品種紹介です。「岡山朝日」です。
「岡山朝日」は在来種ですが、他の在来種とは違ってずーっと選抜改良されながら現在まで第一線で栽培され続けている現役品種です。
戦後から現在に至る我が国のイネ品種は、皆んな、ソレまで各地で栽培され選抜を繰り返されて来た在来種同士を掛け合わせ、その子孫から更に優良な形質のモノを選抜して育成された「交雑育種法」の成果として生まれた品種です。
現在、最もたくさん栽培されている「コシヒカリ」には「亀の尾」「愛国」「旭」「神力」など各地で選抜されてきた在来種の血が集積されています。

ところが、この「岡山朝日」だけは、各地の優良系統を掛け合わせイイトコドリしたモノではなく、京都で発見された変異株から何代も何代もずーっと選抜を繰り返す事のみで改良育成されて来た生粋の純系品種、つまり本当の意味のサラブレッドなのです。

経緯は、先ず「旭」の発見から始まります。
1908~9年に京都の篤農家山本新次郎氏の田んぼで栽培されていた「日ノ出」の中に2穂だけ倒伏していない株が発見されました。
そこから育成が始まった訳なのですが、ある資料にはその「日ノ出」を作付けていた田の隣では「神力」を作っていたと書かれています。
コレは私の勝手な想像なのですが、中生の「日ノ出」から変異して、晩生、強稈、多収、良食味の「旭」が生まれたのですから、隣の田で栽培されていた「神力」と「日ノ出」が自然交雑したのでは?と深読みしてしまいます。
「神力」は沢山穫れるけど味はあまり良くない品種(私は結構美味いと思ったけどね・・・)ですから、その晩生多収の性質を受け継ぎ「日ノ出」から味を受け継いだ・・・・?と想像したのですが、その「日ノ出」が実は「神力」から選抜された?と言う情報もあり、どうも情報が錯綜していてよく分かりません。
どうも日本人は「日の出」とか「朝日」とか言う名前が好きな様で、同名異品種もいくつかある様で、更に話はややこしくなります。

京都で見つかり育成された「旭」も、最初は「朝日」と言う字を当てていたそうですが、既に同名の品種があったので文字だけ変えて「旭」にしたのだそうです。コレが俗に言う「京都旭」です。
ところがその「旭」が岡山に持ち帰られ当地の気候にも合っていて作り継がれて行くのですが、その時既に「旭」と言う別の品種が岡山にあったそうで、今度は元に戻されて「朝日」と改名されたのだそうです。
ですから、現在岡山で栽培されているのは、「京都旭」から選抜育成された「朝日」、ここでは分かり易くする為に「岡山朝日」と呼びます。

その「岡山朝日」は・・・あ、その前に。
「旭」つまり「京都旭」は味が良かったので西日本を中心に爆発的に普及したのですが、色々「時の運」もあった様です。
当時の主力品種「神力」に比べて 容積重が重く、搗精歩合が2~3% 高かったのです。
その頃、米の計量法が容量から重量に変更されたのです。だから「神力」に比べて同じ嵩でも重さの重い「旭」が歓迎されたのだそうです。
それで急速に普及するとともに各地に更なる選抜品種が現れました。
各地で「〇〇旭」や「〇〇朝日」が育成された様です。ま、とは言ってもそんなに極端に違いがある訳じゃありませんけどね。
それで岡山でも京都から導入された「旭」から優良個体を選抜して改良系統が育成されました。

1925年に奨励品種に採用され同時に,岡山農試での純系選抜が始まり、1925年に6,800個体から104個体が選抜されそこから出た104系統から更に39系統に選抜されました。
その後1927年から1930年までに生産力比較試験が行われ、「朝日20号」「朝日47号」「朝日49号」の3系統が残されました。
最終的にその3系統の中から1934年以降に「朝日47号」が選ばれ、それが現在も「岡山朝日」として栽培され続けていると言う事の様です。
こうして現在の「岡山朝日」は非常に安定した品種となっています。
↓2021年の出穂時の画像です。向こうに見えるのは「コシヒカリ」の巨大胚芽変異の「カミアカリ」です。
「岡山朝日」の方が半月近く出穂が遅い晩生種です。だいたい9月上旬の出穂です。

ウチでは今まで「滋賀旭」の系統を栽培していますが、この「岡山朝日」に比べると、よりワイルドな感じです。
「岡山朝日」は揃いが良く、扱い易い印象でした。

痩せ田の遅植えなので出来は良くありませんが、病気も倒伏もなくとても行儀よく育ちました。

古い「旭」より、ノギは少なく全体に少しコンパクトな感じがしました。
肥沃な田ではもう少しアバれるかも知れません。

熟色も綺麗で、大粒、粒張りも良く、昔ながらの素性の良いコメです。

私の様な天の邪鬼には「旭」のワイルドさも捨てがたいのですが(変異の出現に期待する部分もあり)、普通に作るならコッチがお勧めです。
百年近くプロの栽培農家の厳しい目で選ばれ続けたキャリアは伊達ではありません。
味が良く沢山穫れる晩生イネ栽培を志す方は是非お試しください。