抜したオリジナル系統を育成したりすると、結構面白いです。
イネや麦の様な栽培の歴史の古い植物は、広い地域で様々な気候の下で栽培され受け継がれて来ていますから、色んな遺伝子を密かに蓄えているんですね。
探してみると、意外な個性が見つかるかも知れませんよ。